リブート、レイヴン ＃１
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「アー、今見てるんスけど、ハヤイ社のマチオV16bitバルクとか、実際安いデスし」「やめとけ」ガンドーは首の後ろを掻きながら言う「あと２年で旧型になってインプラントし直しだ。ニューロン損傷リスクが増えるぞ」「でも、うちらアンダーの貧乏人は、身を削るしか無いんじゃないスか？」 21
2012-01-28 23:02:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
ガンドーは同意した。そして俺は八方塞りの負け犬だ、と心で呟く。……だがそんなクソのような人生に、若いシキベを付き合わせるわけにはいかない。３ヶ月分の給料をキッチリ支払い、探偵業がクソみたいなものだと悟らせ、何か堅実な仕事を探す気にさせる。ナムサン！難題が山積みだぜ！ 22
2012-01-28 23:15:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「まずは知恵を絞れ。何でＬAN端子を開けたい？」「そりゃ、タイピング速度っスよ」「仕事中にIRCチャットを十個も立ち上げるのか？」「アー、1個くらいで十分」「仕事中の私用IRCは禁止だぜ。それでクビになったんだろ？…まあいい。タイピングなら、手指をサイバネ化すりゃいいんだ」 23
2012-01-28 23:22:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「脊髄、そして脳ミソに近づくほど、サイバネ手術は後戻りが効かねえ。毎年毎年、オムラ社やハヤイ社や闇医者に振り回され、メンテで金が搾り取られる。カネが滞ったら、錆びてノイズ流入だ。手や足ならまだいい。ニューロン絡みは最悪だ。頭痛や記憶障害、精神崩壊、薬物依存、何でもござれだ」 24
2012-01-28 23:27:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「アー……所長は、どうなんスか、それ。開けてまスよね？違法なの」「ああ、最悪だぜ。海馬にグリースが滲み出して来てる」ガンドーは少し大袈裟に言う。「病院いったらどうスか？」「カネが無いのさ」「ウェー……経理の視点から言いまスとね、違法薬物を控えたら、一発で実際解決なんスよ？」 25
2012-01-28 23:33:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「必要経費は減らせねえ。それよりインカムだ」とガンドー「依頼料が足りてないんだ。ズバリやアンコを買えるだけのカネが入ってくりゃいいのさ。昔はそれで巧く行ってた」「あとは、オイランハウスの経費デスかね。もうちょっとランクを落とすとか、ウェー……そういうの、できないんスかね？」 26
2012-01-28 23:45:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「それもインカムで解決だ。もっとマシな仕事が来れば、一発さ」「アー……」シキベは洞窟から出てきた原始人を哀れむような目を向けた「そんなら、バイオ水牛探しの件、何で放り投げたんスか？」「依頼人が、クズだった」ガンドーは壁の木人相手に、ピストルカラテの基本型を決めながら答えた。 27
2012-01-28 23:52:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「クルゼ所長の頃は、なんで経営できてたのか、マジで不思議デスよ」とシキベ。「時代が変わったんだ。リアルスモトリは、紛い物のショウビジネスに負けて廃業。私立探偵業も、絶滅待ちのシーラカンスだ。しかも、マグロといっしょにツキジに水揚げされた。俺が人類史上最後の探偵になるかもな」 28
2012-01-29 00:00:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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シキベは表情を変えず、薄いコーヒーを啜りながら言う「マグロで思い出したんスけど、先週の、キンギョ屋の爺さん？成功報酬が足りないんデスけど、どういうことなんスかね？」「あれか。俺が下手を打ったんで、多少埋め合わせた」「赤字デスよ」「爺さんが脚を折っちまったんだ、仕方ないだろ」 29
2012-01-29 00:07:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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それからしばし事務所内には、レトロテクノと、オスモウＴＶの今シーズンダイジェストと、ガンドーの小刻みなカラテだけが響いた。「イヤーッ！イヤーッ！」ガンドーは４９リボルバーを両手に握ったまま、木人に対してセイケンヅキの動作を繰り返す。額に微かな汗が滲み、ズバリが心地良く回る。 30
2012-01-29 00:13:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
シキベの反面教師という狙いもあろうが、今のガンドーの思考力は鈍り切っている。クルゼを失って以来、彼は精彩を欠き、必要以上に老け込み停滞していた。２ヶ月前にシキベが来なかったら、廃人になっていたかもしれないのだ。彼女の前で少しはマシな所を見せようとしたが、１週間でボロが出た。 31
2012-01-29 00:27:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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ガンドーは心の中で歯噛みしていた。何もかも、錆付いてしまった、と。ピストルカラテの切れ、思考力、推理力、何もかもだ。(((オイオイオイ、弱音を吐くな、タカギ・ガンドー。俺はまだやれる。ズバリと、変化のチャンスさえあれば……)))だが怖かった。老け込んだ自分に自信が持てない。 32
2012-01-29 00:37:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
彼の実年齢はまだ、壮年の域に達していない。もしクルゼが今のガンドーの弱音を聞いたら「若造が、なに老け込んでやがる」と一笑に付しただろう。しかしガンドーにとって、肉体の黄金期であった２０代はとうの昔に過ぎ去り、クルゼ探偵事務所の栄光もまた、脳裏から少しずつ霞み始めていたのだ。 33
2012-01-29 00:47:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「所長ォ？質問いいスか？」「何だ？ズバリが在庫切れか？」ガンドーは追憶から我に返った。若い世代の考えは読みにくい。「いえ、雑談なんスけどね。私立探偵業がもうこの先、ジリー・プアー（徐々に不利）って解ってるンなら、なんでまだ続けてるんスか？所長は、何で、探偵になったんスか？」 34
2012-01-29 00:57:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
ガンドーは振り返り、ＵＮＩＸ前に座るシキベを心理分析した。彼女は首を微かにかしげて口を開き、両手はタイピング準備を整えている。(((俺の言葉をメモする気か？まさか本気で、探偵を目指すんじゃないだろうな？オイオイオイ、やばいぜ、何か適度に失望させるようなことを言わねえと))) 35
2012-01-29 01:06:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「俺が探偵になった動機？そいつは実際、呆れるほど単純で……」ケミカル励起したニューロンをフル回転させながら、ガンドーが答えかけた。その時……！TRRRRRR！ワータヌキ型のレトロ電話機が突如鳴る！ガンドー探偵事務所はISDN回線を引いており、ネットと同時に通話が可能なのだ！ 36
2012-01-29 01:17:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「はいこちら、ガンドー探偵事務所」ガンドーが受話器を取る。シキベがいつものようにＵＮＩＸヘッドホンをかけ、ＩＰの逆探知プログラムを走らせた。「……ガンドー＝サン」ザリザリ、ザリザリ、横殴りのノイズが混じる「依頼があるんだ」ザリザリ、ザリザリ「怪盗スズキ・キヨシ……」ザリザリ 37
2012-01-29 01:22:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
「REBOOT」ガンドーは再び、悪夢の中にいた。暗く冷たい水の中で、身動きもとれず、静かに落下してゆく。彼の目元の皺やほうれい線は、探偵事務所で電話を取った時から比べて、数年の時の流れを感じさせる。「REBOOT」ザリザリザリザリザリザリ……横殴りのノイズ「REBOOT」 39
2012-01-29 01:29:54