【忍殺テキストカラテ】「デディケイト・トゥ・ア・ガール」

ザクロさんのクッキング、ヤモトさんのエプロン姿と、ザクロさんのヤモッちゃんへの想いを妄想したテキストカラテ。スシ・ソバ食べてみたいです。
0
赤い方の蟹 @kaori6113

【忍殺テキストカラテ】「デディケイト・トゥ・ア・ガール」

2015-10-13 21:50:01
赤い方の蟹 @kaori6113

歓楽街・ネオカブキチョの一角、ニチョーム・ストリート。セクシャル・マイノリティのアジールであるこの通りも、ウシミツ・アワーを過ぎると客はまばらだ。軒を並べる店が徐々にシャッターを降ろし、街は寝静まっていく。ゲイ・バー「絵馴染」も店を閉めたが、台所にはまだ明かりが灯っていた。1

2015-10-13 21:50:29
赤い方の蟹 @kaori6113

「早く降りてらっしゃいよ」その男はエプロン姿で腰に手を当て、階段に向かって優しく声をかけた。そう、男である。降りてきたのは同じくエプロン姿の少女、ヤモト・コキだ。エプロンにはバイオ・イチゴの模様、胸元にミンチョ体で「ポポロ・チョコは味が不可分な」の文字。少し恥ずかしそうだ。2

2015-10-13 21:50:42
赤い方の蟹 @kaori6113

「さて始まりました、ザクロ=クッキング、本日のテーマは『肌寒い深夜、身体と心を労るザクロ特製スシ・ソバ』」。ザクロはおどけた調子でステンレスの調理台に包丁や鍋を並べる。金属製トレイにはバイオマグロ、バイオコメ、ソバ、バイオネギ、金ショウガなどが並ぶ。3

2015-10-13 21:50:59
赤い方の蟹 @kaori6113

「夜食用だから具は少なめ、金ショウガを効かせる。さ、いらっしゃい」ヤモトの目がドージョーの稽古めいた真剣味を帯びた。「オネガイシマス」。一心にスシを握り、バイオコンブとカツオのダシをとるヤモトを、長身のザクロは黙って後ろから見守る。4

2015-10-13 21:51:26
赤い方の蟹 @kaori6113

「ダシの味付けはこれでいい。あとは茹でたソバを入れて、ネギと金ショウガ、スシをトッピングしたら完成」できあがったスシ・ソバを、2人はバイオバンブー製のカウンターで食べ始める。5

2015-10-13 21:51:45
赤い方の蟹 @kaori6113

「うん、金ショウガの量が多めだけど、身体が冷えている時はこれくらいがちょうどいいわ。あとは片づけておくわね。今日は早起きさせちゃったから」「ねぇ、ザクロ=サン」ヤモトはおずおずと切り出した。「アタイ、本当にお店に料理出せるようになるかなぁ」6

2015-10-13 21:52:08
赤い方の蟹 @kaori6113

「ダイジョウブよ。アータはなんでもちょっと心配し過ぎ!そのうちできるようになればいいんだから」。そう、この料理教室はヤモトが店の調理担当をするための訓練の場である。ヤモト自身が申し出たのだ。しかし、ザクロはその先のことも考えていた。7

2015-10-13 21:55:26
赤い方の蟹 @kaori6113

ザイバツ・シャドーギルドとアマクダリ・セクト。ネオサイタマをめぐる両者の衝突は、日に日に激しさを増している。ニチョームはザイバツと協定を結び、ザクロのニンジャの力で自治を維持して勢力争いから逃れてきた。が、それもいつ反故にされるかわからない、極めて危うい状況だ。8

2015-10-13 21:55:39
赤い方の蟹 @kaori6113

ザクロはこれまでたった1人でニチョームを、そこで生きる人々を支えてきた。治安の維持だけでなく、「絵馴染」で多くの人の話を聞き、ともに怒り、悲しみ、笑ってきた。ニチョームにはそんな店が必要だ。そして、ニンジャの力が。9

2015-10-13 21:56:00
赤い方の蟹 @kaori6113

ニンジャソウルを若くして身に宿し、苦労を続けてきた少女。ニチョームが彼女の居場所にはなれないだろうか。その想いはしかし、今はザクロ一人の胸の中にある。「よくがんばったわ。このスシ・ソバ、合格よ」10

2015-10-13 21:56:16
赤い方の蟹 @kaori6113

「ザクロ=サン……」スシ・ソバの汁を飲み終えたヤモトの目にうっすら涙が滲む。「モー!アータったら泣いてるの、こんなことぐらいで!ホラ、さっさと拭きなさい」ザクロは白い麻地のハンカチを差し出した。  その時、突然店のドアが勢いよく開いて、一人の男が入ってきた。11

2015-10-13 21:56:35
赤い方の蟹 @kaori6113

「スッゾラァー!!」叫ぶ男の足取りはしかし、おぼつかない。顔は赤く目が充血し、ひと目で酔っぱらいとわかる。右手には包丁。ヤモトは固まったまま、受け取ったハンカチを握りしめた。「アイツはココか」12

2015-10-13 21:56:50
赤い方の蟹 @kaori6113

「来てないわよ。マイコの来る時間じゃないし、店はもう閉めた」突然の乱入者にザクロはびくともしない。眉を少し上げただけだ。「今はプライベートよ。帰ってちょうだい」「ここにいるんだろう!さっさと出せ!」男は凄んだ。13

2015-10-13 21:57:09
赤い方の蟹 @kaori6113

「ザッケンナコラー!!」ザクロが叫び、素早く立ち上がった。その長身に男が怯んだ隙をついて、手首を内側から蹴り払う。包丁が跳び、脇の壁に突き刺さった!「アイエエエ・・・!!」ザクロはゆっくりと男に近づく。男は仰向けに尻餅を付き、後ずさる。14

2015-10-13 21:57:25
赤い方の蟹 @kaori6113

ザクロは壁の包丁を抜き、サラシを固く巻いて男の懐に入れた。「もう使えないけど、持ってって。今のうちに帰りなさい」その目は冷たく澄んでいる。男は尻餅をついたままの姿勢でドアの敷居を跨ぎ、しめやかに失禁したまま去っていった。15

2015-10-13 21:58:01
赤い方の蟹 @kaori6113

「あーあ、くだらない奴のせいで食事が台無しよ。こないだのマイコのオトコなのよ。モスキートがダイブ、ええと、とにかくミヤモト・マサシのアレよ。殺してやりたいけど、ああいうのは殺したって死にゃしないわ」「うん」ヤモトは少し笑った。「さ、ゴミ出し手伝って」2人は店の外に出た。16

2015-10-13 21:58:15
赤い方の蟹 @kaori6113

ニチョーム・ストリートは夜明けを迎えようとしていた。部厚い雲の隙間から朝陽が時折差し込み、薄暗い街の汚れた看板やゴミ箱のバイオ・キャットを照らし出す。ヤモトは今日もゴミ箱を抱えて立ち止まり、明けつつある空と街を眺める。ザクロもいつもの街並みと、少女の小さな背中を見つめる。17

2015-10-13 21:58:31
赤い方の蟹 @kaori6113

通りの向かいのポルノ・ショップ「真剣味」の方角から、キリシマ=サンが歩いてきた。ザクロの顔が引き締まる。「どうしたの」「たいしたことじゃないんだが、マイコが1人俺の家に来てる。オトコから逃げてきたみたいだ。店に入れてやってくれないか」18

2015-10-13 21:58:51
赤い方の蟹 @kaori6113

「もう、ホントしょうがないわねえ!寝不足でお肌が荒れちゃうじゃない。いいわ、店へ来るように伝えて」ザクロはそう応え、ヤモトに言った。「眠いところ悪いけど、スシ・ソバをさっそく作ってやって」「うん!」ヤモトは嬉しそうに応え、店の中に足を踏み入れた。19

2015-10-13 21:59:13
赤い方の蟹 @kaori6113

【忍殺テキストカラテ】「デディケイト・トゥ・ア・ガール」終わり

2015-10-13 21:59:40
赤い方の蟹 @kaori6113

【補足】※時系列的には「シージ・トゥ・スリーピング・ビューティー」の後という設定。「ニチョーム・ウォー」以後を読んでいない状態で書いています。ほとんどブッダなザクロ=サンなら、こういうこともあったのでは?という話です。ザクロ、ヤモトさん好きな方、不快に思われたらすみません。

2015-10-13 22:03:22