Orphe兄貴のマイアミ鎮守府 2014年10月

とある艦これ鎮守府の記録
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orphe @orphechin

「…現場には艦娘と見られる遺体の一部が散乱し、ビルがいくつも炎上している惨憺たる状況です。民間人の死者・負傷者・行方不明者は数知れず…」 キャスターが神妙な面持ちで現場の状況を伝えている。ああ畜生、このビジネス街は、まさに陽炎の言ってた場所だ。 #マイアミ鎮守府

2014-10-27 18:58:07
orphe @orphechin

夜景と火の手でオレンジ色に薄く染まる香港の空。その下を一台のコルベットが猛スピードを出して走行する。最新式のモデルのそれは、車両密度の高いアジアの道路においても遺憾なくその性能を発揮し、あたかも風のように、緻密な車間をすり抜けていく。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:27:37
orphe @orphechin

設計時、デザイナーが脳裏に自由に思い浮かべていた疾走の風景を再現したかのようなその走りは、ひとえにそのドライバーの腕によるところが大であった。自身の身体を機械と同様に最大限効率的に駆動させ、一つの目標に従事させうるだけの技量を持ったドライバー。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:30:31
orphe @orphechin

艦娘は、そうした理想的なドライバーであり、中でも初霜は更に良き乗り手であった。惨劇の後、彼女は一言も発する事無く、ただ暴力の現場から1mでも多く遠ざかることだけを目的に車を走らせていた。後部座席では引きつった声と、陽炎の囁きが聞こえる。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:33:01
orphe @orphechin

眼前でボディーガードの金剛を射殺された浦風は、既に過呼吸を起こしかけていた。本来戦場であればこうした動作は事前の投薬によって未然にリスクを防がれている所、今の彼女たちには薬も艤装すらもなかった。 陽炎は浦風の肩に片手を回し、もう一つの手を相手の手の上に置く。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:35:36
orphe @orphechin

「私はここにいるわ…あんたのすぐ近くにいる…だから大丈夫。大丈夫よ。そう、怯えなくていい…私はあんたの近くにいるわ…」 陽炎は浦風に話し続ける。それは陽炎にとって浦風の正気を取り戻すためでもあり、同時に自分の理性を維持するための防御動作でもあった。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:38:27
orphe @orphechin

普段の陽炎にとって殺しの風景とは、概ね人間相手の非対称戦争であるか、あるいは前線から送られてくる羽黒や大和たちの繰り広げる現実味のない殺戮の光景であった。そこには、自分が狩られる側に回るという実感はなく、ただただ敵を追い詰めるスリルだけがあった。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:40:50
orphe @orphechin

しかしその浅はかな認識の蓄積は、ただ一度の恐怖によっていとも容易く吹き飛ばされてしまった。 一番の頼みの綱が、何の抵抗も出来ずに殺害された。そして自分は、戦うどころかその場で動けず、艤装もないまま惨めに逃げまわる立場に追い込まれた。現実はあまりに残酷だった。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:46:28
orphe @orphechin

自分たちは逃げられるのか。 逃げられなかった場合、戦えるのか。金剛を撃ったあの殺し屋に、勝てるのか。 「大丈夫よ、大丈夫」 陽炎は浦風の手を握りしめながら言い続ける。 大丈夫、大丈夫。そう言い聞かせている相手は、浦風か、自分か。 #マイアミ鎮守府

2014-10-29 22:48:42
orphe @orphechin

混乱のビル街を抜け、コルベットは港湾地帯の広い道路へ出る。暗い海の上では観覧船がゆったりと進んでいる。きっと船上では今頃絢爛たる香港の夜景を見ようという観光客で溢れかえってるだろう。しかしそのネオンの下に展開されるのは地獄だ。初霜たちの車の後ろに、黒いバンがつく。#マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:30:21
orphe @orphechin

陽炎の膝にベレッタ、そして弾倉が投げ渡される。「二丁あるうちの一丁です。予備はそのマガジンだけ。慎重に使ってください」初霜は安全装置を外し、バックミラーに写る追撃者を睨む。「艤装のない私達にとっては、その9mmが命綱ですから」 バンから、艦娘たちが身を乗り出す。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:31:36
orphe @orphechin

いずれも朝潮型、人数は4名。 めいめいが構えた砲が、唸り声と共にオレンジの閃光を放つ。 コルベットの前方の車に次々と巨大な穴が飽き、空中に浮き上がると、爆破炎上。初霜たちの眼前に炎の壁が現れる。初霜は精密機械の動作でハンドルをコントロール、その壁を突き抜ける。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:37:33
orphe @orphechin

初霜はバックミラーを一瞥。 敵の次弾を回避した後、窓から片手を突き出し、振り向くこと無く逆手にベレッタを放つ。弾丸は朝潮型の乗るバンの前輪を撃ち抜き、コントロールを失った車は回転しながら後続の車と衝突した。 初霜は一息つき、「現地のヤクザみたいですね」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:41:37
orphe @orphechin

「浦風ちゃん、あなたよっぽど連中を痛めつけたりしました?」 浦風は下を向いたまま、首を必死に横に振る。陽炎が初霜を睨む。「…失礼、ここで言う冗談ではありませんでしたね。おそらく金で雇われたのでしょう。先ほど金剛を殺害した手の者に」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:43:20
orphe @orphechin

「二人共、少し目をつぶっててください」初霜はそう言うと、フロントガラスを拳で粉砕する。全く、こんな遠方の土地にまで殺し屋がやって来るとは。うちの提督は横須賀でどれだけ他人の恨みを買っているのやら。--心中で毒づくと、初霜は前方のやや上方を撃つ。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:47:10
orphe @orphechin

ビルの一角で彼女たちを狙撃しようとしていた駆逐艦が、小指を9mmで撃たれ、連装砲から手を放す。艦娘にとっては軽く殴られたようなものだが、その間に猛スピードをのコルベットは狙撃エリアから離れていく。 横のビル街から、追手のバンがいくつも現れ、盲撃ちに撃ちまくる。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:50:04
orphe @orphechin

道路のコンクリートが裂け、街道のライトが消し飛ばされ、道路上の車が次々と爆散していくが、コルベットは猛烈な砲火を狂気のスピードで疾走し回避する。 「あんた、レベルはうちと変わらないはずじゃ…」強烈に左右に動く車内の中、陽炎が問う。#マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:53:13
orphe @orphechin

「たしかに海上では戦ってません。艤装もつけなくなって数ヶ月になりますね」初霜はさらにギアを上げ、コルベットの凶暴な力を引き出す。 「ですが、こうした非正規戦の訓練なら、多少なりとも積み上げてきました」コルベットはカーブに差し掛かる。 「何せここ、香港ですから」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:55:19
orphe @orphechin

190,200,210,220。既にメーターは振り切っているが、車中に忍び込ませた妖精が、コルベットのエンジンの限界突破を促している。長くはもたない、だがそれでいい。後方の追手も初霜のやり口に倣ったのか、バンらしからぬ凶走の体を擁してきた。カーブまであと少し。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 22:57:40
orphe @orphechin

「陽炎!」初霜が叫ぶ。「ベレッタ、使わないなら返してもらえますか」陽炎は唾を飲み込み、彼女の座席にそれを投げ渡す。「合図したら運転、変わってください」唐突な提案。「ちょ!ちょっとどういうこと」陽炎は狼狽するが、初霜は「ぶつからないことだけ考えてればいいですから」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 23:02:25
orphe @orphechin

コルベット、バン、いずれもが限界を超えたスピードのままカーブにさしかかる。初霜たちの視界の先には、新手のバンが迫り来る。挟撃だ。「浦風ちゃんはベルトを締めて、しっかりと座席に捕まってて。…行きます!」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 23:05:13
orphe @orphechin

初霜はアクセルを蹴り、ハンドルを右に切ると、窓から踊りだし車上に上がる。その両手にはベレッタ。銃口が狙うは前後から追う挟撃のバン。ドリフトの圧力を全身で受けながら、艦娘の体幹筋力をフルに引き出し、彼女は車中同様の精密さで敵のタイヤと、ドライバーの腕を狙った。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 23:08:20
orphe @orphechin

獲物を喰らうべく閉じようとする猛獣の口から逃れる鳥のように、コルベットは挟撃者たちの合間をドリフトし、大きくUターンした。 追撃者たちはドライバーの腕と走行の制御を失い、混乱と絶叫の中で衝突し、無様にその身を潰した。粉砕された獣の口を背に、コルベットが蛇行する。 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 23:11:16
orphe @orphechin

「いい感じです、そのままさっき通り抜けた橋のほうまで逃げましょう!」 夜風を受け、身の丈ほどもある黒髪を揺らしながら、車上から初霜が叫ぶ。 その顔は微かに高調し、口角は上がっている。 「とんでもない無理したもんね!こういうのも、香港じゃ日常茶飯事なの!?」 #マイアミ鎮守府

2014-10-30 23:12:57
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