低線量放射線被曝をめぐる混乱=医療と保健物理

@south_mall さんによるまとめ 「低線量放射線被曝を巡る混乱の背景にある医学と保健物理学のアプローチの違いについての分析ツィート」( http://togetter.com/li/153779 ) もあります。独自の解説もついていてオススメ。
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tomojiro @tomojiro

今回の低線量放射線被曝を巡る混乱は医療と保健物理という二つの専門分野の専門家の意見が極端に違うところからおきていると思う。問題はこの二つの分野の放射能のリスクに対する見方が全く別で、歴史的にも違う形成をされてきたことに問題がある。

2011-06-24 21:57:55
tomojiro @tomojiro

放射線を診断と治療に扱う医学(放射線医学、画像診断学、がん治療)にとって放射線とはリスクとベネフィット両方の意味がある。そもそも医療行為一般というのは常に患者・対象者にとってリスクとベネフィットと考慮して治療手段を選ぶ。その上で侵襲性の高い手技を選ぶのか他の手段をとるのか考慮する

2011-06-24 22:02:46
tomojiro @tomojiro

さらにここ10年、20年の医療の現場での「激変」と言うと(これは必ずしも徹底されておらず問題もある)医師のパターナリズムの排除(つまり医師が患者に一方的に治療方針を決定することを排除)、患者・当事者の生活の視点の重要視(QOL)、インフォームド・コンセントと患者の自己決定権の尊重

2011-06-24 22:12:13
tomojiro @tomojiro

以上のことはリスクコミュニケーションが適当であったかどうか、あまりに対応がナイーブ過ぎたのではないかといった疑問もあるが、長崎大学の山下俊一氏がなぜ今回のような対応を提案したのかを理解するのに重要。100mSv以下の放射線のリスクをどう見るかは技術的な問題だが。

2011-06-24 22:16:31
tomojiro @tomojiro

それでは20mSv問題で涙の退任をした小佐古敏荘氏が理事長を務める保健物理学の見解の基盤はどこにあるのか。自分は医学編集者なので保健物理に関しては今回の事故が起きて急遽勉強したのでそこは割り引いてほしい(この教科書わざわざ買ってしまった http://t.co/HL0Oyqt

2011-06-24 22:23:23
tomojiro @tomojiro

"Radiation Protection and Dosimetry"によれば保健物理とはそもそも鉱山で働く労働者の健康を守るため1930年代に「放射線防御学」の名ではじめられたがある時期からその否定的名称が嫌われ「保健物理(Health Physics)」と名前を変えたらしい

2011-06-24 22:28:05
tomojiro @tomojiro

保健物理の目的は放射線事業(原発等の民間核施設、核軍事施設等)に従事する労働者、作業員の「被爆」の予防。放射線が人体に与える影響を動物実験や試験管等の実験で研究。疫学的調査も行う。しかし、治療や診断は行わない(これは医療の仕事)

2011-06-24 22:33:11
tomojiro @tomojiro

保健物理学からみれば放射線というのは純粋なリスクであり何としても避けなければいけないものとして捉えられる。保健物理の専門家はこのリスクの予防と回避の専門家である。医療のあらゆる医療に関連した行為・現象はそのリスクとベネフィットを計算して当事者と合意の上で選択する姿勢とは大きく違う

2011-06-24 22:40:44
tomojiro @tomojiro

保健物理と医学の放射線に対する見方の違いは直接今回の福島原発事故の対応に影を落とす。医学の立場(疫学)からすれば原爆の被爆者等に関する膨大な疫学的追跡調査などから「経験的(事後的)」に100mSv以下の放射線被爆は統計上生活習慣に起因するガンのリスクと大差がないと判断する

2011-06-24 23:26:30
tomojiro @tomojiro

一方、日常的に放射線を被爆する現場(原発での作業、あるいは放射線を扱う医療機器等に関わる現場)での継続的被爆を考慮しなければいけない保健物理の立場からすれば「予防的」に、「保守的」に放射線被爆の影響を想定しなければならないため、あらゆる仮説や可能性を取り入れて保守的に対応する

2011-06-24 23:30:38
tomojiro @tomojiro

たとえば医療の立場からすれば先ほどtweetしたが最近(2000年以降)広島・長崎の原爆被爆者の長期追跡データから100mSv以下の被爆で(具体的には60mSv)の発ガンリスクの可能性が提唱されている。疫学の立場からするのならたとえこれが事実だとしても他の生活リスクによる(続く)

2011-06-24 23:34:00
tomojiro @tomojiro

(承前)発ガンリスクと大差ない誤差ないの可能性としてある意味では「のんびり」と対応しかねない。しかし、保健物理の立場からすればたとえ些少な可能性としてもそれをリスクに入れて対応するインセンティヴが働く。これがまさに低量放射線被爆に対する対応の違い

2011-06-24 23:36:26
tomojiro @tomojiro

小佐古氏が例の20mSv問題で涙の辞任をした背景には恐らくあの次期管政権が放射能被爆に関するアドバイスを保健物理の専門家から山下氏を中心とする医療の専門家のアドバイスに切り替えたことが背景にあると思う。どちらも自分のフィールドに忠実に従事した結果だと思うとやりきれない

2011-06-25 00:12:44