超超低予算の自主映画と商業映画の現場はどこがちがうか? ――『見えないほどの遠くの空を』を参考に

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榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中!!! @chimumu

0.超超低予算の自主映画の現場について、商業映画と比較しつつ、つぶやきを連投します。但し、僕は『見えないほどの遠くの空を』が映画監督としては唯一の作品なので、商業映画の現場はすべてプロデューサーでのものです。

2011-05-22 22:00:43
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1.まず、撮影日数が少ない。最初『見えないほどの遠くの空を』の脚本を書いた時に僕が求めた撮影日数は三週間。別に計算してのことではなく多めに言ってみただけだ。が、この案は“問題外”としてあしらわれた。撮監の古屋からも「低予算Vシネならば5日で撮れと言われますね」と返された。

2011-05-22 22:02:35
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2.結局、ゴネにゴネて二週間のスケジュールを奪取(うち2日撮休)。「5日で撮れと言われる」と言っていた撮監の古屋幸一も、俺が描き上げた絵コンテを見てからは「あそこがもう1日あれば」というようなことを言うようになった。

2011-05-22 22:03:10
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3.自主は撮影日数が少ないだけじゃない。スタッフの数も少ない。『見えないほどの遠くの空を』では撮影部は撮監含めて三名。照明部は二人。録音部は二人。これは低予算の劇場用商業映画と比べて少なくとも一人ずつは少ない勘定である。

2011-05-22 22:04:15
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4.『見えないほどの遠くの空を』の助手の何名かは学生である。つまり、各技師は撮影しながら技術を学生に教えていく。当然、すらっとはいかないし、ミスを前提にして現場に参加してもらっているので、ミスしたからといって変えるわけにもいかない。ミスして学ぶ為に参加してもらっているのだから。

2011-05-22 22:05:39
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5.また、現場における機材の種類が超超低予算と商業映画とでは違ってくる。まずカメラ。今の自主はフィルムではなかなか撮れない。ただ、デジタルで撮る決心をするとカメラ本体に関しては、今の自主映画はプロと同じ機材で撮れることもある。けれど、レンズやその他の撮影機材の選択肢はやはり狭い。

2011-05-22 22:06:40
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6.例えば、移動ショットをどうするかを考えよう。手持ちなのか、レールなのか、それとも車椅子なのか? 手持ち撮影はその揺れる画面がドキュメンタリー感をいい感じに出す場合がある。けれど、手持ちはいやだとなった場合は、車椅子かレールが必要だが、これがない現場が自主映画には多い。

2011-05-22 22:08:12
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7.となると、カット割りの構成を固定カメラとパン(カメラの首を振る)で作っていかなければならない。今泉力哉の演出は基本的にはこれで押し通している。『見えないほどの遠くの空を』の場合は、レールと手持ちと古屋が買ったばかりのステディカムで移動ショットを撮った。

2011-05-22 22:09:34
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8.もう一つの選択肢は、長廻しだ。カットを割らずに、俳優にずーっと芝居をさせてそれを丸ごと撮ってしまう(大抵手持ち)。これはうまくいくと生々しさがが出る。が、ヘタすると(こっちの方が多いが)どこかメリハリがなくなり、映画がダレる。けれど、それが狙いならば問題ない。

2011-05-22 22:11:20
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9.僕は超超低予算映画においては、少ない日数で全シーンを撮りきる為に長廻しという手法が使われていると思っている。ただ、本来は役者がうまく、段取りに時間をかけてこそ生きる手法なのではないか。もっとも、少ない日数を逆手に取って長廻しで上手くいった例というのもあるのかも知れないが。

2011-05-22 22:13:01
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10.レンズの種類は自主の現場ではかなり限定される。この辺は自主映画や超低予算で経験を積んでいる人にとっては常識で、このことを前提に考えるが、初監督で妄想ばかりが膨らんでいる俺のような素人は無茶を言うので、俺が撮影プランを喋っている最中によく古屋は黙って首を横に振っていた。

2011-05-22 22:14:23
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11.フィルムで撮影する自主映画には現場録音なしというのもある。フィルム代を節約して、撮影をスピードアップし日数を短縮、アフレコで勝負するという方法だ。自主映画を撮り続けカンヌの常連となった小林政広監督の第一作『クロージング・タイム』はオールアフレコだという。なんと35ミリ撮影。

2011-05-22 22:16:41
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12.次は移動問題だ。商業映画ではかなりの低予算でもロケバスというのがチャーターされて、大抵、新宿か渋谷に集合して現地に向かう。が、自主ではロケ現場までの移動は基本は電車移動である。塚本晋也監督の現場も昔は一台のバンに女優と衣裳を積み込んであとのスタッフは電車移動だったらしい。

2011-05-22 22:17:28
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13.『さんかく』などで有名になった吉田恵輔は塚本監督の怪獣シアターの面接で「僕、バン持ってますよ」と嘘を付いてスタッフとして採用された。もっとも吉田恵輔はちゃんとそのバンを調達したから、その嘘は嘘でなくなったわけだが。このように自主には車両部というものは大抵、ない。

2011-05-22 22:18:50
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14.ただ、これはちょっと心配事項である。これだと撮影が終わって撮影スタッフが運転することになる。撮影スタッフは撮影中に相当疲れているし、撮影の後半には疲労困憊している。事故なんか起こしたら一発で撮影は停まる。事故には充分気をつけなければならないな、と遅まきながら車の中で考えた。

2011-05-22 22:20:01
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15.その他、商業映画にあって自主に大抵ない部門はなにか。例えば『見えないほどの遠くの空を』では、スクリプターがいない。衣裳部というものも現場にはない。高橋靖子さんに選んでもらった衣裳はセカンドの助監督(女性)が管理していた。

2011-05-22 22:21:08
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16.『見えないほどの遠くの空を』には美術部、装飾という担当もいなかった。実はここは冨永昌敬監督に突っ込まれたところで、衣裳と装飾の担当は現場につけた方がいいというのが冨永監督の意見である。じゃあ、ではどこを削るのかというと冨永監督にいわせると録音だそうだ。

2011-05-22 22:22:32
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17.冨永監督のアドバイスはアフレコにしろというものではなく、録音部を一人体勢にしろということだった。『見えないほどの遠くの空を』の録音部は、マイクのついた棹を持っている助手と、録音機を持っている者との二人体勢である。(他ワイアレスは二発用意してた)

2011-05-22 22:23:18
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18.1人の技師が録音機を首から下げてスウィッチを押しながら棹を持てばいいと冨永は言う。『SR サイタマノラッパー』は監督自ら棹を持っていたと教えてくれた。因みに入江監督は冨永監督の大学の後輩。『パビリオン山椒魚』では助監督を務めている。

2011-05-22 22:23:58
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19.最後に録音・整音について。ものすごい低予算では録音の専門家をつけるのは難しいが、劇場公開を狙うのなら、録音や整音はプロに頼んだ方がいいと俺は思う。音は自主映画の意外な弱点である。以下参照 http://bit.ly/jdOxVV

2011-05-22 22:25:01
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20.今泉力哉とこのあいだ話したが、最近の作品で初めてプロの整音がついて、音が見事に整っていくので感動したと言っていた。DVDだけでなら我慢できるが、劇場で聞くとアマチュアの音はかなりキツイ。この間、ENBUゼミの卒業製作を観た時も痛感した。

2011-05-22 22:26:30
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21.ところが、音のスタッフは選択が難しい。撮影のように一目瞭然というわけにはいかない。僕は音づくりのタイプをちょっと強引に二つに分けている。一つは台詞を前にくっきり浮き上がらせるタイプ。もう一つは環境音と微妙に溶け合わせて生々しい感じを出すライブタイプ。僕はくっきり型が好みだ。

2011-05-22 22:27:41
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22.整音をどうするか悩んだ時に、鈴木昭彦に電話した。鈴木は低予算映画の駆け込み寺的な存在で、困った時によくみんなが相談に行く技師だ。非常に熱心で面倒見がいい。この鈴木自身はライブタイプである。台詞なんかをちょっとくぐもらせて仕上げるタイプである。――これは僕の主観での分類だが。

2011-05-22 22:28:54
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23.その鈴木昭彦と佐々木浩久監督の推薦で登場したのが臼井勝だ。映画美学校で録音も教えている。臼井勝の名前が挙がった時に僕は聞いた。「鈴木さんの音に似てるの?」この時の鈴木の返答が「いや、似てない。大丈夫」だったので笑った。実際、臼井との音作りはうまくいったと思う。

2011-05-22 22:29:16
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24.若い録音マンで僕が最近知ったのは、森岡龍の多摩美の卒業製作『ニュータウンの青春』で録音をやっていた根本飛鳥(@nemoasu)。なんと、この映画は録音機材に関しては『見えないほどの遠くの空を』よりも豪華だった。ただ、整音された音はまだ聞いていない。

2011-05-22 22:30:30