宝箱探しを終わらせてやった!#1 ゴミしか出ない!◆1
_ゼイラは宝箱を開いてため息をついた。中に入っていたのはガラクタばかり。割れた陶器だとか、腐った巻物だとか、汚れた食器だとか。ゼイラは徐に立ち上がって、髭だらけの顎を撫でた。宝箱を蹴り飛ばし、ダンジョンの奥に向かってさらに進んでいく。地下水の跳ねる足音が続く。 1
2016-06-29 20:11:19_鍾乳洞型のダンジョンはあちこちから地下水が染み出している。地面は川のようになっており、酷く滑りやすいがゼイラには問題なかった。滑り止めの施してある冒険長靴。ゼイラは冒険者だ。金属片を繋ぎ合わせたラメラーアーマーがガチャガチャ鳴り、鉈は獲物を狙う牙のように光る。 2
2016-06-29 20:15:03_光源の魔法が電球のようにあちこちを照らす。これはゼイラが用意したものだ。ゼイラは身の回りのことを全て自分でやった。 (今日もダメだったか……) ゼイラの足が止まる。見上げるのは、彼の家だ。巨大甲虫の殻を加工して作ったドーム型の家。 3
2016-06-29 20:20:53_家には入らず、隣の作業場に向かったゼイラ。彼が背負っているのは、化け物の死体だ。作業場にもやはり鍾乳洞の地下水が流れており、これで余分な汚れを洗い流すことができる。 (メシが獲れただけでもいいか) ゼイラは毛むくじゃらの化け物を鉈で解体し始めた。 4
2016-06-29 20:24:57_食べられる肉と、食べられない肉に切り分ける。どちらも使い道がある。食べられる肉は壺で塩漬けにした。 (今日はいい日だった。獲物さえ取れない日もある。今の俺は絶好調だ……) 自分に言い聞かせるような心の声だった。実際にはまったく満足などできていない。宝箱がハズレだったから。 5
2016-06-29 20:31:05_彼の家はダンジョンの中にあり、塩などの必要なものは冒険者と物々交換で手に入れる。もちろん、偶然塩を持っている者もいないので、仲間の冒険者に持ってきてもらう代わりに、彼らの欲しいものをこちらも探す。 釣り竿を手に取る。ゼイラは食べられない肉片を壺に入れ、再び家を出た。 6
2016-06-29 20:35:51_次の彼の仕事は釣りだ。地下水の溜った地底湖で釣りを行う。地底湖での素潜りは自殺行為だ。複雑に入り組んだ洞窟、光の届かない闇の水底。それらが泳者を死に誘う。 釣りをしていると、背後から声が聞こえた。振り向くゼイラ。魔力の粒子のせいで照明があるはずの通路の先は闇に沈む。 7
2016-06-29 20:42:14「あっ、宝箱」 若い男の声がした。それを聞いた瞬間、釣り針を引き上げて岸辺に釣竿を放り、ゼイラは駆けだした。魔力の作った闇に向かって全速力で走る! 地下水の溜った地面をバシャバシャと踏み荒らす! 白い半透明のイモリが逃げていった。 8
2016-06-29 20:47:17「それはワシの……ワシのだー!!」 ゼイラは血走った眼をしてわめき散らす。魔力の黒い霧の向こうから現れたのは……二人の場違いな青年。戦闘素材で作られたわけでもない普通のトレンチコートを着ていて、肌寒い洞窟にぴったりなマフラー。 9
2016-06-29 20:52:07_地下水が流れ、泥が積もる鍾乳洞の地面を歩いたはずの革靴は全く汚れず、ザイルや縄梯子、それらを固定するために使うハンマーなどの道具類が全く見当たらない。彼らは如何にしてここまで来たのだろうか。 背の高い青年と背の低い青年が、宝箱を持って不思議そうにしていた。 10
2016-06-29 20:56:43【用語解説】 【鉈】 武器といえば鉈やメイスなど。ナイフや刺突剣などは珍しい。これは飛来物防護の魔法を応用した衝撃消散の魔法の影響である。この魔法は慣性を殺す効果を持ち、攻撃は肌の直前で静止する。ただし、重量が効果より重ければこの防御を突破できる。それで重い武器が人気なのである
2016-06-29 21:07:47