荒野の領土に歌よ響け#1 お喋りな盾◆3

広い海が何処までも。異国を夢見る青年カルマサは、ごろつき紛いの潜水騎士に強いられた仕事の最中に、生きているアーティファクトを見つけます。 お喋りな盾は、遠くから旅をしてきたという。そこにガラの悪い潜水騎士が現れ…… 全61ツイート予定です 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_荒野の領土に歌よ響け#1 お喋りな盾

2016-02-28 14:21:26
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「おっ、カルマサぁ! 何か見つけたみてぇだな! 探知機が疼くぜ」  潜水騎士は突撃艇をカルマサの船に横付けし、舷を跨いで乗り込んできた。のんきにカモメが鳴いているが、カルマサはそれどころではない。  カルマサの肩をどつき、盾を取り上げる潜水騎士。 21

2016-02-28 14:29:03
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_カルマサの船は巨大帆船というわけでもなく、8メートルほどの個人用ボートだ。装甲板で覆われた突撃艇に横付けされただけでグラグラと揺れる。  潜水騎士は3人乗り込んできた。彼らはみな戦闘潜水服で武装し、腰には刺突剣を提げている。抵抗は無意味。 22

2016-02-28 14:34:11
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_心配とは裏腹に、潜水騎士たちは魔法物品のルーペで盾を観察した後、甲板にそれを投げ捨てた。慌てて拾うカルマサ。潜水騎士は下品に笑う。 「ゴミだな、こりゃ。嵐を起こすアーティファクトだが、距離減衰が大きすぎる。これじゃ自分の船が沈むだけだ」 23

2016-02-28 14:39:17
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_得意そうに彼は続ける。 「おまけに意思を持っているせいで扱いづらい。工芸品としても、普通の盾以下だ。笑えるのはライオンの絵だな。子供が描いた絵か? 何の価値もないな」  潜水騎士の値踏みに、とうとう盾自身の我慢が限界に達した。 24

2016-02-28 14:43:45
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「好き勝手言うな! 俺は強いんだ。見てろ、俺の嵐は最強だ……」  大気が唸り、頭上に巻き上がった上昇気流が分厚い雲を作る。それを見ても、潜水騎士は涼しい顔だ。潜水ヘルメットの奥の目が光る。 「俺の口は悪いが、正しいことを言ったはずだ。嵐を起こしてどうする?」 25

2016-02-28 14:48:15
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「忠告するが、お前の嵐の出力では突撃艇を転覆させるのは不可能だ。カルマサの船はバラバラになるがな、俺たちは海に投げ出されても海底を歩けるし、痛くもかゆくもないぜ。一方お前は海の底に沈んで、誰からも忘れ去られるんだ。そのとき俺は、酒場で酒を飲んで毎日を楽しく暮らしている」 26

2016-02-28 14:55:40
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_カルマサはこの空気に耐えられなくなって、仲裁に入る。 「喧嘩は無しさ。なぁ、お前もいい加減敵を作るだけだぞ。俺はアーティファクトを見つけた。それは商品にならない。それだけの話じゃないか。何で攻撃するんだよ」 「ウウー! 俺は我慢ならんぞ!」  盾が叫ぶ。 27

2016-02-28 15:02:31
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「俺は馬鹿にされて逃げるような奴じゃない。お前を叩きのめしてやるんだ」  盾の周囲に魔力が渦巻き、大気が唸り始める。船が水面の葉のように揺れる。 「おいおい、言葉の暴力を競ってどうになるんだよ」  カルマサは盾を抱きかかえた。魔力の風が彼の肌を裂く。 28

2016-02-28 15:08:55
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「本当の勝ち負けだよ。口汚さを競っても、お前の大きな勝利からどんどん遠ざかっていくだけだよ。目の前の男を傷つけることが、お前の本当の勝利かよ。本当の主人を探しに行くのが夢だろ。つまらない喧嘩で海の底に沈むのが、お前の本当にやりたかったことかよ」 29

2016-02-28 15:13:53
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_カルマサは盾のことが心配だった。盾はまだ旅の途中なのに。  一瞬の沈黙が二人の頭を冷やした。 「ま、なんか見つけたら頼むよ。これは今回の駄賃だ」  潜水騎士は探索費を支払い、去っていった。カルマサは盾を見る。もし顔があったら、唇を噛んでいるだろう、そう思えた。 30

2016-02-28 15:18:44
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_荒野の領土に歌よ響け#1 お喋りな盾(了) #2 嵐の去った後の景色 へつづく

2016-02-28 15:19:15
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【用語解説】 【突撃艇】 装甲で覆われた簡易ボート。機銃が1丁装備されており、爆雷を搭載できる。潜水騎士を6人まで搭乗させることが可能。これで敵の船舶に肉薄し、爆雷で攻撃する。水中適性もあり、短時間なら潜行も可能。各地に潜んでいるいる潜水騎士の足として普及している

2016-02-28 15:25:36