【ミイラレ!第二十話:大百足のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。早期決着を目指そう。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/888897
0
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十話:大百足のこと】 #4215tk

2015-10-19 18:30:00
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

地下。そこに広がるのは厳重に秘匿された結界である。下半身が蜘蛛の異形となった怪異……紺野軒 颯(こんのけん はやて)は背に舞を乗せたまま足早に闇の中を進む。暗闇など問題にならない。ここは彼らの即席の巣だ。町の地下を網羅するまで拡大するには多少の時間を要したが。1 #4215tk

2015-10-19 18:33:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

やがて視界が開け、仄かな明かりが満たす空間が彼らを出迎えた。「今戻った」「お疲れ様ー」低い颯の声に応えたのはこの場にそぐわぬ明るい声。颯は眉をひそめ、前方を見やる。そこに小さな火の玉と共に浮かぶ女。赤と黒の縞模様の衣装が目を引く。貴崎 茜(きさき あかね)だ。2 #4215tk

2015-10-19 18:36:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「その様子だと失敗しちゃったみたいねー。どう?めぐりん元気にしてた?」いかにも軽い言葉に、颯の眉間のしわが深くなる。昔からそうだが、どうもこいつにはあの人への敬意が足りない……「ああ。動きの冴えは変わっていなかったな」「それは僥倖」茜の背後から重く低い声が響く。3 #4215tk

2015-10-19 18:39:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

颯は居住まいを正した。背から飛び降りた舞もまた背筋を伸ばす。「少なくともまだ退魔師どもの魔手が伸びておらんということ……実に僥倖」呟きが周囲を満たす。闇の中に二つの光が灯る。いや、それは目だ。「して、件の人の子とやらは?どのようなものであったか」4 #4215tk

2015-10-19 18:42:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

颯はやや首を傾げる。「情けないことだが相見えたのは一瞬。しかし」彼女ははっきりとした口調で言った。「確かに人の身を超えた霊気の持ち主であることは伝わってきた。しかし、それ以上のものとは思えん」「成る程」重々しい声。「……それはなるべく生け捕りにするか」5 #4215tk

2015-10-19 18:45:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あら、意外」リラックスした様子で話を聞いていた茜が口を挟む。「めぐりんを取った相手だから血祭りにあげるー、とか言わないんだ?」「そこまで幼稚ではない」声が憮然とした様子で答える。茜の周囲に侍る火の玉が闇の奥に潜む声の主を僅かに照らした。鎧のような朱色の甲殻を。6 #4215tk

2015-10-19 18:48:28
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「元より殺す気などあるものか。姉様が我らを切り捨ててまで手中に収めようとした人間。なにか我らの与り知らぬ利をもたらすに相違なし」「ふーん。ま、あたしはどっちでもいいけどー……お?」気のない様子で視線を逸らした茜が、楓に注目する。「珍しい迂闊だね、軍曹ちゃん」7 #4215tk

2015-10-19 18:51:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なに?」颯が不可解そうに目を細める。茜はただ彼女を指差した。それに従い、茜の周囲に浮かんでいた火の玉の一つが矢のように楓の背後へと飛ぶ。「蜘蛛が蜘蛛の糸つけられてどうすんのさ」茜の笑いに楓は振り向く。そこに浮かぶのは燃え盛る蜂。茜の使役する式神だ。8 #4215tk

2015-10-19 18:54:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「これは」颯は驚愕した。蜂が抱えるのは力なく垂れた糸。「あ、動かないでね」微かな風切り音が鼓膜を揺らす。次の瞬間、大地に縫い止められたのは薄青い小蜘蛛。見覚えがある。これは巡の。「百恵ちゃん、軍曹ちゃん尾けられてたみたいだよ。どうする?」呑気な声が響く。9 #4215tk

2015-10-19 18:57:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

楓は呻いた。あの僅かな交錯で小蜘蛛を仕込み……わざと逃がしたというのか。潜伏場所を探るために?「家鳴(やなり)に伝達。颯らの帰陣路付近を固めよ」「はいはーい」茜が指揮者のように指を振る。燃える蜂たちが散らばり、飛んで行った。「軍曹ちゃんたちも準備はしといてね」10 #4215tk

2015-10-19 19:00:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

颯は憮然とした顔で頷き、元来た道を戻っていく。「いってらっしゃい〜。さて、めぐりんのことだし、もうこっちを追ってきてると思うけど」彼女は闇に潜む影を見やる。「どんな奴と一緒かな?新しい仲間?それとも人間をダシにして退魔師を利用?」「いずれにせよ、打ち破るのみ」11 #4215tk

2015-10-21 19:30:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

影が蠢く。巨大な影が。「姉者の側に控えるのに相応しいのは誰か。思い知らせてやろうぞ」「相変わらず百恵ちゃんは血の気多いんだから!……でも」茜が笑みを浮かべ、唇を舐める。「それが一番手っ取り早いよね」ぶぅん、と羽音を立て茜が消える。周囲が闇に包まれた。12 #4215tk

2015-10-21 19:33:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どこに根を張ってるものかと思ったが」手を耳元に当てていた巡が、静かに言う。「まさか学び舎のほぼ真下とはね。ちっとは感謝しな、ボンクラども」「……確かにな。その点は礼を言う」言いながらも苦い顔をしたのは年配の男。怪異退治に参集した退魔師、そのリーダー格である。14 #4215tk

2015-10-21 19:36:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

彼らが今いるのは北都高校の校庭。巡の手によってわざと逃がされた『大蜘蛛』紺野軒 颯が向かったのはまさにここだった。「実際、相当に面倒になるとこだ。颯のやつ、若旦那の顔を見てやがる……明日にでも手荒い真似をせんとも限らん」「他の学生も巻き込んでか」15 #4215tk

2015-10-21 19:39:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

苦い顔で呟く退魔師に、巡は呆れた視線を向ける。「むしろなんで巻き込んじゃならん?あたしが奴らの立場なら、そんなこと気にも留めんね」「……そうか」会話はそこで打ち切られた。この人間が何を考えているかなど、巡には興味のないことだ。ただ戦力としてあればいい。16 #4215tk

2015-10-21 19:42:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「隊長!」「どうした」後方に控えていた女退魔師から声が飛ぶ。「真下から怪異の反応!多数!」「わかった。戦闘準備!……誰が来るかわかるか、御伽さん」「蟻塚 家鳴(ありづか やなり)だろうね」言葉短に巡は言う。「原型は蟻。取り込んでるのは『金槌坊』と『家鳴』だ」17 #4215tk

2015-10-21 19:45:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

彼女の言葉とほぼ同時、校庭のあちこちから無数の小さな影が湧いてくる!「……で?どれがその蟻塚とやらだ」「全部さ」「何?」「あいつに本体なんて概念はない。あれ全部が蟻塚だ。一人でも残すとそこから増える。ま、人間にはキツい相手だね」隊長が小さく呻く。18 #4215tk

2015-10-21 19:48:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……あんたの部下、何人いるんだっけか?」「あいつ含めて七人だ。蟷螂坂 祈、秋津 飛羽、紺野軒 颯、雷音寺 舞。まだ姿を見せちゃいないが、貴崎 茜と赤城 百恵ってのがいる」「そいつら全員退魔師でなんとかしろってか?無理難題を押し付けやがって」隊長が悪態を吐く。19 #4215tk

2015-10-21 19:51:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なんだい、情けないね……」鬼女はそれをせせら嗤う。「ま、あいつらもあんたらみたいな退魔師程度ならどうにでもできる力量はあるってことか。それはそれで僥倖」「お前……どっちの味方だ」「あたしはあたしの味方だよ。まあいい。あんたらは援護に徹してくれりゃあね」20 #4215tk

2015-10-21 19:54:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あっさりと言った彼女は後方を見やる。そこにいるのは彼女が仕える少年と、それに従う魔女の姿だ。巡の視線を受けた魔女が頷き、鉄の杖を掲げる。それをきっかけにエンジン音!集った退魔師たちの頭上を飛び越え、バイクに乗った包帯の怪人が家鳴たちへと向かう!21 #4215tk

2015-10-21 19:57:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あいつは!」退魔師の誰かが声を上げる間にも、新たな怪異は群れをなす家鳴の先陣を撫でるようにバイクをドリフトさせ、魔女の元へ。「ひとまずあれでいいか」「ん!上出来!」『トンカラトン』の忍の問いに、魔女の薫は笑顔で答えた。最前線にいた家鳴の何人かが崩れ落ちる。22 #4215tk

2015-10-21 20:00:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

崩れ落ちた小さな怪異たちの体には確かな傷が刻まれていた。忍の仕業だ。その傷から白い包帯が噴き出し、怪異の体を「処置」「応」「応」「応」覆うより早く、後続の家鳴たちが大金槌を振り上げ、トンカラトンの分身へと変化しかけていた個体たちを容赦なく叩き潰す!23 #4215tk

2015-10-21 20:03:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うわ」薫が眉をひそめた。犠牲となった個体の手足がバラバラになり、もはやトンカラトンとしても活用できないまでに砕かれる。「面倒な術を使う怪異でありますな」それを気にも留めず、じわじわと距離を詰めてくる家鳴たちの一人が声を発した。「まあ、その程度ではありますが」24 #4215tk

2015-10-21 20:06:06
1 ・・ 4 次へ