トーメント・イーブン・アフター・デス #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのまま幾度か分岐路を進むに従い、照明はますます乏しくなり、ニンジャ視力の無いものであれば相当に難儀するであろう状況になった。タキはそこらの浮浪者を行き当たりばったりに助けに来させようとしていたのか?切羽詰まっておかしくなっているか、薬物が残っておかしくなっているか、どちらかだ。

2016-10-05 23:45:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『待て!そこで止まれ。右の壁に触れ』ニンジャスレイヤーは従った。手がすり抜けた。『そうだ。遮光ノレンになってるわけだ』IRC電子音声に実声が重なり、闇の中から聴こえてきた。遮光ノレンをくぐると、ニンジャスレイヤーは壁の隅の薄明りに照らされた狭い部屋に足を踏み入れていた。男が居た。

2016-10-05 23:51:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

椅子にワイヤーケーブルで縛りつけられ、座らされているのは、脂っぽい金髪を肩まで伸ばし、無精髯を生やした薄汚いハーフ・ガイジンだった。男はアッと声をあげ、青い目を見開き、「ドーモ!俺がタキだ!ハジメマ……」歓喜の言葉を唱えかけて凍り付き、口を歪めて悲鳴を上げた。「ニンジャナンデ!」

2016-10-05 23:58:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「通信相手は、おれだ」ニンジャスレイヤーは冷たく言った。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」「アイエ……」タキは全てを察した。繋がったのだ。エマージェントな空気、放置された彼自身、迎撃に出たニンジャとヤクザ達。つまり、デビルズカインド・キョダイのアジトを荒らしに来た外敵そのもの。

2016-10-06 00:03:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どお……どおりで」NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)症状から回復したタキは、薬物影響下でギラギラ輝く青い目でニンジャスレイヤーを見据えた。「躊躇も無しに向かってきやがると思ったら。てっきりアホなのかと……そういう事かよ。迎撃のヤクザやニンジャは?撒いたのか?」「殺した」

2016-10-06 00:08:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

黒漆塗りヘリコプター。クローンヤクザ達。コーストウインド……。ニンジャスレイヤーはタキを見据えた。「アー……」タキは言葉を探した。「まあ、せっかくだし助けてくれって。この首輪、ちぎって壊してくれ。LANが出来なくてゾッとする。いや、アンタとの通信にはエメツを使ったんだけどね」

2016-10-06 00:11:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは値踏みする目でタキを凝視する。タキが不意に叫んだ。「ヤバイ!後ろ!」だがニンジャスレイヤーはタキが警告するより早く背後を振り返り、両手にスリケンを掴んでいた。コンマ1秒後、ノレンをくぐって三人のヤクザが飛び込んできた。全員が角刈りで同じ顔。クローンヤクザだ!

2016-10-06 00:13:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」「アッコラー!」クローンヤクザは一斉にチャカ・ガンの引き金を引こうとした。それより早くニンジャスレイヤーは人数分のスリケンを投擲し終えていた。「グワーッ!」緑色のバイオ血液を額から噴出し、三人が骸と化して倒れた。「バカな!」タキが叫んだ。

2016-10-06 00:17:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーもまた、眉間にしわ寄せ、斜め後方45度ワン・インチ地点、バチバチと音を鳴らす火花を伴って姿を現した影に向き直ろうとした。死角の敵に対して驚異的な反応速度だ。だが足りぬ。この突然の奇襲者にとっては、十分すぎる猶予時間だった。「イヤーッ!」「グワーッ!」

2016-10-06 00:22:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電光が迸り、監禁室を白黒に明滅させた。「アイエエエエ!」タキが目を見開き悲鳴を上げた。彼の目に焼き付いたのは、何もない場所から火花と共に出現したニンジャが、激しい光を放つ掌打をニンジャスレイヤーのキドニーに叩きつけた決定的瞬間だった。肉を焦がすにおいと煙が監禁室を満たした。

2016-10-06 00:24:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ!あまりにも鮮やかな、ステルス装束機構を用いたアンブッシュ攻撃である。クローンヤクザの突入すらも、このニンジャにとっては伏線であったのだろう。ニンジャスレイヤーの注意をそらし、高威力の打撃を背後から決めたのだ!「ア、ア……ストリングベンド=サン……!」タキが呻いた!

2016-10-06 00:28:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「グワーッ!」ストリングベンドと呼ばれたニンジャは更なる電熱エネルギーを注ぎ込み、トドメの一撃とした。ニンジャスレイヤーは崩れるように前のめりに倒れた。何たるカラテか。アイサツさせる暇すら与えず、勝負は決していた。「いつから隠れて」タキが震えた。「……ずっとだ」

2016-10-06 00:31:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストリングベンドは酷薄な眼差しをタキに向けた。タキは首を振った。「違う。オレが雇ったんじゃない」「うむ。ヤクをキメたお前がベラベラ通信をしている間、俺はそこでステルス・アグラし、見守っておった。経緯は全て把握している」「で、オレ、どうなる?」「楽しくなりそうだ。タキ=サン」

2016-10-06 00:35:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サイコパスめ。ずっと見ていやがったのか。サイコパスめ」「まずは足の指から行くか、タキ=サン」「待ってくれよ、少し……」ドクン……ドクン……ぐるぐると回る二者の会話は徐々に遠ざかり、心音がニューロンに木霊する。停止に向かう弱々しい心音が。焼け焦げた身体を包む焼け焦げた装束。闇。

2016-10-06 00:40:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(治れ)ニンジャスレイヤーは唸った。毒づこうとした。(治れ。クソッ。治れ……何故……)痛みすら感じなかった。死だ。死が巨大な骨の爪となって彼を捉える。(まだ戦う……)(((ウカツ……)))(まだだ……!)(((なんたるウカツ……)))(戦わせろ!おれを……おれはニンジャを……!)

2016-10-06 00:43:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは……マスラダ・カイは、抗うように片手をかざした。「嘘だ」マスラダがかざした手を、アユミが掴む事はなかった。彼の目の前でアユミが血の海に崩れてゆく。マスラダは己を見下ろす。なぜ生きている。胸に穴があいている。「嘘だ。何故」マスラダは震える。「何故、俺なんだ」

2016-10-06 00:50:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アユミ。血の海。散らばるオリガミ。マスラダのオリガミだ。血で赤く染まる。マスラダは血の涙を流す。「何故、俺が生きてる」何度も問い直す。「なぜ俺だ、なぜ俺が生きて」何度も問い直す。「なぜアユミが死んでいる」何度も問い直す。マスラダを貫いたスリケンが、アユミの胸に墓標めいて。

2016-10-06 00:54:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

両膝をつく。視界がぐらつく、そして、踵を返す瞬間のあの男の眼差しが焼きつく、「サツガイ」……忘れるな。容赦なく消えてゆく記憶の断片をかろうじて掴み取る。忘れるな。サツガイ。サツガイ。サツガイ。サツガイの眼差し。虚無、いや、侮蔑だ、いや、悦んでいる……(((殺すべし)))遠い声。

2016-10-06 00:58:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なぜ生きている」(((殺すべし)))「サツガイを」(((殺すのだ)))「殺す……!」(((ニンジャを殺す!)))「ニンジャを!」マスラダは叫んだ。眼前に不定形の炎が熾った。その者はじろりとマスラダを見た。そしてアイサツした。(((ドーモ。はじめまして。ナラク・ニンジャです)))

2016-10-06 01:02:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何故生きている」(((ニンジャを殺す為だ)))ナラクが答えた。「何故アユミが死んだ。何故おれが生きている」マスラダは責めた。「おれが死ぬべきだったのに!」(((名乗れ。アイサツせよ)))怒気がマスラダを打ち据えた。マスラダはアイサツを返した。「……ドーモ……マスラダ・カイです」

2016-10-06 01:08:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウ。ニューロンが風を切り、映像記憶が散り散りになった。マスラダとナラクはいまだ対峙していたが、その後ろに見えるのは、椅子に縛られたタキと、彼をさいなむストリングベンドだった。そして、ブザマに倒れ伏した己自身の姿だった。映像はおぼろで、時間はほとんど静止して見えた。

2016-10-06 01:10:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダは目の前のナラクを見た。やや遅れて気づいた。はじめてナラクが現れた瞬間の記憶がフィードバックしていたことを。ドクン。心臓が打ち、視界一杯に、血の中のアユミが、スリケンが閃いた。「ヤメロ!」(((忘れるな、マスラダ。思い出せ。何度でも。火をくべよ。何度でもだ)))

2016-10-06 01:12:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「苦しい」マスラダは呻いた。(((然り。ニンジャだ。ニンジャがオヌシをこのジゴクの責め苦に落とした。忘れるな。儂が何度でも思い出させてやる)))「サツガイ……サツガイが、アユミを。何故おれが生きて。何故アユミが」(((サツガイというニンジャを殺したいのだろう。させてやる)))

2016-10-06 01:17:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「死ねない」(((然り。ニンジャを殺すのだ)))「傷が……」(((火をくべるのだ、マスラダ。思い出せ。執着がオヌシに立ち上がる力を与える。忘れるな)))「なぜ、おれが死ななかった!」(((ニンジャ、殺すべし!)))不浄の炎が焼け焦げた肉体を駆け巡る。血流が蘇る。筋肉が蘇る。

2016-10-06 01:20:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

装束が蘇る。ブレーサー(手甲)が蘇る。メンポが蘇る。火と血が混じりあい、すべてを復元する。「忍」「殺」の文字が燃える。(((あれはコウボウ・ジツ。熱と光を捻じり込み、敵を焼くジツだ。グググ……この程度で死んでおればこのさき千度死んでもサツガイには至らぬぞ。執着せよマスラダ!)))

2016-10-06 01:24:54