エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・前編~

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前回の話

まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~3世代目・後編~ シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 21142 pv 34 2 users

以下本編

帽子男 @alkali_acid

王の葉は枯れゆく。 緑の森は闇の森へ変じる。 西の光はいよいよ薄れ、東の闇はいよいよ濃くなる。 初めの子等は海のあなたへ去り、暗き世が始まる。 黒の乗り手よ。妖精の魔法はもはや汝がもの。 何故に奴隷を解き放たぬ。何故に虜囚を故郷へ帰さぬ。 呪いのため。 ただ愛という名の呪いのため。

2019-09-30 19:35:10
帽子男 @alkali_acid

マーリ。 黒の乗り手の呪いがエルフの妃騎士に産ませた四世代目。 ドワーフ語で地底の星を意味する。金剛石のことだ。 ちゃんと上エルフ語の名もあったのだが、本人がドワーフ語を好んだ。 小さなマーリはエルフが苦手だった。すらりとした四肢を備え、傷なき美を持つ種族が。

2019-10-01 20:58:25
帽子男 @alkali_acid

というのもマーリは生まれつき左腕が右腕より大きく、右足が萎え、背が曲がっていた。 西方人やエルフならば、血の穢れのせいだと言い立てたに違いない。悪しき交わりが結んだ胤に、相応の報いが下りたのだと。 東方では、少なくとも影の国でそう訴えるものはいなかったが。

2019-10-01 21:03:22
帽子男 @alkali_acid

父たる呪歌の匠ラヴェインは、目に入れても痛くないほどに一粒種を慈しんだ。 親元から離されて育った楽士であったが、幼い我が児は手元に置いて決して離そうとしなかった。待ち望んだ子であったのだ。

2019-10-01 21:05:42
帽子男 @alkali_acid

黒の歌い手は七年ものあいだ朝に夕に妖精の虜囚を抱き、日に七度は種をつけた。 「いささか…しつこいぞ…っ…」 「だって赤ちゃん欲しいもん」 愛用の楽器のように奏で方を知り尽くし、細やかに調律した奴隷を爪弾き、掻き鳴らしながら、主人はそうねだる。

2019-10-01 21:12:08
帽子男 @alkali_acid

「きぅっ…♡」 「ありゃ?もう音が飛んじゃった…仙女様…また敏感になってない?」 「誰のせいとぉ…思っておるっ…ナシールはもっと…遠慮があったぞ…っ」 「それだけかなあ?」

2019-10-01 21:13:50
帽子男 @alkali_acid

楽士は生きた楽器を隅々まで検め、尖った耳を噛んだり、胸や股のあいだの飾りを弾いたり、唇を吸ったりして、また幾度か気をやらせてから、下腹に脈打つ模様をなぞる。 「ひぐぅ!?」 「これだね。やっぱり。紋様が広がってる」 「だから…お前のせいと…言っている…」

2019-10-01 21:16:35
帽子男 @alkali_acid

「あたいが仙女様を奏ですぎるからか…」 「歌もだ」 ラヴェインはダリューテを膝にのせ、つながったまま向かい合ってともに歌うのを好む。 「あれは…私の胎にへばりついた毒蔦に…欠かさず水をくれてやっているようなものだぞ…育つに決まっていようが」 「解ってるけど…」

2019-10-01 21:19:57
帽子男 @alkali_acid

「いい加減、何とかせよ…子をなすどころではない」 「あたいには外せない。とうさん…ナシールもできなかった。もともと厄介な術で、おまけに仙女様の体についてるドワーフの飾りが邪魔なんだよ」 「これを私につけた…あの狂った小人も役に立たぬししな」 「モシーク。へんなやつ」

2019-10-01 21:22:07
帽子男 @alkali_acid

「これ…そう言いながらまだ…そろそろ止めよ…今宵はもう十分」 仙女が繰り返し叱ると、ようやく楽士は諦めたように玩弄を止め、琵琶の手入れにうつる。 暗い膚を除けばエルフそのもののしなやかな主人の裸身を、奴隷は毛皮の褥の上にぐったりと寝そべったまま見やる。 「何故に子を望む」

2019-10-01 21:25:52
帽子男 @alkali_acid

「だって欲しいから」 「答えになっておらぬ」 「ダリューテは、どうしてあたいを産んだの」 「知っているはずだ。ナシールが望んだ」 「とうさんは最初、黒の乗り手にするために、あたいを望んだ。おじいさんが、とうさんを望んだのと同じ理由」

2019-10-01 21:30:24
帽子男 @alkali_acid

「たわけども…親子そろって…うつけであった」 「とうさんも、おじいさんも、いざ子供ができたら、黒の乗り手にさせまいとした」 「お前も同じ轍を踏むか」 「あたいは、子供を黒の乗り手にしない」 「ならばなぜ…私に産ませようとする」 「仙女様が好きだから。だから赤ちゃんほしいんだ」

2019-10-01 21:34:41
帽子男 @alkali_acid

呪歌の匠はそう答え、森の奥方をまっすぐ見つめる。 「おかしい?」 尋ねるラヴェインに、ダリューテは震えてかたえを向く。 「影の国の外で妃を見つければよかったのだ。ナシールも…お前も…」 「仙女様みたいなひと、ほかにいないよ。それにさ…とうさんも、おじいさんも…本当はそれだけかも」

2019-10-01 21:38:10
帽子男 @alkali_acid

「あやつらが何だと言うのだ」 「黒の乗り手なんてどうでもよくて、ただダリューテが好きで、だから赤ちゃんが欲しくなっただけかも」 「くだらぬ…聞く耳持たぬ…」

2019-10-01 21:39:55
帽子男 @alkali_acid

かかる交わりの末にマーリは生まれた。 いびつな男児。けれど麗しい父は毛皮でくるんで胸に縛り、どこへでも連れまわった。世界のあらゆる童歌を聴かせ、手ずから襁褓(むつき)を変え、魔狼の乳や、妖精の庭でとれる蜜を、薬草で調えた食餌を与えた。 「おちびさん!あんたは世界一かわいい!」

2019-10-01 21:44:05
帽子男 @alkali_acid

物心つく前の息子は、女と紛う男親があやしかけるたび、嬉しそうに大きさの異なる両手を開いたり閉じたりしたものだった。 だが大きくなるにつれ、世継ぎの躰のゆがみはますますはっきりしてきた。 立って歩く年になっても這うのも下手だった。 「あたいがずっと抱いてればいいよ」

2019-10-01 21:46:37
帽子男 @alkali_acid

「…それでその子は幸せか」 奴隷が問うと、主人は目を伏せる。 「あたいの歌じゃ…だめなんだ。とうさんの癒しの技だけでも足りない」 「お前達にさえ変えられぬものがある」 「…うん…」 黒の歌い手は眠る児を撫でつつ考え込む。

2019-10-01 21:49:48
帽子男 @alkali_acid

囚われの妃騎士は、一歩側へ近づこうとして、折悪しく胸と股の飾りが揺れ、下腹の紋様が燃えるのに唇を噛む。 「ぁっ…んっ…く…」 そうして潤んだ双眸を急に見開く。 「ラヴェ…イン…ドワーフだ」 「ドワーフって…あっ、仙女様…だいじょうぶ?」 「これしき…それより…ドワーフを頼れ」

2019-10-01 21:52:41
帽子男 @alkali_acid

「ドワーフって、あの狂った小人のモシーク?」 「お前やナシールにも外せぬ飾りを作った…あの男なら…お前やナシールにできぬことを…やれる…やも…しれぬ」 「そうか!うん!ありがとダリューテ!」

2019-10-01 21:54:04
帽子男 @alkali_acid

子を連れた看守が速足で場を後にすると、残った捕虜はへたり込む。胎を灼く紋様の輝きは薄れてゆく。愛するものがそばにいなければ力が弱まるようになっている。 「…ええい…まったく…手のかかるものばかり…」

2019-10-01 21:56:07
帽子男 @alkali_acid

楽士は黒竜の背に乗って、影の国の最奥、滅びの亀裂を望む工房に降り立つ。 「モシーク!モシーク!おーい!」 「…聞こえているぞ、新たな黒の乗り手。そろそろ竜鎧を作らせる気になったか」 狂った小人があらわれる。また訳の解らない道具を抱えている。 「うちの子を歩けるようにしてよ」

2019-10-01 21:59:01
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