エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・前編~
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二人はそのまま木々のあいだをそぞろ歩き、白い蝙蝠を見つけた。 影の国の蝙蝠はゴブリンや人間を乗せて飛べるほど大きくなるはずだが、掌に乗りそうなほど小さく華奢で貧弱で、毛色の違いからかほかの蝙蝠にいたぶられ死にかかっているようだった。 「…あたいの…使いにしようかな」 「待て」
2019-10-03 00:32:34とにかく二人は白い蝙蝠を連れ帰った。緑の谷へ。 さて数日後、ぜんぜん関係なく、隠れ蓑をまとった西方人の刺客が、黒門近くの野外円形劇場で、集まった聴衆に楽曲を披露していた呪歌の匠を襲った。
2019-10-03 00:37:05結論から言うと、ラヴェインは傷一つ受けなかった。いやいや舞台に上がっていたマーリが父をかばったからだ。 光の諸王の祝福を帯びているはずの野伏の剣は、親を守ろうとした片輪の童児を後ろから斬り裂き、
2019-10-03 00:39:30黒の乗り手の近衛の長であるオーガ、ガウが憤怒の咆哮とともに徒手で駆けつけるより早く、頭上を舞って歌を遠くまで届けていた竜のうち一頭、ちなみにゴンが急降下してばくんと刺客を食い殺してしまった。
2019-10-03 00:43:00黒の乗り手に止められず人の肉を食う機会はめったにないので、早いもの勝ちの勝利である。 「父上…無事?」 「なにいってんの」 「歌…最後まで…歌わぬと」 「それどころじゃない」 「予は…かすり傷」 いやいやいやいや。
2019-10-03 00:45:50黒の癒し手から継いだ技で手当を施したあと、血止めをした息子の見守る中、父はきっちり演奏と歌唱を再開し、最高に 盛 り 上 が っ た。 結局、マーリの傷も大事には至らなかった。
2019-10-03 00:48:45だが隠れ蓑はまだ西方諸国とエルフの手に残っていた。 そう何着もではないが。 姿を消し、探索の呪文からも魔狼の鼻からも逃れる不思議の衣は、貴重な材料を必要とする。王の葉の毒と同じ、そうそう数は作れない。光の諸王の加護が薄れ、光の軍勢に役立つ薬草や鳥獣が減りつつある今日では猶更。
2019-10-03 00:51:25「残る隠れ蓑の数は十は超えないはず…もう増えはしない…でも…次の襲撃はきっとある…」 ラヴェインの心の奥でナシールが囁く。 「マーリ…あたいのマーリ…あたいのせいで…また」
2019-10-03 00:53:27なお狂った小人のモシークだけは弟子の負傷にもかかわらず楽しそうだった。 「興味深い!隠れ蓑か。ふむ。これがあれば山の下の王国にも…調べさせてくれ雇い主!」 「なにいってんの」 「何か解れば、きっとお前やマーリを守る役に立つぞ」 「あっそ。どうぞ」
2019-10-03 00:55:37いやそれがまずかった。 しばらくしてドワーフの工匠は影の国から出てゆく。隠れ蓑と一緒に。 おまけになんと、まだ怪我も治りきらぬ幼い弟子を連れていってしまうのだ。 「手伝いがいないとやはり不便だからな」 という理由で。
2019-10-03 00:58:18次の話
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