【隻腕の墓標】第四話

0
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-50 痛いところを突く。 「ナガラシステム開発は、藻類提督としても偶然によるものが大きかったそうです。ナガラシステム開発の再確認として、半年前のタカオシステム計画がありましたが、多大な犠牲を払った結末となりました」

2016-10-11 14:40:44
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-51 「それ以降、提督は確かに慎重に慎重を重ねるようにはなられました」 「臆病の間違いじゃねーのかよ」 別の提督から野次が飛んできた。

2016-10-11 14:40:58
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-52 「五体不満足のカタワ艦娘で人体実験をやってるような奴が慎重になるかよ。そんな殊勝な奴じゃねーだろあの糞わかめ野郎はよぉ」

2016-10-11 14:41:08
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-53 鈴谷は、頭に血が昇るのを明確に感じた。拳に力が入る。 「やめろ。艦娘の人権を侵害する発言とも取れるぞ」 「艦娘に人権?兵器だろ。兵器に情でもあるのかよ。まぁ、嬢ではあるかもしれないけどな」

2016-10-11 14:41:21
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-54 下衆が。 鈴谷の口から溢れそうになった、その瞬間。

2016-10-11 14:43:03
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-55 上座で静観していた青年将校が、突然机を蹴り上げた。唐突に鳴り響き宙を舞う机に、提督各々に戦慄が走る。蹴られたのは机だが、その衝撃は頭を直に蹴りつけられたようなものであった。

2016-10-11 14:43:17
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-56 「五月蝿い。内輪でゴタゴタ言い争うな。我々の敵は誰なのかを間違えるな」

2016-10-11 14:43:26
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-57 青年将校がいつも言う言葉だ。"我々の敵は誰なのかを間違えるな"。 我々の敵は身内ではない。深海棲艦だ。 そして彼が総司令本部長である限り、この会議室に集う提督は皆同胞に他ならない。 猜疑心は肯定しても、それを口にして諍いを引き起こすことを、青年将校は良しとしない。

2016-10-11 14:43:53
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-58 (相変わらずすっごいなぁ……) ところで鈴谷はというと、蹴り上げられた机が見事に真ん中から折れて真っ二つに分かれてしまっていることに度肝を抜かれていた。

2016-10-11 14:44:04
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-59 生身の人間でこんなことをする人がいるんだ、と溜息が溢れる。流石は深海棲艦を生身でトドメを刺した男。噂には違わない。

2016-10-11 14:44:38
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-60 「鹿島、皆に茶を出せ。どうやら一度頭を冷やす必要があるようだ」 「はい、提督さん」

2016-10-11 14:44:45
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-61 青年将校の背後に控えていた、秘書官である鹿島が、一礼して退室する。それを見送り、青年将校は皆を見据えると、

2016-10-11 14:44:52
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-62 「藻類提督には、俺から伝令を入れておこう。場合によっては此処に強制召集もさせる。だが先日、新システムの検証実験のために、他海域から艦娘を藻類基地へ転属することを認めたばかりだ」

2016-10-11 14:45:13
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-63 「ひとまず、その成果を伺ってからでも遅くはないと思うが、どうかな皆の衆」 実質それが強制でしかないことは、鈴谷でもわかることだった。やっぱりこの人は凄い、と鈴谷は改めて実感した。

2016-10-11 14:45:23
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-64 「さて、鹿島の茶を待とうか。会議の再会は、それからでも悪くない。 鹿島の茶はな、実に美味いぞ」

2016-10-11 14:45:29
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-65 青年将校の鶴の一声もあって、その後藻類基地が追求されることはなく、会議は滞りなく終了した。

2016-10-11 14:47:11
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-66 鈴谷は背伸びを思いっきりして、長時間椅子に座り続けたことによる身体のコリをほぐしていた。その鈴谷の背後から声をかける人物がいた。 「あれ、貴女は」 「暁よ。……さ、さっきの礼を言いにきたのです」

2016-10-11 14:47:24
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-67 末席の方でオドオドしていた、代理参席の駆逐艦の子だった。青年将校が机を蹴り上げた時に緊張の糸が切れたようで、そのまま泣き出してしまったため、私が慰めたのだった。

2016-10-11 14:47:52
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-68 「れ、レディーにあるまじき醜態を、いや、涙を殿方の前で見せて、鈴谷さんのお手を煩わせ…あぅ…」 言葉が続かない。レディーと振る舞おうとしているのと、子供として素直に謝ろうとしている、その狭間で右往左往している、そんな様に自然と鈴谷は笑みが零れた。

2016-10-11 14:49:31
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-69 「怖い殿方が多いからしょうがないよね」 「あ、暁は子供ではありません!」 「ううん、私だって殿方は怖いと思っているよ」

2016-10-11 14:49:52
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-70 鈴谷は屈んで、暁と目線を合わせる。 「鈴谷さんも?」 「うん。艦娘とはいえ、やっぱり男性と女性の差はあるからね。怒鳴られたりしたら当然怖いわよ」 「泣き出したくなるくらい?」 「うん、泣き出したくなる」

2016-10-11 14:50:03
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-71 暁の帽子を取り、鈴谷は頭を撫でる。 「今は私が頭を撫でているけど、私がどうしても怖くなって泣いてしまったら、暁さんは、私の頭を撫でてくれる?」

2016-10-11 14:50:53
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-72 顔を真っ赤にして涙を浮かべていた暁の目元から、涙が引いた。頭を撫でられる照れ臭さもあるようだが、何かを悟ったのだろう。

2016-10-11 14:51:01
ななみわかめ@創作 @S_Wakame_S

4-73 「……その時は、その時は……暁が鈴谷さんの頭を撫でます。いっぱい撫でます!」 「よろしくね」

2016-10-11 14:51:10