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ツイートまとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~3世代目・中編~ どうだ…さすがに振り切ったはずだ…ぜえぜえ… ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 9678 pv 34

以下本編

merethion @merethion
勝手に帽子男さんのえるどれふぁんあーと 髪の色の記述が検索した範囲では見つけられずイメージ優先で スカートの解釈おさげの解釈ゆるくてすみません ほんとはもっとずっとぜんぜんかわいいしかっこいい>< pic.twitter.com/znouU7gfO8
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帽子男 @alkali_acid
大きな桶が一つ、海辺に流れ着いていた。 木の桶。ただし大人の男が十人は中へ入ってゆとりあるほど大きい。 表面にびっしりエルフの文字が刻んである。 清らの桶。 今は滅びた西の島が誇る神秘の一品。 まことの魔法息づく、驚異の道具。 最強の海軍たりし黄金艦隊が携えた宝のうち至高のもの。
帽子男 @alkali_acid
効能を聞けば、南の海賊から北の商船まで船乗りなら垂涎の的としたろう。 さて清らの桶にはいかなる力があったか。 何でしょう? 何でしょう? 答えは桶に汲み置いた塩水から真水を作り出せたのです。
帽子男 @alkali_acid
塩水から、 真水をね。 それだけ。 いやそれだけどころではない。 清らの桶一つあれば戦艦(いくさぶね)は港に立ち寄らず長い長い航路を進める。 いや、きっと欲しがったのは海の男、海の女ばかりではない。陸の男や陸の女とて海辺に暮らし水の不足に悩んでいれば、喉から手が出るほど欲した。
帽子男 @alkali_acid
だが西の島が誇った至高の魔法も、黄金艦隊が海の藻屑と消えた今もはや意味をなさない。西の果ての地を統べる光の諸王が放った津波によって、船や島ばかりではなく、かかる神秘の品も多くは毀(こぼ)たれ、壊れ、沈みあるいは破片となって波間をただようばかり。
帽子男 @alkali_acid
砂浜にめりこんでぽっかり曇天に向かって口を開けた桶も、もはや一滴の塩水を真水に変えることさえ能わない。 残念。 誰かが拾っても物語は始まりそうもない。 そうだろうか。 そうだろうか。 一匹の黒犬が走って来て、くんくんと匂いを嗅ぎ、吠える。 後から暗い膚の少年が軽やかに追いついつく。
帽子男 @alkali_acid
砂の上にほとんど足跡を残さない歩みは、妖精を思わせる。 「ラヴェイン。ごらんよ。君の言った通りだった。この中にあった」 「あったりまえじゃん」 琵琶を背負い横笛を携えた細身の楽士は、そっと四つ足の連れのあとから覗き込む。 「あたいが弾くたび、吹くたび、歌うたび、聞こえてたんだ」
帽子男 @alkali_acid
「信じられないよ。あの大津波に呑まれて、わだつみの底へ沈まず、桶に転げ込んで、陸まで流れつくなんて」 「あたいとこいつら、つながってる」 楽器を操るのに慣れたしなやかな指が伸びて、桶から円かな輪郭を持つ握り拳ほどの大きさの何かを取り出す。宝石のような、骨のような、黒く艶やかな塊。
帽子男 @alkali_acid
竜の卵。 いまだ生まれざる三頭のドラゴンの、命の揺り籠が戻ってきた。 災いを呼ぶ吟遊詩人の腕の中に。 運命に導かれて。
帽子男 @alkali_acid
魔法を失った西の島の桶は、最後に思わぬ役目を果たしたのだった。
帽子男 @alkali_acid
ラヴェイン。 四分の一だけ人間、四分の三はエルフ。尖り耳の楽士は東を目指す。 幼馴染の喋る黒犬アケノホシは反対する。 今までにない厳しさで。 「だめったらだめだ。東だけはだめだ」 「あたい決めたんだ。仙女様に会うんだ。そして仙女様のいる影の国を、世界で一番盛 り 上 が る 場所にする」
帽子男 @alkali_acid
「だめだ!東にある影の国は邪悪な魔人、黒の乗り手が支配している。君の命が危ういぞ。黄金艦隊と一緒に西の果てをめざす旅と同じぐらい危険だ」 古い友達である獣は頑なに訴える。 「あたいが変える。楽しい場所に。黒の乗り手だって変える。そうしたら、皆もう東を恐れない」
帽子男 @alkali_acid
琵琶弾きの心はもっと堅固だ。 毛むくじゃらのおつきは三角の耳を立てて、尻尾をぴんとのばす。 「君は解ってない!黒の乗り手は本当にひどいやつなんだ。沢山の人間の命を情け容赦なく奪ってるんだ。近づくんじゃない」 「だったら猶更。そんなやつに捕まってる仙女様、ダリューテをほっとけない」
帽子男 @alkali_acid
「仙女様とは夢の中でも会える。歌の中でも会えるじゃないか」 「そんなんじゃ足りない。あたい近頃いつも考えてる。仙女様の手に触ったらどんなんだろうって。黄金王のつれあいの白銀后の手みたいに柔らかいのかなって」
帽子男 @alkali_acid
「ラヴェイン…」 「仙女様の髪はそばで見たらどんな風だろうって。海賊王のつれあいの赤銅后、鶚(みさご)みたいに水に濡れて輝くのかなって」 「そんなこと考えちゃだめだ」 「どうして?あたい、仙女様が好き」 「君はほかの、平和な場所で幸せになるんだ」 「平和な場所ってどこ?」
帽子男 @alkali_acid
「君が育った北の岬の神殿とか」 「たまたま津波は来なかったけど、光の諸王がまた人間のふるまいに癇癪を起こしたらどうなるの」 「じゃあエルフの暮らす船作りの港とか」 「エルフは皆出てゆくよ。それにあたい、あんなことがあって、もう西の果ての地に焦がれるやつらのところでは暮らせない」
帽子男 @alkali_acid
「西方人の王国のどこかでいい」 「どこも皆お互いに戦い合ってる」 「それなら…」 「ねえアケノホシ!あたいもう子供じゃない!黄金王と一緒に航海に行ってから、そうじゃなくなったんだ!この世界に本当に平和な場所なんかない。少なくともあたい等には与えられてない」
帽子男 @alkali_acid
歌唄いは楽器を抱えおろして爪弾く。音色は以前に比べれば落ちている。エルフの木でできた本体は津波にも耐えたが、影の国に巣食う大蜘蛛の糸で撚った弦がだめになり、ありきたりのものに取り換えたのだ。
帽子男 @alkali_acid
それでもラヴェインが奏でれば、たちまち澄み渡った旋律を生み出す。 「平和は世界のどこにある。光の諸王も黒の乗り手も、みんながみんな無慈悲で残酷。月の沈む西の果ても、日の昇る東のかなたも、どこをめざせど危険は危険。だったらあたい、平和はいらない。行きたいところへ行くだけさ」
帽子男 @alkali_acid
戯れ歌であっても、アケノホシは耳を立てたまま聞き入る。 詞も曲もすぐに変化し、風の吹くまま雲の流れるまま、旅する人々の心意気を吟じるものになる。 「ドワーフはゆくよ北の山から南の山まで。宝石や金銀を求めて。エルフはゆくよ。東の森から西の海へ。故郷を求めて」
帽子男 @alkali_acid
「ゴブリンは獲物を求めて影の国を出る。トロールは骨を齧る洞窟を求めて。オーガは戦いの気配を探して。人間は何のため?ただ目的もなくさまよう?あたいは行く。仙女様に会いに!!」 潮騒を圧して響き渡る即興の歌は、声量も表現の豊かさももっと幼かった頃とは比べものにならない。
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コメント

スゥ。ニャオロン(似鳥龍オルニトミムス) @_2weet_sue 2019年10月2日
バンダもナシールもラヴェインも好きだったけどマーリも好きになれるかな?黒の鍛え手は一つの指輪は拵えなかったのだからサウロンではないし。続きが書かれるかはワカラナイけどダリューテに置いて行かれた娘が次代の森の女王になるまでの物語も読みたいな。彼女の元にも仙女さまは幻となって姿を現していたかしら?
しめじ @shimejinnn 2019年10月16日
黒の乗り手はみんなかっこいいけどやっぱりラヴェインが好きすぎます