死ぬのがこわくなくなる話 第41話

渡辺浩弐 @kozysan

あれからSHINEのメンバーらしき人物が現れた。　　彼の姿を見ることはできなかった。　　僕はいきなり拘束された。

渡辺浩弐 @kozysan

彼は意表をついて、今僕がここに来た方向から現れた。足音一つ立てずに。　　背後に誰かいる。その気配を感じて振り返ろうとした瞬間、頭から袋のようなものをかぶせられた。

渡辺浩弐 @kozysan

首が絞まった。その時は、そのまま殺されるかと思った。

渡辺浩弐 @kozysan

僕がこの文章を書いているということは僕は殺されなかったということだ。安心して、もしくは期待しないで読み続けて頂きたいわけだが、そういう時、人間はどうすると思うか。誰も助けが来るはずもない地下の暗闇で、袋を頭からかぶせられて、首を絞められた時

渡辺浩弐 @kozysan

暴れて、相手を傷つけようとする。もしくはなんとか逃れようとする。もしくは叫ぶ。泣きわめく。失禁する。

渡辺浩弐 @kozysan

どれでもない。何にもしない。僕は静かに、彼のすることに身をまかせていた。極めて友好的に。僕は全身をすっぽりと包まれた状態のまま肩を押されて少し歩き、座らされた。

渡辺浩弐 @kozysan

動いてみてわかったが袋は拘束衣だったようだ。歩くのにも座るのにも支障はない。窮屈な感じもない。しかしそっと腕を上げようとすると真綿のように柔らかい布地はじわっと締め付けてくるのだ。足も、前にまっすぐ静かに歩くための方向と角度にしか動かない。

渡辺浩弐 @kozysan

「手荒なことをして申し訳ない。まず、最後までちゃんと話を聞いてほしい。それから、話をしている間に誰か他の人、特に素性の知らない人に入ってきてほしくない。辺鄙な場所までご足労頂いた。それから乱暴なもてなし、申し訳ない。しかし理由はおわかり頂けましたね?」

渡辺浩弐 @kozysan

僕は頭を前に倒して応えた。

渡辺浩弐 @kozysan

ツイートを中断させて、じっくりと話をする。もちろんそれだけが目的ではない。こんな場所を用意して、こんな状況をセッティングしたのは、僕に教えるためだ。SHINEは、ジョークのサイトではない。中二病ネットワーカーの手すさびでもない。実体があり、裏付けがあるということ。

渡辺浩弐 @kozysan

そして、彼らが、僕に対して、そして僕のこの連載に対して本気になっているということ。

渡辺浩弐 @kozysan

拘束衣とはよくできているものだ。だぶだぶの袋で、頭にかぶせられたらすぐに膝の下くらいまですっぽりと入ってしまった。ちっとも窮屈ではないのに、かぶっているだけで、手も、足も、ちっとも動かなくなるのである。

渡辺浩弐 @kozysan

「苦しくはないですか?　不自由させてすまないですが、しばらくはお話に専念して頂きたいのです。

渡辺浩弐 @kozysan

メモも、ツイートも、しばらくはできません。ただここでの会話につきまして内容を後ほど公開して頂くことは止めません。むしろ、お願いしたいことです。これからのことは全て記録しておき、後ほどお見せします」

渡辺浩弐 @kozysan

ここまで書いたところで、またあかるるくなった。とりあえず先に今この現場のことを書く。順不同になるがお許しを。

渡辺浩弐 @kozysan

トンネルの壁に光が当たっている。それは電子的な砂嵐をえがいている。

渡辺浩弐 @kozysan

砂嵐が像を結んだ。露出オーバーの白く飛んだ映像の中で芋虫のようなものが見えた。それが少　し揺れた。

渡辺浩弐 @kozysan

「手荒なことをして申し訳ない。まず、最後までちゃんと話を聞いてほしい。それだけだ」

渡辺浩弐 @kozysan

その声で記憶が蘇ってきた。これまで僕の前で喋っていたあの男の声。

渡辺浩弐 @kozysan

「辺鄙な場所と、乱暴なもてなしは、そのためだったというわけです。すみません、痛いところはないですよね?」

渡辺浩弐 @kozysan

「ああ、はい」と、僕の声がした。ちゃんと声を出して返事をしていたのだった。

渡辺浩弐 @kozysan

「こんなことをしなくても、聞きますよ、話を聞きたいというのは、むしろこちらが望んだことではありませんか」

渡辺浩弐 @kozysan

僕はしっかりとした声でそう言っていた。

渡辺浩弐 @kozysan

不思議だ　　　そんなことを言った覚えはなかった。記憶とはいい加減なものだ。

渡辺浩弐 @kozysan

「不自由させて申し訳ない。ただ、情報に関して、あなたは露出狂的な性癖をお持ちで、そのせいでこちらが迷惑しているということを理解してほしい。しばらくはお話に専念して頂きたいのです。お話をするぶんには大丈夫でしょうか。喉元が絞まっていたりしませんか」