女騎士ハラミを焼く#1 戦うのは嫌だ◆1
_戦うのは嫌だ。女騎士のセリマはいつもそう感じていた。薄暗く、冷え切った廊下。きしむ鎧と足音。壁の隙間から夕日が差し、反対側の壁に光のスポットを作る。どこからか男の悲鳴。突入が始まったのだ。抜刀と同時に目的の部屋に突入。湿気のある部屋。燃える暖炉。 1
2016-01-11 17:36:26_ターゲットの男は暖炉の前で、ちょうど火かき棒を抜いたところだった。鋏のペンダントが彼の胸元に揺れる。ファッションではないだろう。何らかの魔法物品だ。火かき棒を構えて後ずさる男。ベッドには半裸の女。女が悲鳴を上げた。どこかで怒号が聞こえる。セリマは兜の下で唇を舐めた。 2
2016-01-11 17:40:36_セリマは女騎士だ。騎士であるからには魔法物品であるアーティファクトを回収する仕事がある。そして仲間や上司の騎士と共に盗賊団のアジトに強襲した。 セリマは戦いが嫌いだ。一番太刀の長身。火かき棒の男を前にして、心臓が弾けそうになり、喉の奥に血の味がする。鼻がむずむずする。 3
2016-01-11 17:45:25_反射神経倍増の呪文は高価な呪文だ。今回は惜しげもなく使う。火かき棒が怖いわけではない。半裸の女が枕の下に手を入れたからだ。 鎧に組み込まれたシリンダーの呼応を感じる。シリンダーのガラス片をこすったような音。空気が振動する。一気に踏み込む! まるで瞬間移動のような突進! 4
2016-01-11 17:49:07_セリマは半裸の女を一瞥した。拳銃を構える半裸の女。すぐさまセリマはミサイルプロテクションの呪文を構築する。効果時間は90秒。シリンダーの冷却時間に180秒。 盗賊の男は冷静さを欠いている。でたらめに振り回される火かき棒。優先順位を組み立てる。薪が爆ぜる音。 5
2016-01-11 17:53:07_銃声と同時に、弦が切れたような不愉快な音が響いた。ミサイルプロテクションが銃弾を跳ね飛ばしたのだ。 セリマは女へ肉薄しタックルをしかけた。手から拳銃を弾き飛ばす。半裸の女はそこで戦意を失った。背後に気配。振り返ると、火かき棒を振りかぶり男が飛び掛かる。 6
2016-01-11 17:57:13_逃げればいいのに、白旗を上げればいいのに、無意味にも抵抗する。 「どうして戦いが好きなんだ」 セリマは無意識に呟いていた。剣を振るい、火かき棒を跳ね飛ばす。男は胸の鋏を握る。魔力を帯びた品……アーティファクトか! その効果は多岐にわたり、何が起こるか分からない。 7
2016-01-11 18:00:38_しかし、アーティファクトが発動しても何も状況は変化しない。セリマはそのまま男を組み伏せる! 「なぜ発動しない」 「得体のしれないものに頼るからだ」 反射神経倍増の魔法が切れる。切れ目なく、金縛りの魔法を唱え拘束するセリマ。建物のあちこちから制圧のテレパシーが届く。 8
2016-01-11 18:04:39_深く息を吐いた。戦いは終わりだ。そこで直感的な不安感を覚えた。顔を上げるセリマ。誰かがいる。 ベッドの陰に隠れて、もう一人の女がいたのだ。金縛りの魔法は冷却中だ。あと200秒は使えない。息をのむ。 女は拳銃を構えていた。男を組み伏せたまま固まるセリマ。銃声! 9
2016-01-11 18:09:38_セリマは目を閉じなかった。奇妙な現象を目にする。銃弾が空中で砕け散ったのだ。不愉快な音を立てて空気が振動する。 同時に剣の切っ先が折れ、跳ね飛ばされた。女の目の前に突き刺さる。悲鳴。ミサイルプロテクションを確かめる。 それはとっくの昔に切れていたはずだった。 10
2016-01-11 18:14:22