茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第1588回「本について」

脳科学者・茂木健一郎さんの8月27日の連続ツイート。 本日は、本のこと。
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茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート1588回をお届けします。文章はその場で即興で書いています。本日は、本のこと。

2015-08-27 08:32:31
茂木健一郎 @kenichiromogi

このところ、本、それも特に「紙」の本がどうも愛おしくて仕方がない。そのような心の変化がどうして起こったかと言えば、いろいろあろうが、ネット全盛時代になって、目の前を行く「フロー」の情報の奔流に、かえって、時代を経ても動かない本質情報への希求が高まっているのではないか。

2015-08-27 08:34:09
茂木健一郎 @kenichiromogi

一冊の本が、人生に深く影響するということは確かにあって、高校の時に『悲劇の誕生』を皮切りに読んだニーチェの著作は、間違いなく今の私の血肉になっている。とりわけ、「舞踏」(Tanzen)という概念は、私が今日々生きる上でのバックボーンを形成していると言ってよいだろう。

2015-08-27 08:35:14
茂木健一郎 @kenichiromogi

ニーチェの「舞踏」は、意味の魔にとらわれないための生命原理として高校生の私は読んだ。人間は、つい、人生の意味はこうだとか、目的はこうだとかいう水準で考えがちである。そうではなくて、意味を問わず、「今、ここ」に没入すること。そんな態度を、私は「舞踏」から読み取った。

2015-08-27 08:36:28
茂木健一郎 @kenichiromogi

ここで大事なのは、ニーチェの「舞踏」が、彼の神や生命に関する哲学、人間心理に対する洞察の森の中から聞こえる木霊である点である。もし、「意味を問わず、今、ここで踊れ」というメッセージが、例えばビジネス書の文脈で書かれていても、このような永続的影響は与え得なかったろう。

2015-08-27 08:37:43
茂木健一郎 @kenichiromogi

また、ニーチェの「舞踏」は、認知科学の文脈で言えばチクセントミハイの「フロー」にも接続するし、アスリートにとっては「ゾーン」となる。そのような概念群とは違ったやり方で、高校生の私の心に「舞踏」(Tanzen)という概念をスルリと滑りこませたのは、結局は本の力であった。

2015-08-27 08:38:48
茂木健一郎 @kenichiromogi

本は一生ものだと思うが、その価値や効果は、数値化できるものではない。書評サイトの星の数や、売上部数で決まるものでもない。本の意義は、本質的に数字で表せないところにある。その点において、本は、ひとりの人間の存在感に近い。良い本は、人間の写し鏡なのであろう。

2015-08-27 08:40:14
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート1588回「本について」をテーマに、6つのツイートをお届けしました。

2015-08-27 08:40:51