悪い男に騙される山城【解】『HAruna's waRD』最終話
- mamiya_AFS
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立ち並ぶいくつもの墓石が、緑と木漏れ日の輝きを照り返している。 石畳は流石に歩き辛そうな先生を支えながら、進んでいく。 そう言えば手ぶらだわ。先生は仕方ないにせよ、私は何か持ってくるのが正しい気がした。いやでも一銭も持ってないし。 謎の言い訳を胸中で済ませ、歩く。
2013-12-18 21:09:35場所が場所なだけに、何度か分かれ道にぶつかるが、一度も立ち止まる事は無かった。 先導をしているのは私なのか先生なのかはわからない。 少なくとも、私は目的の墓石の位置を知らない。
2013-12-18 21:11:48…あった。 墓石に刻まれた名前を1つ1つ確認していたわけじゃない。 それでも見えた瞬間すぐにそれだとわかった。 最近供えられたと一目でわかる様々な種類と色の花に隠れそうな墓石だったから。 何よりも。 墓石の前で扶桑さんが手を合わせて座っていたから。
2013-12-18 21:14:22永遠に伝わる事が無いとわかっていても、言わないといけない事があった。 この2週間で、多くの言葉を用意したはずだった。 何を言おうと思っていたんだっけ。 考える。思い出そうとする。 ああ、そうだ。 謝らないといけないんだ。
2013-12-18 21:19:13扶桑さん、お久し振りです。 声を掛けると扶桑さんが顔を上げ、数秒止まってから目を見開いて駆け寄ってきた。 ご心配お掛けしました。山城が自由になるのは明日です、私だけでごめんなさい。 横目で墓石を見る。花に半分隠れているものの、刻まれた名前は見えた。 新月。
2013-12-18 21:30:40「2人の出所祝いパーティは明日だねー。日向も喜ぶだろうさ。あの子、とっくに改になれるのに、ずっとしないで待ってたしね」 新月の墓の前で手を合わせながら、しゃがむ事ができないという先生の声を背中で聞く。 「あーあと最上がね」 最上さんが!? 顔を上げて振り返っていた。
2013-12-18 21:36:18日向の話の時には動かなかったのに、最上さんの時に反応した私を見て、先生と扶桑さんが笑い始める。 急に恥ずかしくなり、同時に日向に申し訳なくなり、口をぱくぱくさせるしかない。 かつて面倒を見ていた娘の墓前だというのに、先生が屈託の無い笑い声を挙げる。 まるでそれが供養であるように。
2013-12-18 21:40:03この墓石の下に新月がいるわけではない。 それでもそこに居ると信じるしかなかった。 救う手立ては本当に無かったのかを、ずっと考えていた。 本当に撃ってしまって良かったのだろうかと。 可能性が実はあったとしても、結果は覆らない。 わかっていたが、私は謝りたかった。
2013-12-18 21:46:33「大変だったらしいねー。怪我人はわんさかいるのに、手違いで赤城が真っ先に入渠したらしいじゃん?」 あの戦いの直後の事はこの中では扶桑さんしか知らない。医療ドッグがパンクした事実を私も今始めて知った。 1番の原因は先生がいなかったからだと思いま…。 撃った私が言えるわけがない。
2013-12-18 21:50:22@harunas_ward ええ、おかげで鎮守府の外にまで怪我人が溢れてしまって・・・ でも医療に心得のある提督たちが帰投して疲れているでしょうに一生懸命に応急手当をしてくれたおかげで後遺症が残った艦娘は一人もいなかったわ
2013-12-18 21:52:39大破した子が優先されたらしいけど、その後の小破以下のダメージの子達が何を思ったか、順番を決めるじゃんけん大会を開催したらしい。 余程長い時間を待たされたのね。 そしてそれに優勝したのは最上さんだったらしい。 最上さんの事だから他の子に譲ったんですよね?
2013-12-18 21:56:56扶桑さんが言葉を曇らせる。 え、まさか…。 嫌な感覚が浮かぶ。誰にでも優しい人だと信じていたのに。 扶桑さんが語る最上さんの行動は、私の予想と大きく違っていた。 彼女は「榛名に譲る! 榛名に譲るから榛名を今すぐここに連れてこい!」とのたまったらしい。 ちょ…。
2013-12-18 22:00:08本当にバカなんだから、と思う反面うれしく思っている自分がいた。 それを冷やかす扶桑さんと先生に挟まれながら、私達は墓所の門を抜けて、道を戻っていく。 元の日常、につながる道を。
2013-12-18 22:04:41