ゴリラ爆発#1 ゴリラのワクワク感◆1
_ゴリラの目から放たれたビームを受けた騎士が、思わず落馬した。 「ゴリラ……パワーです!」 先頭を行くのは一騎の騎馬。それを追いかける、無数の馬上の騎士。先頭を行く青年は騎士団に追いかけられていた。その脇腹にはゴリラを抱える。 1
2016-03-03 17:30:58_正確には、ゴリラの置物だ。乾燥した荒野の枯れ草を踏み、砂埃を上げて追いかけっこは続く。青年は時折後ろを振り返り、ゴリラを掲げる。するとビームが発せられ、追ってくる騎士は麻痺して落馬する。致命傷にはならない。すぐ、ふらふらと立ち上がる。 2
2016-03-03 17:36:12_そもそも追っ手の馬は巨大爬虫類で落馬の怪我も望めない。 「くそっ、ゴリラを渡しやがれ!」 「渡せって言われて渡すやつがいるんですか!」 追っ手はこのゴリラの置物を狙っている。若者がせっかく手に入れたゴリラの置物をだ。騎士団はごろつきの集まりだ。何でも力で手に入れる。 3
2016-03-03 17:41:39_追いかける側の、錆びた鉄兜を被った男が声を張り上げる。 「別動隊を警戒しろ! ミサイルプロテクションは抜かりないな?」 「応!」 言葉通り、追いかける騎士の塊の後方からクロスボウの騎兵がいくつも現れ、射撃戦となる。先を行く若者は囮だったのだ。 4
2016-03-03 17:46:15_ミサイルプロテクション……飛来物防護の魔法によって、ボルトは全て弾かれる。しかし魔法は無敵ではない。集中の途切れる場面が必ず来る。 双方は名乗りを上げる。 「我々はペンネ騎士団! ゴリラを渡してもらうぞ!」 「我々はザリガニ騎士団! 降りかかる火の粉は払うのみ!」 5
2016-03-03 17:51:17_クロスボウの騎兵の先頭、金髭の男が声を上げる。 「我らザリガニ騎士団は……」 それに全員で応える! 「中原最強!」 「馬鹿言え、俺たちペンネ騎士団だって中原最強だ!」 錆びた鉄兜の騎士が口を挟む。 6
2016-03-03 17:56:13_そのとき、稲妻が弾けるような音が彼の言葉を打ち消した。一体の人馬が魔法を帯びて猛然と突っ込んできたのだ。 一番太刀の長身、身長180センチはあろうかという女騎士がペンネ騎士団の騎馬を次々と後方から弾き飛ばして先頭の若者の隣で止まる。 7
2016-03-03 18:00:57_それだけで、ペンネ騎士団の陣営は崩れてしまった。慌てて隊列を整えて、一目散に逃げだす。元からまともに戦うつもりはない。何度も戦いを挑み、ザリガニ騎士団が消耗するのを待っているのだ。魔法や道具を使わせる作戦。 「また来るぜ!」 捨て台詞だけが最後に聞こえた。 8
2016-03-03 18:06:09「ペンネ騎士団といえば、確かに中原でも名の知れた騎士団だ。伝統じゃあ羊皮紙騎士団の方が上だけど、実力じゃそれ以上っても言うな」 ザリガニ騎士団の一人が、そう呟いた。 「そんなに凄いのかね、このゴリラは」 金髭が自慢の髭を撫でながら言う。 9
2016-03-03 18:10:36_荒野の青空にはのんきに猛禽が弧を描いて飛んでいた。本当はザリガニ騎士団もバカンスに行こうとのんきに南下していたのだ。 バカンスの理由も、ペンネ騎士団に狙われる理由も……すべては古道具屋の店先で買ったゴリラの置物のせいだった。 10
2016-03-03 18:14:53【用語解説】 【ゴリラ】 森林に生息する大型獣。人間に似ており、かなり体格がいい。灰土地域南部の森林に生息するグレイゴリラ、翡翠台地に生息するジェイドゴリラ、暗黒大陸にもカオスゴリラという亜種が確認されている。争いは好まず、温厚なため、森林開発もあり生息数は激減している
2016-03-03 18:20:10