空想の街・氷涼祭'16 最終日 #赤風車

#空想の街 氷涼祭の三日目(16/07/03) #赤風車 纏め。 二日目夜更けの物語→http://privatter.net/p/1718405 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 続きを読む
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不可村 @nowhere_7

首を振って否定を続ける徒華の耳に、千草の暗然とした呟きが落ちる。 「この世界は生き人の世界だよ。僕に居場所はとうとうないんだ――、姉さん、思えばずっと、本当に、僕ら纏めて扱われてきたね。僕の帰る場所は姉さんで、姉さんの帰る場所は僕だった」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:08:26
不可村 @nowhere_7

でもね、と、すっかり冷たい弟が静かに声を紡ぐ。 「もう違ってもいいだろ。姉さん、いちばんは、――姉さんのいちばんたいせつなひとは、違う。僕じゃないでしょう、姉さん」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:11:05

愛を凶器に

不可村 @nowhere_7

「お前のことだって大事に決まってる、――言えない」 徒華はもう前を見ていられない。風船だけは自分で放してやりたくて、それだけは必死に握っているが、弟の袖を掴む手が緩みそうになる。いかないでくれ、だめだ、こんな別れは違うだろう。 「姉さん、僕も大事なら、」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:13:05
不可村 @nowhere_7

――もし僕もまだ、姉さんの『いちばんたいせつ』の枠に入っているのなら。 「聞きいれて、僕のさいごのねがいだよ。本当に死ぬときは顔もあわせられなかったけど、今はやり直せる。言って。僕の願いを、叶えて」 たいせつなひとを忘れないでね。いちばんから目を離さないで。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:15:16
不可村 @nowhere_7

「こうして姉さんの前で消えていけるのなら、もう二度と帰ってこられなくても――生きていてよかったって、生まれてきてよかったって、人生で初めてはっきり言えるから」そこで千草は徒華と目を合わせる。 「姉さん、ひとは楽しむために生まれてくるんだ。それを忘れないで」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:18:19
不可村 @nowhere_7

――生まれてきたことを、生きていることを、悲しむひとでいないで。誰かを愛することを、誰かに詫びるような生き方はしないで。 そこで白い面がゆっくりと上がる。千草が夏の空気を吐き出した。 「さあ、言って。姉さん、僕はもう謝らない!言ってくれ!」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:21:12
不可村 @nowhere_7

@TOS 言えない、 ――と徒華が絶叫した、瞬間、 目の前の、千草の瞳が、急激に大きくなる。その瞳の映すもの、自分の背後に近づくものを、徒華が認識する前に、 風船を握る徒華の手を、憶えのある大きな手が包みこみ、 言葉を載せて、低く掠れた風が、後ろから吹きぬける。 #赤風車

2016-07-08 01:33:16
不可村 @nowhere_7

@tos 中央区から歓声が響いた。風船を放すのが終わるのだ。三日間の祭りは、突然に始まって、あっけなく、花火のようにすぐ終わる。 ――徒華は何も発してはいない。硬直した目は前にいる弟に釘づけだ。 その徒華の手から、風船がゆっくりと、後ろの相手へと、渡る。 #赤風車

2016-07-08 01:36:56
不可村 @nowhere_7

うそだ、 消えてしまう、弟がきえてしまう何年も捜していたのにここで会えたのに弟が、ひきとめてはいけないのに、ひきとめてしまっては本心から願えばもう二度と会えないというのに―― 手を伸ばす徒華の先で、 千草は、風に袖を舞わせて笑っていた。 「ああ、だから、」 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:28:20
不可村 @nowhere_7

――やっぱり、 さいごのことばは、それだった。 海を背景にして泡になる千草がとけてゆくのを、徒華の手が空振りした。悪い冗談だと確かめる徒華のどこにも、もう弟は触れない。千草から見れば、徒華ともうひとりのほうが一緒に消えているということに、徒華は気づかない。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:31:53
不可村 @nowhere_7

何度確かめても弟はもうおらず、目の前にはまっすぐに海への道、すとん、とちからの抜けた徒華の手に、番傘と七宝の包みが押し付けられる。 ――秋の甘い香り。なぜ、どうして、言葉ならたくさんある。しかし徒華は振り返らなかった。 そんな気力は、もう、どこにもなかった。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:34:33
不可村 @nowhere_7

@tos ――何があっても絶対に帰ってこい。 出かける直前に長姉に言われた一言が徒華の伽藍の心臓を落ちていく。 祭の詳しいことなど何も教えてはいないのに、何が起きるかわかりきっていたかのようなことを長姉は言ったのだ。思えど無論、体はぴくりとも動かない。 #赤風車

2016-07-07 04:55:29
不可村 @nowhere_7

来たときとは逆に、珍しく一本歯の下駄が鳴っている。どんどん遠ざかるそれを徒華は背中で送るのみだ。その白い顔に何も浮かべずに、目だけちからなく開いて。 一陣風が吹いた。手元にあった弁当と番傘が音をたてて転がる。 ――徒華の帯の風車は、只管沈黙するだけだった。 #赤風車 #空想の街

2016-07-03 20:38:29

ゆうひのなみだ、いのちの響き

不可村 @nowhere_7

@tos 街に、雨が降る。 穴だらけの番傘は使われずに、立ち竦む徒華の足元で濡れている。とうとう結われなかった黒く長いその髪が、なみだのあめに、染まっていく。 しゃりん、しゃらら、海に近い廃屋に並ぶ風車から響く不思議な音は、誰の耳にも届かないまま永遠に、続いていた。 #赤風車

2016-07-08 01:42:23

最終日・終

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