エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・前編~

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帽子男 @alkali_acid

「黒の乗り手にはエルフから盗んだ魔法があるだろう」 「それだけじゃだめなんだ」 「それで今度はドワーフの技巧を盗むという訳か」 「なんでもいいからお願い」 「竜鎧を作らせるか」 「あたいはこいつらに無理強いはできないな。アン、カラ、ゴン!誰か鎧がほしいやつ?」

2019-10-01 22:00:44
帽子男 @alkali_acid

三頭の黒竜、それぞれアンとカラとゴンと名のついた若き長虫は青い炎を吐いて応じた。 「ぜんぜんその気ないみたい」 「乗り手に似て工芸の価値を理解せぬやつらだ。まあよかろう。何事もやってみるものだ。歩けるようにすればいいのだな?」 「うん!」

2019-10-01 22:02:44
帽子男 @alkali_acid

モシーク。影の国を恐れるどころか好んで住み着くおかしなドワーフは、マーリの萎えた足をまっすぐにする筒のような細工を作り、さらに曲がった背を支える人工の骨をも産み出した。 「短いようが、この子が大きくなるにつれ、節から節が出るようにして骨は伸びてゆく」 「径も細いね」 「十分だ」

2019-10-01 22:05:24
帽子男 @alkali_acid

「本当かな」 「あとはお前が琵琶の弦に使っている銀の糸をよこせ。決して朽ちぬ繊維を」 「あれ、どこか知らない土地から来た銀の蜘蛛が吐くんだ。あんたが欲しがるだけの量があるかは解らない」 「いいからよこせ」 「いいよ。あたいの琵琶についてる分だってあげる」

2019-10-01 22:06:57
帽子男 @alkali_acid

黒の歌い手は我が子に魔法の旋律を聞かせて深い眠りにつかせ、黒の癒し手から受け継いだ麻酔と外科の技を駆使して、小人の細工を埋め込んだ。 「目を覚ましたらきっと痛がるよ」 「すぐになじむ。あれは真銀で作った」 「真銀。歌に出てくるけど、地上にあったんだね」 「小生の故郷で採れるのだ」

2019-10-01 22:09:11
帽子男 @alkali_acid

「真銀がとれるのって…ずっと北の…山の下の王国だっけ?モシークってそこから来たんだ」 「そうだ。悪くはないところだが、口やかましいやつも多くてな。目下はここの暮らしが気に入っている」 「あっそ」

2019-10-01 22:11:22
帽子男 @alkali_acid

「時々、この子供のようすを見せにこい。修理の必要があるかもしれん」 「修理って何さ」 「小生の技に過ちはないが、命とは不完全なものだからな。何が起きるか解らん」

2019-10-01 22:12:36
帽子男 @alkali_acid

真銀の背骨を持つ少年。萎えた片足を華奢な真銀と蜘蛛糸の網筒で支えて歩けるようになった童児。 血肉とのあいだに齟齬がないか検めるため幾度か、小人の工房に通ううち、影の国の世継ぎはいつのまにかいつくようになった。 「ちちうえ。よはここにいる」 「えー!?」

2019-10-01 22:16:03
帽子男 @alkali_acid

「おちびさんは、ずっとあたいと一緒だよ!」 「よはマーリ、おちびさんはちがう」 「おちびさんは、おちびさん、あたいのおちびさんだったら!」 「ちがう。マーリ」 「なんで?好きなお歌を唄ってあげるから…」 「いい」 「なんで!?あたいが嫌いなの!?」 「ちがうけど、うるさい」

2019-10-01 22:18:33
帽子男 @alkali_acid

「うる…だってだって、モシークの鎚音だの鞴(ふいご)の音だのの方がうるさいじゃない!あたいよりずっとずっと」 「うるさい」 「うう…ひどいよおちびさん」 「…ちょっとだけ、うたって」 「やった!」

2019-10-01 22:19:54
帽子男 @alkali_acid

だがマーリは、やはり親と一緒に暮らさなくなった。かわりにモシークの手伝いをちょこまかとこなすようになった。 小人の工匠は理由などきかず、年端もゆかぬ子供をこき使い、ありとあらゆる技を叩き込んだ。 「うまくできない」 「道具を変えろ」 「予にあうどうぐなんてない」 「作ればいい」

2019-10-01 22:22:08
帽子男 @alkali_acid

モシークは、マーリの左右大きさの異なる腕に合わせて、鍛冶と細工の道具を拵えた。 「これは見本だ。お前はもっと自分に合ったものを自分で作れ」 「…予にできるかな…」 「できない部分はほかの職人を雇え。得意不得意を弁えれば簡単だ」 「ほかのしょくにん…?」 「目の前にいる」 「モシーク」

2019-10-01 22:24:40
帽子男 @alkali_acid

マーリがいい顔をしなくても、ラヴェインは五日に一度はやってきた。 「おちびさ…マーリ!マーリ!ドワーフの歌を仕入れてきたよ」 「それより父上。アンとカラとゴンに工房の屋根をむしるのをやめさせほしい」 「爪とぎ牙とぎがしたいんだよ。育ち盛りなんだ」 「こまる…」 「ねえお歌!」

2019-10-01 22:26:59
帽子男 @alkali_acid

たおやめの如き姿態と容貌を持つ父が、工房の椅子に浅く腰を預け、結った長い髪をゆすりながら琵琶を爪弾き歌うと、いびつな息子はいつもたじろぐ。 「どう?山の下にある黄金より尊い宝…なんだと思う?」 「真銀(まことのぎん)」 「そーかなー。それだけ?」 「もうかえってくれぬか…あとこれ」

2019-10-01 22:30:40
帽子男 @alkali_acid

マーリは小さな水晶のつけ爪を差し出す。 「なにこれ!きれー!」 「つくった」 「作った?おちび…マーリが?」 「そうだ」 「どういうふうに使うの」 「指にはめて…それで弦を…はじく」 澄んだ音色がする。本物の爪よりもずっと。

2019-10-01 22:32:21
帽子男 @alkali_acid

「すごい!すっごーい!マーリって最高!!」 「父上のうつくしいつめが、いたまずにすむ」 「美しい爪って…あたいの爪じょうぶだけど」 「もうかえってくれぬか」 「それより仙女様のところに一緒に行こうよ。あたいとアンに乗る?カラの背中でもいいよ」 「予は…竜には乗れぬ」

2019-10-01 22:34:10
帽子男 @alkali_acid

マーリはあとずさる。 「予のからだは、父上とはちがう」 「じゃ!あたいが抱っこする」 「…予は…」 そこでのそのそとモシークが出てくる。 「おお、黒の乗り手が来ていたのか。竜鎧を作らせる気になったか」 「アンとカラとゴンに聞いて」 「竜とは話が通じん」

2019-10-01 22:36:24
帽子男 @alkali_acid

「マーリ、雷を使った鍍金だが、まだ再現ができん。七日前からの記録を調べ直して来い」 「わかった」 幼い弟子がわずかにびっこを引きながら去ると、師匠の方は雇い主に向き直る。 「竜鎧もそうだが、乗り手のお前もいつも裸も同然だな」 「影の国って熱いんだもん。特にこの辺」

2019-10-01 22:38:36
帽子男 @alkali_acid

「先代の乗り手はもっと着込んでいたぞ。だが着込み方が足りなかったな。まさか影の国の中で妖精の矢に射られて死ぬとは。お前もその無防備さではいずれ同じ定め」 「あたいの歌が届くより遠くから弓を引いたり呪文をかけたりできるやつなんていないよ」

2019-10-01 22:41:18
帽子男 @alkali_acid

「先代とて千里のかなたに使い魔を放ったり、生霊を送ったりしたそうではないか。それにまたエルフが隠れ蓑をまとって近づいてきらどうする」 「へーき。だいたい矢がちょっと刺さったぐらいじゃあたいは死なないよ」 「毒はどうだ?」

2019-10-01 22:44:15
帽子男 @alkali_acid

黒の歌い手は水晶のつけ爪で蜘蛛がつむいだ銀糸の弦を弾く。 「あたい、たいていの毒は通じない」 「先代もそうだった。だが倒れたぞ」 「あたい、もっと強いんだ。とにかく着たくないものは着ない」 「指輪に念じれば暗黒の甲冑が身を守るというのに」 「便利だよね。どうやって作ったのこれ?」

2019-10-01 22:47:25
帽子男 @alkali_acid

狂った小人は髭をなでる。 「それか。実はな。もともとそういう作りだったのだ」 「モシークが魔法で甲冑が指輪になるようにしたんじゃないの?」 「ドワーフは魔法を使えん。だが魔法がかかっていようと、武具を繕うのは得意だ。小生はただ、兜を直し、胸当てや籠手や具足などを補っただけ」

2019-10-01 22:49:47
帽子男 @alkali_acid

「そんだけ?」 「ああ。しかし欠けた部分を埋めてやると、暗黒の甲冑は自然に指輪のかたちに折りたたまれた。恐らくほかの黒の乗り手の武具もそうであろう」 「へんなの」 「実に面白い」 「あっそ」

2019-10-01 22:51:59
帽子男 @alkali_acid

「それで、竜鎧はいつ作らせる」 「あきらめなよ」 「竜どもを説き伏せよ」 「それより仙女様の飾りはいつ外れるの」 「あきらめろ」 「あんたがつけたんじゃん!」 「あれ自体はつまらぬ細工だが暗黒の甲冑を調べた成果を生かした。お前の指輪あるいは兜と似ている。外して死なずとも心は罅入る」

2019-10-01 22:56:12
帽子男 @alkali_acid

「ふざけんな!」 「怒るな。お前の声はエルフににてきんきんと頭にひびく」 「ふ!ざ!け!ん!な!」

2019-10-01 22:57:22
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