_ドイラは辺りを光源装置で照らした。ひび割れたコンクリート、錆びた鉄骨。セラミックプレートはあちこちが剥がれている。かなり老朽化が進んでいた。完全に放棄された区画だ。 少年が言うには近くにシルフの巣があるという。彼らと少年は友達だというのだ。 11
2016-11-12 19:28:23「悪いことは言わん。シルフと人間は価値観が違いすぎる。上手な友好関係を築くのは難しい」 「えーっ、でも、今日はパーティがあるって」 「シルフのパーティなど屠殺場と変わらん」 ドイラと少年はシルフの巣に向かって歩き出した。少年にかけた魔法を解いてもらうためだ。 12
2016-11-12 19:33:21_床はナメクジが這ったようにぬるぬるとしていた。石油スライムがあちこちで繁殖しているのだ。仕事の途中だったが、シルフの食い物にされかけた少年を見過ごすわけにはいかなかった。 「少年、瞳に刻まれた魔法の意味が分かるか?」 「えっ、瞳に……?」 「生贄の印だ」 13
2016-11-12 19:38:41_少年は慌てふためいて、足をすべらし尻もちをついた。 「そんな……僕は友達だと……」 「シルフだってそう思っているさ。大切な友達だからこそ、大切な生贄に捧げてやろうってことかもしれない。奴らと人間は価値観が違いすぎる」 ドイラは少年に手を差し伸べて立たせてやる。 14
2016-11-12 19:44:48「価値観の差を埋める行為こそ、交渉と対話だ」 偉そうなことを言われて、むすっとする少年。しかし、すぐさまその表情が焦りに変わる。ドイラは少年の視線の先、自分の背後を見た。闇の中に桜色の亀裂。 「む……」 「シルフたちだよ!」 15
2016-11-12 19:50:38_桜色の亀裂はこちらへ向かってぴしぴしと伸びてくる。古い亀裂はガラスの破片のように粉々になって闇に消える。そうやって桜色の亀裂はこちらへ向かって進んでくる! (低級シルフか) 余りにも格の低いシルフは恥ずかしくて神の姿を象ることができず、人間型をしていない。 16
2016-11-12 19:55:10_ドイラは拙いシルフ語で対話を試みる。友好のジェスチャー……両腕を大きく左右に伸ばすポーズをして意思表示。だが、興奮したシルフには効かなかったようだ。 「シュキシュキシュキ!」 ガラスの擦れるような音を発して近寄る桜色のシルフ! 「マズイっ」 17
2016-11-12 20:00:00_次の瞬間、桜色の亀裂が急激に膨らみ、爆発した! ドイラは一瞬の判断の後に、飛来物防護の魔法を展開する。光線防護と迷ったが、読みは正解だった。自らを魔力の矢弾と化して破裂したシルフは、周囲を完全に破壊しつくした。コンクリートや鉄骨が蜂の巣になる! 18
2016-11-12 20:04:30_飛来物防護の魔法は魔力の矢弾全てを弾き飛ばす。ドイラは少年を抱きかかえて逃げる。 『コロス……』 シルフの声が木霊し、闇の中に次々と桜色の亀裂が生まれる! 「どうして殺す! 生贄はやめろ!」 『生贄にナレナイなら……死ンダ方がマシでしょう』 (価値観が違う!) 19
2016-11-12 20:09:02_そのとき老朽化したコンクリートに大きな亀裂! 周囲で一斉に爆発しそうなシルフたち。大量の魔力の矢弾による飽和攻撃を受ければ、飛来物防護の呪文では防げない。ならば……。 「これは事故だ! いいな!」 ドイラは自分の足元に向けて……呪文を炸裂させた! 20
2016-11-12 20:14:11【用語解説】 【人型をしたシルフ】 人型とはつまり神の姿であり、人間は神の姿を継承して生まれた。しかし、シルフは虚空に吹いた風より自然発生した存在である。一部の強硬派のシルフは我こそ神に肩を並べるものとおごり、勝手に神の姿を象った。神々はというと、特に相手にしていないようである
2016-11-12 20:19:18