シー・ノー・イーヴル・ニンジャ #5
ニンジャスレイヤーは全身の力を振り絞り、起き上がろうと努めた。血流が四肢にエネルギーを循環させるが、それはアスファルトの淡雪めいて虚しく失われてしまう。ぼやけた視界がイグゾーションの足先をとらえる。用心深く距離をとったまま、値踏みするようにニンジャスレイヤーを見下ろしている。
2011-08-08 17:49:12(殺すべし……ニンジャ……憎き敵……殺すべし……)ニューロンにフジキドの憎悪が木霊する。それはやがて地獄の底から沸き上がるようなもう一つの声と重なりあう。((殺すべし……ニンジャ……ニンジャ殺すべし……))フジキドはナラク・ニンジャのうわ言めいた呟きを命綱のように握り締める。
2011-08-08 17:55:00((……ニンジャ殺すべし……))やがて全身に新たなエネルギーが循環しはじめる。不浄なエネルギーが。枯れた温泉の隣に新たな温泉脈が発見されたように。ブラックドラゴンとのイクサ以後、戦いの中でフジキドは徐々にこのイメージを育てていた。ナラクの力を引き出すイメージを。ニンジャ殺すべし。
2011-08-08 17:59:33「なんと!まだやれるのか」イグゾーションが驚きの声を上げた。「何者だニンジャスレイヤー=サン?」殺すべし……ニンジャ殺すべし……「ニンジャ殺すべし!」次の瞬間、ニンジャスレイヤーはうつ伏せ姿勢のまま空中へ跳び上がった!「イヤーッ!」
2011-08-08 18:05:17そのままニンジャスレイヤーはイグゾーションめがけてダイブ!そして空中パンチを繰り出す!「イヤーッ!」速い!「イヤーッ!」イグゾーションは咄嗟に腕をクロスさせ奇襲攻撃をガード!並のニンジャであれば一撃で首から上を吹き飛ばされたであろう打撃!イグゾーションのブレーサーがひしゃげる!
2011-08-08 18:16:55「できる!」イグゾーションは飛び下がりカラテ姿勢をとった。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早く踏み込む。踵が地面と摩擦し煙を噴き上げる。そして拳を突き出す!ポン・パンチ!「イヤーッ!」イグゾーションは片膝と両腕でガード姿勢!しかしポン・パンチはそれを破った!「グワーッ!?」
2011-08-08 18:26:06衝撃に負け、イグゾーションのガードが開く!ニンジャスレイヤーは突き進んだ。本来ポン・パンチは繰り出した後の体勢復帰に時間を要するカラテ技である。しかし、おお、いかなる物理的克服か!?ニンジャスレイヤーは既にイグゾーションのワン・インチ距離でジュー・ジツをかまえていた!
2011-08-08 18:29:10「なんと……」「……」ニンジャスレイヤーの片目が不吉に光る。そして、「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワァァーッ!?」六!六連打である!一瞬にして六度の打撃が、イグゾーションの肋骨に叩き込まれた!「ゴボッ!」イグゾーションのメンポから血が零れる!
2011-08-08 18:58:25体勢を崩したイグゾーションめがけ、ニンジャスレイヤーはチョップを振り上げる。カイシャクだ!「フフフ君は……無理をしているね」イグゾーションが不敵に笑う。「ゴボッ」「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは肩口めがけ、無慈悲にカイシャク・チョップを振り下ろす!「イヤーッ!」
2011-08-08 19:01:14ゴウランガ!チョップが!チョップが止まった!なんたることか!イグゾーションはチョップの手首を掴み、止めたのだ!「君は無理をしている。私も頑張ってみようじゃないか」イグゾーションの両眼が白色LEDボンボリめいた光を放つ!ナムアミダブツ!セルフ・バリキ・ジツ!
2011-08-08 19:06:37「実際このジツは……加減が難しい!」「ヌウーッ!?」ニンジャスレイヤーはもがくが、手首を掴んだ手は振り払えない。「このジツは自分用ではないのだ。加減を間違えばあっという間にオーバーロードだよ!そしてもちろん私はここでセプクするつもりは無い……イヤーッ!」「グワーッ!?」
2011-08-08 19:11:05強烈!強烈なアッパーカットである!顎を拳で突き上げられたニンジャスレイヤーが垂直に吹き飛ぶ!そしてナムアミダブツ!グラウンドの空に張り巡らされた金網に大の字に叩きつけられ、力無く落下!ニンジャスレイヤーは大の字にうつ伏せダウン!もはやナラクの力は活動限界か……!?
2011-08-08 19:19:14「さすがだった!ニンジャスレイヤー=サン!さすがはベイン・オブ・ソウカイ・シンジケート!ハハハハハ!」バリキ・ジツが自らの精神に影響を及ぼしているのか、イグゾーションは大袈裟に拍手して歓喜した。「私の怪我はだいぶ重い!ハッハハハハハハ!誇りに思いたまえ!ハハハハハハ!」
2011-08-08 19:23:43ニンジャスレイヤーはぴくりとも動かぬ。無念……無念の気絶か!そして恐るべしザイバツ・シャドーギルド!恐るべしグランドマスター位階!ニンジャスレイヤーのカラテ努力はまだ足りぬというのか!?このままカイシャクされてしまうのか……!?イグゾーションはなにやら思案顔で彼を見下ろす!
2011-08-08 19:27:18そのままイグゾーションは4分の1分ほど思案していただろうか?やおら彼は背後を振り返った。そして、戸口に立ったニンジャ存在を睨みつけた。「何者だね?」「おう!派手にやってる!嫉妬しそうだぜ!」ニンジャはグラウンドに散乱したヒューマン・ボムの残骸たる無数の手足を見渡した。
2011-08-08 19:31:35「エート、ドーモ、どっかのニンジャ=サン。デスドレインです!」拘束衣めいたニンジャ装束を着たそのニンジャは嘲るようにオジギした。その足下に、じくじくと黒い質量存在が染み出し、わだかまる。「祭りは終わっちまったの?」
2011-08-08 19:35:55「ドーモ、デスドレイン=サン。ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスター、イグゾーションです」イグゾーションはアイサツを返した。「残念ながらそういう事になるね、デスドレイン=サン。君は……ふむ、ザイバツのニンジャではないのか」「いやァ、悪いなァ」デスドレインは頭を掻いた。
2011-08-08 19:39:52「グランドマスターって偉いんだよな?ザイバツ=サン。この前、あンたのとこの下っ端をよろしくやっちまったよ。許してくれよな。死ぬ時そいつら、ブザマに泣いてたぜ、へへへへ!」デスドレインはニンジャスレイヤーを見た。「そいつ、死んでンの?」「……」デスドレインの足元が黒く沸騰する。
2011-08-08 19:44:11「まぁいいや!」デスドレインは肩を竦めた。「おれの目当て、そいつじゃねェし、このへんに散らばってる奴らでもねェから……わかるんだよ、俺の目当てはそのへんでクソどもに紛れて死ぬようなタマじゃねェって。俺はピンと来るのよ。実際あンた殺してる暇は今は無いや!目当てに逃げられちまう」
2011-08-08 19:49:36「私が君を引き留めるかも知れないぞ?」イグゾーションはデスドレインをまばたきせず見据えている。「ああ、それは無理だ!」デスドレインは手をひらひらと振った。直後、彼とイグゾーションとの間に間欠泉めいた黒い飛沫が噴き上がった!怒涛を挟みデスドレインが嘲笑う。「オタッシャデー!」
2011-08-08 19:53:47「開けたり閉めたりする」とレリーフされた呪術的八角形のマンホール蓋がガタガタと揺れた。そして沈黙。……そしてまた音を立てて揺れ始める。路地は狭い。いまだ日は高い時間帯であるが、この区域は薄暗い。
2011-08-08 22:11:29ガイオン地表レベルといえど、富裕層ばかりが暮らすわけではない。ゴリラ門付近などは尚更だ。門のただ一枚越えれば、その先にはキョート市民権IDを持たぬ者たち、アンダーガイオン居住者よりもなお虫けらじみて扱われる者たちのスラム街が広がる。門のこちら側も行儀が良いとは言い難い……
2011-08-08 22:26:31路地裏の先に、大通りのネオン看板が幾つか見えている。「テキヤ」「礼儀それがキョートです」「良くやっている」「お上品?否カラオケ」。それら看板はガイオン景観法によって厳しくその色調が制限されている。ネオサイタマのあの極彩色の喧騒はここには無く、ゆきとどいた美意識と沈黙が支配する。
2011-08-08 22:39:03ガタガタと揺れていたマンホール蓋がついに下から跳ねあげられ、開いた。「ぶはァ!おい、すげえ!やったぜ!」ベツリキは上半身を穴からのぞかせ、昼なお薄暗い路地裏を見渡した。「マジかよ……自分でも信じられねえ!」「早く出ろ!」ベツリキの下でハシゴにつかまったままのゼンダが促した。
2011-08-08 22:42:49