Orphe兄貴のマイアミ鎮守府 2014年8月

とある艦これ鎮守府の記録
1
orphe @orphechin

巨体を静かに揺らし、荒々しく息を吐く球磨。鈴谷によって刻まれた傷跡は、呼吸の度に塞がっていく。 -手数で押すのは無意味、仕留めるなら一撃で。 鈴谷のスリッパが熱を帯びる。 それは内部機関の猛りか、それとも鈴谷の昂りが伝わった故か。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:02:51
orphe @orphechin

ゆっくりと、前面にスリッパを立て、鈴谷は足を進める。赤い光を体の周囲で明滅させながら。スリッパの先端部が、細く鋭い螺旋の針の形をとっていく。それは黒色から次第にオレンジへと変化し、やがて白色の輝きを帯びる。鋼鉄の扉をも穿つ、超高温のドリルである。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:07:44
orphe @orphechin

狙うは一点、凶獣の心臓。 チャンスは一度、ドリルの回転速度が最高潮に達した時に、奴に突き立てる。一度突き立てれば容易には抜けぬ、それゆえに必中を要求される。 鈴谷には今や恐れはなかった。今の彼女は、ただ己の内なる義務の呼び声に意思と身体を預けるのみ。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:11:54
orphe @orphechin

球磨も鈴谷ににじりよる。 先程の猛攻を潜め、一撃で鈴谷の首を刈る腹積もり。彼女の手にあるあの針は、己の筋肉を容易に突き破り、死をもたらすだろう。故に手を出される前に殺す。一度焼かれた己の牙が再度うずくのを、球磨は感じていた。 二名の狩人の距離がさらに縮まる。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:14:58
orphe @orphechin

鈴谷の体から艤装が落ちていく。少しでも身を軽くし、奴の牙が届く前に心臓を貫く。肩部装甲、魚雷、バックパック。かつての鈴谷であればリスキーと一笑しとらなかったであろう戦法だ。だが、今回は違う。当てられない可能性こそ最大のリスクなのだ。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:18:22
orphe @orphechin

鈴谷のスリッパの先端が、球磨の心臓を指し示す。ドリルは今や最大回転数に達し、犠牲者を求めて雄叫びを上げ続けている。鈴谷が最後に残ったバッグを投げた瞬間、二者が駆けた。 衝撃で地が割け、壁が砕ける。 猛烈な粉塵が空間に舞い上がる。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:21:54
orphe @orphechin

煙の中で叫びを上げたのは、球磨。 血走った目をせわしなく動かし、 獲物を捉えようと両手を虚空へと振り回す。 だが鈴谷はいない。 まさか自分の一撃で砕け散ったのか? だが感触はなかった。ではどこにいる。 動揺する球磨の頭上から、己の物ではない叫びが聞こえた。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:25:59
orphe @orphechin

球磨の中に恐怖という冷気が伝わった瞬間。熱が、球磨の背中を貫いた。 鈴谷はバッグにワイヤーとフックを仕込んでいた。突撃の直前、バッグを投げたのは、天井のパイプに捕まるため。そして、突撃を外し無防備となった球磨の背中を狙うため! #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:31:06
orphe @orphechin

肉を抉るドリルの狂った音。 球磨の絶叫。 鈴谷の狂乱の声。 三つの不協和音が空間に満ちていく。 ドリルの白熱は脂肪を、筋肉を、骨を溶かし、そして心臓へと至る。 死ね、死ね、死ね。 鈴谷の目に赤い光が宿る。 熊野を死なせる奴は死んでしまえ。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:34:16
orphe @orphechin

呪詛と共に、ドリルの回転と熱が、限界を越えて荒々しさを増す。 球磨の叫びが悲鳴に近くなり、音階が高まっていく。そしてその度に、鈴谷の殺意も膨れ上がる。 苦しいか、苦しめ。お前が噛み砕いたあの子は全身を痛め付けられた。お前も同じ目に会わせてやる。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:37:07
orphe @orphechin

お前は心臓を破られるだけでは済まさない。身体中に、この針の熱と共に私の憎悪を流し込んでやる。内側から隈無く、その肉と骨と臓腑のことごとくを私の暴力で染め上げてやる。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:39:21
orphe @orphechin

鈴谷はいつの間にか、自分がけたたましく笑っていた事に気づいた。そして自分を取り巻く世界が、赤黒く変色していた事も。 瞬間、鈴谷は恐怖した。自分のたどり着いた世界に。そして- -まだ早かったか。 誰かの声が脳裏に響いて、そして世界が元の色に戻る。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:45:16
orphe @orphechin

腕の力が抜けて、鈴谷は球磨の背中から転がり落ちた。立とうとするが、力が入らない。自分が覗いてしまったあの赤い世界と、心臓にドリルを突き立てられながらなお生きている、球磨の恐るべき生命力を前にして。 鈴谷の脳裏には、すでに獰猛さも義務の二文字も消え去っていた。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:48:23
orphe @orphechin

球磨がこちらの方を向く。死の半歩前に立ったそいつの顔は、紛れもなく死神のそれ。不相応な力を行使した艦娘の傲慢を罰すべく、冥府の際へと連れていく、死神の顔。その口がゆっくりと開き、虚無を覗かせる。 鈴谷はそれを前に、声すら出なかった。助けて、とさえ。 だが。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:53:18
orphe @orphechin

「食い残した挙げ句、他のに目移り?お下品なのねえ」 球磨が声のした方に向き直る。 そこには傷だらけの熊野。半死半生、立つのもやっとの体だが、その手は力強くヌンチャクを握りしめている。 「鈴谷、本当にありがとう。後は私がこいつを仕留めてやりますわ」 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:56:43
orphe @orphechin

く、ま、の。 鈴谷は声こそ出なかったが、口を動かし、友の名を呼んだ。熊野は瞼にかかった己の血を拭い、にっこりとそれに頷いた。鈴谷の守護天使であるかのように。 「鈴谷、覚えていてくださいまし」 ヒョウッ、と叫んで熊野は跳ぶ。 球磨が再度串刺しの拳を振るう。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 22:59:41
orphe @orphechin

だが二度目の攻撃は天才には通じなかった。「とあああ^~」腑抜けた声と共に、球磨の爪の上に羽根のように降り立つ熊野。脱力発声により己の体重をも軽調浮薄と変化させる、熊野独自の体術! 「ヒャアッ!」そこから一転、鋭く重い叫び!熊野が再度跳ぶ! #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:04:50
orphe @orphechin

球磨の頭部に、ヌンチャクが打ち込まれた!これぞ妙高流刺突術応用!妙高型の鋭い指の代わりに、ヌンチャクを以て、全体重を一点に集中させたのだ。そして重低音の呼吸により、熊野の体重は実に愛宕の1.5倍!鎮守府の床さえ抜ける重量! #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:07:58
orphe @orphechin

「ヒグマ殺しには脳と心臓、両方を潰す必要があるのですわ。昔のマタギの教えですの」両手持ちのヌンチャクを脳に突き立て、倒立の姿勢で講釈する熊野。「これで終わり、ですわ」倒立から驚異の空中回転、そして着地。 瞬間、球磨の額から鮮血と、灰色のプリン体が吹き出した。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:11:20
orphe @orphechin

二点の急所を破砕され、球磨は絶命した。巨体が倒れ伏すのを見て、ようやく鈴谷は声を出すことができた。 「くまのぉぉぉぉ~」 情けない声だとわかっていた。だがそれでも止められなかった。「きもかったよぉ、怖かったよぉ」よたよた走りで熊野に走りより、抱きつく。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:17:13
orphe @orphechin

「あらあら」鈴谷の頭を優しくなでる熊野。「これじゃ、どっちが助けるが側なのやら」「だって、だってえ」鈴谷は熊野の飛行甲板に己の涙と鼻水を執拗に擦り付けている。 「はいはい、泣くのはいいけど…そろそろ私も限界でしてよ」 笑顔で血を吹く熊野。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:19:52
orphe @orphechin

「あっ、やば!」 「私も足柄師匠も実際死にかけですわ…このままだと二人で天国に道場破り…ああそれもいいかもしれませんわ…見よ、西方浄土は、赤く、燃え」 「熊野不敗、暁に死ぬのちょっとまったぁ!」 急いで熊野をビンタし正気に戻させようとする鈴谷。 #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:22:30
orphe @orphechin

熊野の首が360度回転。 「うわーっ、熊野、死んじゃやだ!」 「あの、はやく、バケツ」 「今持ってくるから、絶対死なないでよ、ね!?」熊野を揺さぶりまくる鈴谷。リズミカルに吐血する熊野。 「死なせるもんかあああ」 鈴谷は奇妙な叫びを上げて瑞雲へ駆けていった… #マイアミ鎮守府

2014-08-01 23:25:23
1 ・・ 9 次へ