レイニーデビル

呟き、集め、匣を満たす。呟きを集め、物語を収め、匣を満たすだけの思い付き企画。
5
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
根の人 @aeGKBk1TiE

『私』は端末に触れました。

2016-05-18 01:27:20
根の人 @aeGKBk1TiE

「――イッシン」ふと我に返った。「……なに?」「なに、じゃないわよ。退院手続きが終わったのに。何でまだそんな格好しているの。ほら、帰り支度」母さんに促され、未だに自分がパジャマのままであったことに気付く。「スマホ弄ってないでほら、着替えなさい」手元に視線を落とす。

2016-05-18 01:27:59
根の人 @aeGKBk1TiE

そこには黒画面のスマホ。何気なしに電源を入れる。しかし画面は暗いまま。「……あれ?」画面下部をタップするとホーム画面へ戻る。「なんか……アプリを使ってたっけ」それらしい形跡があった。起動しているアプリへ画面を移行する、しかし画面は暗いまま。「イッシン、早くしなさい!」

2016-05-18 01:28:14
根の人 @aeGKBk1TiE

これ以上はちょっとうるさそうだ。スマホをベッドに投げ出すと、パジャマをいそいそと脱ぎだした。この入院と言い、夢と言い、不可思議な事が多すぎる。「恐怖体験、オカルト、か――」そうやって言葉にして、ワクワクしないと言えば嘘になる。しかし、少し前の事を振り返るとその気持ちも消え失せる。

2016-05-18 01:28:28
根の人 @aeGKBk1TiE

小学校の頃には確かオカルト染みた噂話が絶えず耳に入った。しかし俺が興味を持ち始めた頃には既にブームは去っていて、結局同志を見つけられずに怖い話の本なんかを読んで結局友達ができなかった記憶がある。……そう考えると鬱になった。母さんにまた促され、そそくさと帰り支度を進める。

2016-05-18 01:28:51
根の人 @aeGKBk1TiE

――ようやく帰ってこれた。入院なんて初めての経験だったけど、やっぱり家が一番だ。今まで毎日、起動を欠かした事のない自分のパソコンを三日ぶりに起動する。目のアプリ、Whisper、掲示板。少し懐かしくなって怖い話、都市伝説なんかを調べ始める。最近はゲームサイトばっかりだったからな。

2016-05-18 01:29:05
根の人 @aeGKBk1TiE

適当な番号が奇妙な場所に繋がったと言う話。都市伝説の定番、メリーさんの出現から電話関係の怖い話では結構定番な設定だ。そこに繋がると怨嗟の声や何かを打ち付ける音、誰かを罵倒する声が聞こえるらしい。そして唐突に電話が切れる。害のないものだけど、実際あるともやもやしそうだ。

2016-05-18 01:29:18
根の人 @aeGKBk1TiE

地元の橋から見る事の出来る見事な赤い月に、隕石が落ちたって噂話――あれ、これは結構近いな。……アムリタって言う水の謎の宣伝。何でもあらゆる病や傷をいやすとか。なんかアルカリイオン水って昔あったよな。まだこんなの信じて買う奴がいるんだ。「ばっかで……」ウィンドウを閉じ、寝転がる。

2016-05-18 01:29:35
根の人 @aeGKBk1TiE

体の向きを変えて、布団の上に転がっているスマホへと目を向ける。”目”。忘れたわけではない。あのアプリでも怖い話は幾らでも拾う事が出来る。だが……何か違う。掲示板で見るものとは違う、生々しさ、現実感と言うか――言葉にできない存在感がある。オカルト、と笑って見れるようなものじゃない。

2016-05-18 01:29:52
根の人 @aeGKBk1TiE

だけど気になっても居た。いつの間にか時刻は零時を回っていた。スマホを手に取る。一瞬躊躇して、Whisperを起動する。そしてそこで、違和感。「……アイコン、こんなんだったっけ?」赤と黒で構成されたアイコンがこちらを見ていた。いや、最初はこんな感じだった気もする。

2016-05-18 01:30:10
根の人 @aeGKBk1TiE

“目”を起動する。ずらっと並ぶ、噂話達。目に留まったのは、『俺がもう一人いる』というものだった。『俺がもう一人いるんだ。結構慣れれば何とかなるもんで、今は上手くやってるよ』それだけ見れば、タダの冗談にも見える。けれど最後の一文。

2016-05-18 01:30:25
根の人 @aeGKBk1TiE

『でも最近、俺が居なくなったんだ』……どういう意味だろうか。それ以上の囁きは無い。ただ不気味な事を書きたかっただけだろう、そう思って、指を止める。「……そう言えば、これ……」Whisperには誰がその囁きをしたか追跡する事が出来る。囁いたユーザーの名前をタップする。

2016-05-18 01:30:37
根の人 @aeGKBk1TiE

そのユーザーは結構な頻度でWhisperを利用する人だったようだ。ゲーム、都市伝説、愚痴、色々な事を一時間に十から二十程度を行っていた。「あれ」行って、“いた”。俺が居なくなった、その書き込み以降、その人物の囁きは一切なくなっていた。画面が暗くなる。無意識に電源を落としたらしい。

2016-05-18 01:31:12
根の人 @aeGKBk1TiE

寝よう。……そう思って寝転がる。そして、慌てて起き上がる。枕は――裏返っていた。俺はその枕を蹴り飛ばし、居間へと向かった。今は部屋で寝る気にはなれない。タオルケットを引っ張り出すとそれを枕代わりにして、居間のソファに寝ころんだ。明日は学校。流石に寝ない訳にはいかない。

2016-05-18 01:31:28
根の人 @aeGKBk1TiE

……こいつは裏返ってくれるなよ。そう祈りながら目を閉じた。

2016-05-18 01:31:39
根の人 @aeGKBk1TiE

朝。居間のソファで寝ていた事を母さんにたっぷりと呆れられてから学校へ向かった。登校中、スマホを弄りながら歩く。一緒に学校に行く人も、特に話し掛けられる事も無い。入院生活という特別な日々が終わり、同じような日々が始まる。学校へ行って、授業を受けて、帰ってゲームをして、寝て。

2016-05-18 01:31:50
根の人 @aeGKBk1TiE

「――ハザマ、カズノブ君、でいいのかな」スマホから顔をあげる。色白の男が立っていた。辺りを見回す。他に特に誰も居ない。取りあえず、呼ばれた名前は違った。「違います」「えっ?」男は若かった。年のほどは20代後半、ないしは30代前半。ジーパンにシャツ、どこにでもいるような格好だった。

2016-05-18 01:32:19
根の人 @aeGKBk1TiE

「間違ったかな……いや、でも……」考え込む男。あまり関わり合いになりたくなかったので脇をすり抜けて学校に向かう。「あ、待ってくれ」いきなり話し掛ける胡散臭い男だ。足を速めて学校へ向かう。「待った、待ってって!」――思いのほか早く追いつかれた。「俺は別に怪しいものじゃない!」

2016-05-18 01:32:34
根の人 @aeGKBk1TiE

「……いえ、その……怪しいです。胡散臭い」正直に言うと、男はとても表現に困る顔をした。「まぁ……それはいいんだ。だけど聞きたい事がある。君は――」男はそこで言葉を切り、辺りを見回し、そして、「……キミ、“目”のアプリ、使ったね?」その質問に、言葉に詰まり、答えた。

2016-05-18 01:33:06
根の人 @aeGKBk1TiE

「別に、他の人も使ってるんじゃないですか?」そもそも別に悪い事じゃない。……筈だ。俺はそう答えた。答えた時、男は、一瞬目を細め、「……そうか」呟いた。「俺、学校行くんで……」これ以上、本当に関わり合いになりたくない。胡散臭さもそうだが、なぜだか、この男の傍にいると不安になる。

2016-05-18 01:33:23
根の人 @aeGKBk1TiE

「――アプリの使用を止めるな」いくらか歩いた後、背後で声がした。振り返る。その男はこちらを見つめていた。「アプリを使用したなら、途中で利用を止めちゃいけない」それには有無を言わせぬ力強さを持っていた。慌てて目を逸らし、関わるまいと俺は今度こそ走って学校へ向かった。

2016-05-18 01:33:38
根の人 @aeGKBk1TiE

「俺はイトウだ! ――もしも気掛かりがあるなら、明日、同じ時間にここで待っている!」

2016-05-18 01:35:19
前へ 1 ・・ 3 4 次へ