ヨグヤカルタ・ナイトレイド #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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リンク note(ノート) 第4話【ヨグヤカルタ・ナイトレイド】 | ダイハードテイルズ | note ダイハードテイルズの限定公開ノート | 2016-11-08 00:22:20 +0900
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワモン・タエイシの遺影の前の灰にマスラダはセンコを刺し、決まった通りの祈りを捧げたが、冥福を祈るよりも、(おやじさんが死ぬまでに、おれは何物にもなれなかったな)という悔恨に近い気持ちが半分以上を占めていた。育ての親のワモンは悪い死に方はしなかった。よく笑い、よく生きた。 1

2016-11-08 22:11:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワモンは小さなドージョーのカラテ・センセイであり、過去にはもっと規模の大きい孤児院の面倒を見ていたらしい。マスラダとアユミは、老境を迎えたワモンがそうした仕事を信頼のおける人手に渡したのち、ほとんど気まぐれのように引き取った孤児だった。 2

2016-11-08 22:15:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダもアユミも実の親の記憶は持たなかった。それでよいのだ、とワモンは幼い二人に請け合った。それでもマスラダは物心ついたのち、実の親について深く調べた事がある。結果、ワモンの言葉には嘘はない事がわかったし、それ以上しらべればロクな事にならないと思った。家族はワモンとアユミだ。3

2016-11-08 22:20:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

成人してから二人はワモンに追い出されるように社会に出た。それから彼に顔を合わせたのは臨終の三日前だった。病状については隠していたらしい。「サヨナラ」マスラダは呟き、振り返った。アユミが正座から立とうとして呻き、よろめいた。「痺れた……」アユミは苦笑した。マスラダと目が合った。 4

2016-11-08 22:23:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「久しぶり」アユミが小声で言った。「背が伸びた」マスラダは頷いた。アユミは01101アユミは倒れている。血溜まりが拡がる。マスラダはアユミを庇った筈だ。マスラダはスリケンの前に立ちはだかった、命を賭して。八本の刃を生やしたスリケンはマスラダを貫き、アユミ010010「アユミ!」5

2016-11-08 22:30:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

0100101マスラダは緑の格子模様が遠く輝く暗黒の空間に漂い、0と1に霧散する血の涙に濡れていた。我に返った。前方に見知らぬ地平が見える。着地せよ。さもなくば彼という存在は曖昧な世界に呑まれて塵めいて砕けてしまう事だろう。遠く狂おしい笑いが聞こえる。誰のものかはわからぬ。 6

2016-11-08 22:32:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マスラダ!」ナラクの声が響き渡った。マスラダは世界に焦点を合わせた。途端に彼は小型のドヒョーめいた土台の淵に着地していた。コトブキがマスラダを見ていた。その足下には武装警備員がのびている。マスラダはひどい吐き気を覚えたが、ニンジャ耐久力がすぐにその怖気を中和し、無感覚にした。7

2016-11-08 22:37:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ついたのか」ニンジャスレイヤーは闇を見回した。行きのポータルとまるで変化のない空間だ。だが空気が違う。温度が、湿度が違う。「開けて出ましょう」コトブキは隔壁を指さした。「イヤーッ!」KRAAASH!マスターキーめいたニンジャ腕力が隔壁を破壊。二者は外へ出た。 8

2016-11-08 22:39:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

隔壁の外側の脇に立っていた警備員がぎょっとして二人を見た。ニンジャスレイヤーは首筋にチョップを打ち込んで倒した。そこは見覚えのない夜の丘だった。複数のサーチライトが上空に投げかけられている。イン・ヤン模様めいた二つの月と、黄金の立方体。空にあるのはネオサイタマの夜と同じか。 9

2016-11-08 22:43:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「水の臭いだな」「プロゴ川です」コトブキは強い風に揺れる髪を押さえ、遠くを指さした。「方角は西ですね……うわあ!」コトブキは指さした方向に見えたものに驚き、口を押えた。「見てください、川向う」「見える」闇の中、遠くわだかまるのは、溶けた黄金めいた明かりの塊だった。 10

2016-11-08 22:48:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは黄金ではなく、ライトアップされる石造遺跡群であり、この地、否、周辺海域と島々を含めた広域を支配する謎めいた王の居城でもある。(((ニンジャ……ニンジャぞ!)))ナラクの声が稲妻めいてニューロンに刺さった。イクサの最中でもない今、それは特異な反応だった。 11

2016-11-08 22:55:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鼓動が強く打ち、ニンジャスレイヤーは堪えた。コトブキが怪訝そうに見た。「早くこの場所を離れましょう。巡回警備も来ますよ」「わかっている」(((これは……何たる……!ニンジャソウル憑依者ではない……!あの川向うだ……マスラダ!何者だ……あれは何者だ……近くへ……!))) 12

2016-11-08 22:59:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「駄目だ、ナラク!」ニンジャスレイヤーはソウルを御した。目から赤い血が流れ、コトブキをさらに驚かせた。ナラクの感じた異常はしかし、マスラダ自身も感じるところだった。それほどに強かった。この地の者たちは常にこのような邪悪なアトモスフィアを西に感じながら暮らしているというのか? 13

2016-11-08 23:01:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

GGGGRRR……石造遺跡群の背後に巨大な長虫……否、百足だ……百足が身をもたげるさまを、彼は幻視した。心臓が更に強く打った。(((今わかった!あれはムカデ・ニンジャだ!)))ナラクが唸った。「行きましょう!」コトブキがニンジャスレイヤーの手を引いた。「東!ヨグヤカルタへ!」14

2016-11-08 23:04:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

走りながら二人は言葉をかわした。「間違いないです、川向うに見えたのはシャン・ロア=サンの城です。王様です。きっと敷地に踏み入ったら逮捕されますよ」コトブキは言った。「目の病気ですか、ニンジャスレイヤー=サン」「問題ない」邪悪で巨大なアトモスフィアから背を向け、彼らは走った。15

2016-11-08 23:09:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タタン!タン!タタタタタタン!タタタタタタタン!タタタタン!窓の外、見下ろすストリートで光を帯びたスモークが明滅し、子供達が興奮して叫びながら走り回る。タタタタタタン!連続する破裂音は鳴り止まぬ。窓から見下ろすニンジャ、ロングゲイトはもはやこの喧噪にも慣れ、平然としていた。 17

2016-11-08 23:17:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

振り返ったベッドは天蓋付きだ。部屋の隅に置かれたインセンスも良い。非常に良い宿が手配されていると言えよう。実際それは社の期待の表れだ。今回予定されている折衝はなかなかにタフなものとなる。「フー……」ロングゲイトは氷の中からシャンパンを取り出し、クリスタル・グラスに注いだ。 18

2016-11-08 23:24:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヨグヤカルタは美しい街だ。家々は紫や緑や金に照らされ、川沿いのボンボリは水面に明かりを揺らしている。多少冒険的なエキサイトメントがほしい観光者であれば、夜市に繰り出すのもよいだろう。ロングゲイトはその手のものにさほど興味はない。彼はコウ・タイ・シュメイ社のエージェントである。19

2016-11-08 23:29:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タタタタタタタン……タタタタタタタン。バクチクの破裂はヤケクソめいてもいた。ヨグヤカルタの市民達は皆、なにかをひどく怖れ、それをアッパーな感情で上塗りしているように思える。ロングゲイトは苦笑した。困難なビジネスの緊迫感が、周囲の環境に勝手なイメージを植え付けてしまっている。 20

2016-11-08 23:35:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はUNIXデッキを開き、サンズ・オブ・ケオスのIRCフォーラムに接続する。サンズ・オブ・ケオスはプライヴェートの互助組合だ。熱心な者もいれば、さほど頻繁には接続しない者もいる。直接顔を合わせるものもいれば、地球の裏側で好き勝手暮らしている者もいる。 21

2016-11-08 23:38:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし構成メンバーには共通点がある。全員がニンジャであり、全員が……「サツガイ」と接触した体験をもつ。サツガイに接触した者は皆、それまでの自身の能力とは全く脈絡のない強力なジツを与えられている。ロングゲイトも然りだ。あれはゾッとするような、冷たく苦しい体験だった。 22

2016-11-08 23:41:03