ゴリラ爆発#2 追撃のゴリラ◆1
_南の街、火焔水鏡の街でゴリラを処分できる。しかもバカンスも楽しめる。そうと決まったら話は早かった。野営地を畳み、全員で隊列を組み南下するザリガニ騎士団。 じりじりと太陽が照らす不毛の荒野。草木ひとつ生えていない。ガスのパイプラインだけが南北に伸びている。 31
2016-03-06 14:13:39_不可解なのは、ペンネ騎士団の襲撃だ。彼らは旅立った後すぐ、ザリガニ騎士団を襲撃した。どうやら、ゴリラの置物を狙っているらしい。何の価値もないと思われるものに、彼らは異様に執着していた。 すでに襲撃は3回を数えた。長期戦になる。 32
2016-03-06 14:18:16「はぁ……どこで知ったんでしょう」 バルメルの呟きに、金髭の騎士が乗っかった。 「恐らく購入先だろう。小銭を握らせればすぐ話す。吾輩たちはこの辺では名の知れた騎士団だからな。足がつくのはすぐだったろう」 「探し当てたときには売れていたパターンですか」 33
2016-03-06 14:23:54_馬車の中にぎゅうぎゅうになって、バルメルや、技師や、金髭のエリートがゴリラを囲む。敵意を見せなければゴリラも大人しいものだ。 「このゴリラには秘密があるはずだねぇ、多分、僕の知らない何かが……この世は知らないことばかりだよ」 技師がゴリラを撫でながら言う。 34
2016-03-06 14:27:58_技師は根っからの魔法物品おたくで、ゴリラの謎に好奇心が高まってしまったようだ。金髭はというと火焔水鏡の観光本を見て楽しんでいる。 「お前はきっと凄いんだ……凄いゴリラだよ……」 バルメルも恵比須顔でゴリラを撫でる。 35
2016-03-06 14:32:27_資料に挟まっていた会社のパンフレットを見る技師。 「みろよ、この潤沢な設備! 古今東西の分析器が勢ぞろいだ。田舎騎士の三流技師にとっちゃあ、見学できるだけでも儲けもんだよ。ここならゴリラの全てが分かる……恐らく、ペンネ騎士団が狙う理由もね」 36
2016-03-06 14:39:14一行は楽しそうにバカンスの予定について夢を膨らませた。草木も生えない灰色の荒野の向こうに、水と緑の溢れる場所がある。 ザリガニ騎士団はいつもそうやって旅していた。バカンスに飽きたら荒野で戦いに明け暮れ、サソリを炙って食べる。またバカンスが恋しくなる。 37
2016-03-06 14:44:27_やがて荒野の西に巨大な太陽が沈むころ、一行は荒野の真ん中で夜営をすることを決めた。馬車を集めて円陣を組み、あちこちに篝火を焚きあげる。長身と太っちょと背の低い3人の騎士が、暇を持て余したのか、トカゲを捕まえて篝火で焼いて食べていた。 ぼんやりとそれを見るバルメル。 38
2016-03-06 14:50:46「ガハハ、ウマイゾ」 爛々と目を光らせる3人の騎士。彼らは騎士団の突撃騎兵で、この騎士団の中でも指折りの猛士だ。バルメルは引きつった笑顔で答える。 「い、いいよ……ほら、岩塩とか振った方がいいんじゃない? 人間っぽい食べ物になるしさ……」 39
2016-03-06 14:55:13_やがて野営地の真ん中に火が焚かれ、騎士団は輪になって保存食の粉がゆを食べた。そしてみんなで歌を歌う。 「俺たち最強! ザリガニ騎士団……向かうとこ敵なし! 俺たち行くとこ、剣の嵐だ! 気を付けろ! ザリガニの鋏は……容赦はしない!」 楽しく、楽しく夜は更けていった。 40
2016-03-06 15:01:06【用語解説】 【恵比寿】 釣りの聖人メレシエッキを、日本語に訳したもの。メレシエッキは太っちょの釣り人で、座って釣りをしすぎて両足が腐ってしまったという伝説がある。笑顔の絶えない、誰も傷つけない聖者であった。後に神と崇められ、全ての釣り人の信仰を受ける
2016-03-06 15:08:48