訓練生神通

深海さかな @dzurablk_kai

「神通さん、お願いだから・・・ｯｯｯ！！」 ・・・バタン、ガチャ 閉ざされる執務室の扉 その前で島風は崩れ落ちる 「そんな、お願いだから・・・」 だが、閉め出された島風に許されるのは、ただ無力感と罪悪感に苛まれ涙することだけだった・・・ #訓練生神通

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・・・それから、数日後のことだった 島風が自殺未遂に至ったのは・・・ #訓練生神通

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提督が病室に入ると、島風はベッドに寝たままぼんやりと天井を見上げていた 「・・・どうだ、調子は」 島風が黙って首肯する、その喉元には、そこに巻いていたであろう半長靴紐(はんちょうかひも、ブーツ用の一メートルほどの紐)の跡が生々しく残っている #訓練生神通

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その日、島風は洗濯物を干す洗濯室で、梁に紐を巻いて首を吊ろうとしていたところを当直として見回っていた阿武隈に発見され、一命を取り留めたのだ 今では医務室に入室(宿泊)して宿舎生活から距離を起きつつ、精神安定剤と抗うつ剤の投薬治療の最中だ #訓練生神通

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「・・・先生の話では、治療の効果が出るまでにもう少しかかるそうだ」 「そう、ですか・・・」 「まあ、のんびりやれよ」 提督は慎重に言葉を選びながら、努めて明るい声を掛ける 「・・・今日は前に頼まれてた、これを渡しに来た」 そう言って取り出したのは、除隊申請書だった #訓練生神通

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「今はまだ気持ちの整理もついていないだろうし、何よりお前は病人だ だからこれを今すぐ書いて出しても、俺は受けとらん」 島風は相変わらず、ぼんやりとしたままだ 「まずは身体と心を休めて、病気を直せ それまではいくら入室してても、休暇を取って田舎に帰っても構わん #訓練生神通

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籍は残したままにしておく」 「ありがとう、ございます・・・」 島風はおそらく作り笑いであろう、力なく笑う 「・・・今から一緒に、PX(購買部)でも行くか？ 外出して旨いもんでもどうだ？」 「いえ、遠慮しておきます・・・」 #訓練生神通

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提督は再度朗らかに語り掛ける 「なんだ、せっかくの奢りなのにな」 と、入り口でナースが覗き混んでいるのが視界の端に映った まだ自殺未遂から日も浅い 島風をそろそろ１人にしてくれ、との催促だろう 「気が向いたらいつでもケータイに連絡してくれ それと・・・」 #訓練生神通

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立ち去り際、提督は振り返ると一番大事な用件を伝え 「・・・また自分を傷つけたくなったら、いつでも呼んでくれ 殴ってでも止めてやる なんなら、そのまま殴り殺してやってもいい ただし、自ら死ぬのだけは何があっても許さん」 そのまま、島風の病室を後にした #訓練生神通

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それから数週間が経ち・・・ 島風は相変わらず医務室暮らしながら、様態は確実に回復していた もうかつてのような沈鬱な表情は消え、他の入室者に冗談を言って笑わせる光景もよく見受けられる そんな折、提督はとある人物を島風に引き合わせた #訓練生神通

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・・・島風の直属の指導教官にして、最も厳しく島風に恐れられていた、そして島風が自殺未遂に至る原因となったであろう人物・・・　 神通だ 提督から面会の件を聞いた島風はしばらく迷うもそれを了承し、提督は神通を病室に招き入れた #訓練生神通

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「島風さん、調子はとうですか」 「なんとかやれています」 受け答えはしっかりしているが、やはり島風の口調はいささか以上に堅苦しく、緊張感が滲み出ていた 「姉さんや那珂ちゃんも心配していました 元気になってくれてなによりです」 「ありがとうございます #訓練生神通

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すみません、ご心配をおかけして・・・」 「いいんです 今日は折り入って、お話したいことがあって来ました」 神通は椅子に腰かけると改まって姿勢を正す 「なんでしょうか・・・？」 「今の島風さんには、あまり気持ちの良くないお話かもしれませんが・・・」 #訓練生神通

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島風が神通の後ろに佇む提督を不安げに見上げる 「聞いてみてもいいんじゃないか　いやなら、途中でやめにしてもいいしな どうだ、神通」 「ええ、そうしましょうか」 こうして、神通の話は始まった 「今回お話するのは、私が今の島風さんのような訓練生だった頃のお話です」 #訓練生神通

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話は、数年前に遡る・・・ 「当時の軽巡寮は、まだ艦娘が少なかったこともあって、今の三水戦宿舎を使っていました 私と姉さん、那珂ちゃんは、その四期生です」 神通の話は、こうだった・・・ #訓練生神通

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「オラァ、さっさと走れぇ！！」 軽巡寮最古参の一期生、四年兵の天龍の罵声が廊下にこだまするのを聞く余裕もなく、神通たち川内型三人は廊下を走る 時刻は朝の６時、起床ラッパが鳴った直後 目的地は、軽巡寮前の広場だ #訓練生神通

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廊下のドアから二年兵の長良型や三年兵の球磨型の面々が、眠そうな顔でのんびり歩く中、最下級生の川内型だけがTシャツにオリーブ色のズボン姿で、乾布摩擦用の白タオルを手にひた走る #訓練生神通

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このあと舎前(寮の正面広場)でオコナワレル日朝点呼(にっちょうてんこ)のために、なにがなんでも上級生より先に舎前へ出なければならない 一番先に玄関を飛び出したのは、一番足の早い川内だった 「かしらーーーー、みぎーー！！」 整列位置に着くや否や、号令調整を開始する　 #訓練生神通

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そうして次は神通、那珂と行進や訓練で使う号令を叫んでいくうちに、球磨型や長良型の面々も、前から学年順に四列横隊で整列、真冬の寒さの中で震えながら乾布摩擦で身体を暖める 「軽巡たーい、気をつけ！！」 こうして朝の点呼は執り行われた #訓練生神通

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点呼が終わると軽清掃の時間だ 三人はまた全力疾走で部屋に戻り清掃用具を取り出すと、三人は洗濯室やトイレ、廊下など各々の受け持ち場所へ駆けていく ここでは清掃長の二年兵、長良型の指揮下に入り、時にはしばかれながらも清掃を行う それが終わると休む間もなく自室の清掃だ #訓練生神通

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清掃を一式終わらせた所で、今度は伝達の放送がかかった 「おら、一年兵はメモを取れ！！」 川内たちは怒鳴られながらもあわてて廊下へ出てメモとペンを取り出す どうやら、シーマ作業に変更があるらしい #訓練生神通

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宿舎では一ヶ月(※筆者注、多分一ヶ月だったと思う)に一回、ベッドのシーツと枕カバーをクリーニングに出す 大抵火曜日に行われるシーツ・枕カバーの全部屋からの回収は、通称シーマ作業と呼ばれていた もちろん、このような雑用は一年兵の川内型の仕事だ #訓練生神通

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そうした細々とした雑用を次から次へと、文字どおり立ち止まる暇もなく、全力疾走でこなしていく 最も、廊下で歩いていたりしようものなら「弛んでいる」と二年兵に呼び出され、しばかれるのがここでの通例だ ようやく川内たち三人が朝食にありつくことができたのは、起床から #訓練生神通

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一時間以上経ってからのことだった 三人は隊列を組み駆け足で食堂に赴くと、セルフ形式のお盆を取り、三人並んで席についた 「あー、疲れたー」 ぐったりとしている川内の横で、那珂が食パンの白い部分だけをくりぬいて野菜ジュースで流し込むようにがっつく 時間短縮のためだ #訓練生神通

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「ねえ川内ちゃん神通ちゃん、このあとアイロン台借りていい！？ 校内服のプレス(＝アイロンがけ)まだ終わってなくて！」 「あー、いいよー」 恐らくはパンに挟んでホットドッグみたく食べるてあろうウインナーを、パンとは別に口に押し込みながら川内 これも貴重な時短術である #訓練生神通