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前回の話

ツイートまとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~2世代目~ え、まだ見てるの? YouTubeにしな! ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 22859 pv 14 27 users

以下本編

帽子男 @alkali_acid
今夜はあと少しだけラヴェインの物語をしよう。 四分の一だけ人間、四分の三は妖精。 兜の呪いがなければ、女として産まれてくるはずだった。 けれども、必ず男となるよう運命はねじまがった。 歪みは不吉を招く。 一切が正しく常なる世界では、そうでないものは生きられない。
帽子男 @alkali_acid
いや、そうだろうか。 はたして、そうだろうか。 ラヴェインは父よりも祖父よりも大きな産声を上げて母の胎から出てきた。 ここにる。呼吸している。生きている。 正しく常なる世界など知るものかと。 強い嬰児だった。幸せにも。
帽子男 @alkali_acid
沢山泣いて笑いながら、海の辺の神殿で育った。 潮騒の止まぬ岬の突端、塩辛い匂いが風に乗ってくる石造りの塔で。 妙な黒犬が赤ん坊を運んできた。楽器と塚山の黄金と一緒に。
帽子男 @alkali_acid
一応の育ての親は、塔の神官。光の諸王のうち海を司る青と緑の鱗の鎧をまとう女神を崇めていた。魔法使いではなかったが、鋭い勘をしていた。 「この子には呪いがかかっている。遠い東のはて、影の国から伸びる不吉な気配がまとわりついている。災いを避けるため女として育てよう」
帽子男 @alkali_acid
ラヴェインはかくして髪を伸ばし、裳裾(スカート)を穿いて大きくなった。 もっとも邪魔にならないよう膝上で縛ってしまったし、髪も高く結ってしまったが。 「あたい、動きづらいのきらい!」 妖精の血がそうさせたのかもしれない
帽子男 @alkali_acid
ぴょんぴょん跳ね回る女装の少年は、しかしなるほど、おとなしくしていれば実に可憐な顔立ちをしていた。もちろんおとなしくしていることなど、ほぼなかったが。 あまり神官の話を聞かず、手伝いもそこそこに漁師の子達と遊んだかと思えば、小舟に潜り込んで離れ小島にわたり、あざらしを脅かした。
帽子男 @alkali_acid
危なっかしいが黒犬がどこへでもついていった。 波のあいだにもざぶざぶ入って、流されすぎると引き戻した。 おせっかいやきの四つ足の名前はアケノホシ。 ちなみにこいつは喋れた。たいていはラヴェインにだけ聞こえるように。 「ねえラヴェイン。楽器を弾いてみなよ。琵琶(リュート)か横笛をさ」
帽子男 @alkali_acid
「ひけっこないよ。あたい、ひきかたしらないもん」 「ひける。琵琶はナクハイアルって名前さ。そいつがひきかたをしってる。君が一番あいたいひとにあえるよ」 「だれのことさ」 ぷっと頬を膨らす少年だが答えは解ってた。夢の中で毎晩会う仙女様。緑の庭にいて、いつも色んな歌を教えてくれる。
帽子男 @alkali_acid
なるほど指でそっと弦に触れると、琵琶に魂が宿っているのが解った。 「横笛はミルドガードというんだ。どっちももともとはエルフの騎士だったのさ」 「騎士?ってなんだっけ?」 「馬にのって駆ける人」 「うま?船みたいなの?」 「似てるけど似てないな」
帽子男 @alkali_acid
アケノホシはいろいろなことを知っている。 楽器に触れているうちに自然に弾き方は吹き方は身に着いた。 とても楽しかった。 何より演奏していると夢で覚えた歌が自然に口をついて出る。 するときらきらと仙女様が陽炎のようにあらわれる。 「ラヴェイン。変なかっこうだな」 仙女様は結構舌鋒鋭い。
帽子男 @alkali_acid
「仙女様!あたいのうた!どう!」 黒犬のアケノホシが吠える。 「最高!」 「まだまだだな。演奏とずれているし、舌足らずだ」 仙女は手厳しい。 「ナクハイアルはもっとうまかった」 「騎士?」 「そうだ」
帽子男 @alkali_acid
ラヴェインは歌がどんどん好きになった。仙女に会えるし、歌っていると気分がいい。元気が出る。 「盛 り 上 が っ て き た!」 勝手に盛り上がるし。 「ラヴェイン!もっと弾いて!」 「アケノホシはだまってて」
帽子男 @alkali_acid
犬は常に褒めまくるだけなので女装の少年はあまり重んじない。 いいやつだけどね。仙女に褒めてもらいたい。 「もっと練習して、もっともっとうまくなりたい」 「いいね!」 「神殿のお手伝いをやめた」 「え、それはどうかな。神官さんはいい人だし」 「でもめんどくさいもん」
帽子男 @alkali_acid
「でも!でもここはとっても安全だし、それにほら海が見えるよ!」 「うん。海は好き」 「西へ旅立つにはきっとここで暮らすのがいいよ」 「なにそれ」 「ふふーん。そうかラヴェインは西のことを知らないんだな。僕が教えてあげようか?ねえねえ?」 「やっぱいい」
帽子男 @alkali_acid
神官さんはいい人かもしれないが、少年が歌うと嫌がる。 「それはエルフの言葉だ。妖怪の悪い言葉だぞ。どこで覚えた。さあ楽器をよこしなさい。お前と一緒に置いてあったから取り上げずにおいたが、なにか災いを招く気がする」 「やだよ!神官さん!ごめんね!」
帽子男 @alkali_acid
あっさり家出してしまう。塚山の黄金はすべて置いていく。 「ねえラヴェイン。ラヴェインたら。やっぱり戻ろうよ。外は危ないよ」 「へーきへーき。どっかで歌と琵琶と横笛と、あと踊りの練習しようっと」 黒犬が心配してついて回っても、少年はぜんぜん意に介さない。 防風林に入ってぽろんぽろん。
帽子男 @alkali_acid
「潮で弦が痛むかな」 ナクハイアルはそういうことも教えてくれる。 「ちょっとやそっとなら大丈夫さ。特別な糸でできてるもの」 「どんな糸」 「と、特別な糸」 「だからどんな糸」
帽子男 @alkali_acid
アケノホシは物知りのくせにときどき隠し事をしたがる。 「あたい、自分の楽器のことは知っておきたい!」 「う、うん。その糸は大蜘蛛の糸を撚ったんだ」 「蜘蛛って神殿に巣をかけてたやつ?」 「もっと大きいんだ…」 「あたいも蜘蛛をつかまえて作れる?」 「この辺の蜘蛛じゃないから」
帽子男 @alkali_acid
少年は黒犬を質問責めにする。 「教えて!教えて!教えて!」 「わかったよ。まいったな。影の国に棲んでる大蜘蛛さ。こわいやつなんだ。でも取引をして、楽器を作った人に糸をよこした」 「影の国?おばけの巣だよね?神官さんが言ってた」 「そうだよ!悪いやつらがいっぱいいるんだ!」
帽子男 @alkali_acid
「ずっと東のほうにあるんでしょ」 「うんまあね。それより西の話をしない?海のむこうのことさ」 「あとで。影の国にはほかになにがあるの」 「なんにも」 「うそ」 「小鬼がちょっといるだけさ。いじわるなね」 「小鬼!どんなの!?」
帽子男 @alkali_acid
アケノホシは東の影の国の話より、光の諸王が統べる西方の地の話をしたがったが、ラヴェインはまるで逆だった。 「ねえ!こんなにすごい海があるんだよ!どうして西へ行きたいと思わないの。西には沢山のエルフが暮らしてるんだ」 「エルフ…エルフって?おばけでしょ?影の国にもいる?」 「いない」
帽子男 @alkali_acid
黒犬は答えてから、尻尾をぱたぱた振って耳を倒す。 「ひとりだけいる」 「どんなおばけ?」 「おばけじゃないよとても…きれいですてきなひとだ」 「じゃあ影の国いこっと」 「だめ!!とんでもない!影の国は悪いやつがいるんだよ」 「どんなの」 「黒の乗り手だ。ひどいやつだ」
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コメント

kenjirou_takasima @kenjirou 2019年9月26日
面白い、続き早く読みたいな
スゥ。ニャオロン(似鳥龍オルニトミムス) @_2weet_sue 2019年9月26日
「いつも疲れからか黒い毛並みの大型犬というか明らかに狼とぶつかってしまう。」文章オカシイと思ったらwww
いくら @YamadaIkra 2019年9月28日
いつも楽しませてもらってるけど、今回のすごく好き。