荒野の領土に歌よ響け#2 嵐の去った後の景色◆3
_気圧計も、漁具も、保存食も……みな、バラバラになって海の底へと沈んでいく。ライオンの描かれた盾は、それを海底の砂の上から見ていた。 何度も見た光景だ。嵐を爆発させ、何度も海の中沈んだ記憶。みんな、バラバラになってしまった。 51
2016-03-02 17:44:30「とうとう、味方なんていなくなっちゃったよ……」 怒りの去った後、盾は呆然と呟いた。いつもこうだ。激情に身を任せて、取り返しのつかないことをして、気づけば周りには誰もいない。 「どうすればよかったんだよ……」 52
2016-03-02 17:50:06「俺にはどうすることもできないんだよ……」 盾は静かに波に揺られていた。やがて砂がかぶさり、貝やフジツボが固着して、海の一部になるだろう。それしか救いは無いとさえ思えた。 「海の底に一人ぼっちだ。真の、一人ぼっちだ」 53
2016-03-02 17:54:32_戦争なんかしている場合じゃなかった。荒野の領土、誰もいない領土。王様が一人だけの。国民は誰もいない。 街の広場は静まり返り、冷たい兵器だけが並ぶ虚無の王国。盾は心の中で涙した。自分の見てきた異国の中に、こんな惨めな国は無かった。 54
2016-03-02 17:59:08「もう、おしまいだ」 盾は最後に、赤子のように声を上げた。泣き声ではない。確かに赤子のようにがむしゃらだったが、それは異国の歌だった。 歌だ。歌だけが彼の悲しみを塗りつぶした。一人ぼっちは嫌だと、張り裂けそうな心で歌った歌だ。 55
2016-03-02 18:03:13(幸せだけを手に入れたい。俺が不幸なのに、俺の嫌いな人間は幸せそうに生きている……そんな世界は残酷すぎる。ただ、俺は幸せになりたかっただけなのに……) 歌は海流となり、静かな海に渦をもたらした。盾の頭上に何か大きなものが現れ、影に沈む。 (嫌だ、嫌だよ……嫌だ!) 56
2016-03-02 18:07:40_はっと、盾は影の正体に気付いた。思わず歌が途切れる。 「続けて」 カルマサは笑った。海の中にカルマサがいる。でも、なぜ? 沈んだはずなのに、幽霊船のようになった船の残骸。それが海の中、泡に包まれて浮かんでいる。 その中心に、カルマサは胡坐をかいていた。 57
2016-03-02 18:12:10_盾は察した。自分自身もそうであるから分かる。カルマサはアーティファクトの船を作り上げたのだ。 ある日、何の変哲もない人間が、時には一瞬にして、魔力を構成し、人知を超えた魔法の道具を作り上げる。 壊れ行く船の中、カルマサはアーティファクトを作り上げたのだ。 58
2016-03-02 18:16:49「それ、どうしたんだよ」 「さぁ……気づいたらできてた。でも、いいじゃないか。きっと、異国の歌を聞いたから、どこまでも遠くへ行きたくなったんだな」 カルマサは盾を海底から拾い上げる。泡を纏い、ゆっくりと幽霊船は海中を進む。 「そして、どうするんだよ」 59
2016-03-02 18:20:58「これ、売ったらいい金になるぞ。そうしたら……どこまでも遠くへ旅できる」 「おい、世界に一つしかないんだぞ。人生を変えるほどの強大な力が……」 「世界に一つしかないのはお前だろ」 二人はどこまでも行くだろう。二人を結び付けた……異国の歌が届く場所まで。 60
2016-03-02 18:25:13【用語解説】 【アーティファクトの流通】 アーティファクトは、突然ただの人間が作成する偶発的なもの。その力はピンキリである。強いものなら、その土地の自治体は債券を刷ってでも手に入れるだろう。悪用すれば騎士によって討伐され、アーティファクトは奪われてしまう
2016-03-02 18:37:28【次回予告】 それほど強いわけでもないビームを乱射するゴリラの置物。古道具屋に騙されて買ったら、これが大迷惑! 騎士団は大混乱! このゴリラを解析してくれる会社があるという。そこへ向けて、いざゆけ! ザリガニ騎士団! 次回「ゴリラ爆発」 全80ツイート予定 #減衰世界
2016-03-02 18:42:19