リブート、レイヴン #4
「で、センセイ、俺はどうすりゃいい?」ガンドーはチューブを指で触った。「どうする、といいますと」「シキベ=サンをだよ」「定期的に、バイオ脳漿液を新鮮なものに取り替える必要があります。呼吸していますので」「いや、そうじゃなくてだな、どうやったらシキベ=サンは生き返るんだ?」 49
2012-02-11 03:31:06「人体からの高密度バイオニューロンチップへの記憶コピーは、最先端技術です」医療主任は言った「そこからの復元技術は、未だ実用化されていません」「オイオイ、つまり、どういうことだ?」「……遠い昔、富豪たちが死体を冷凍保存して将来の復活に備えました。それに近いものということです」 50
2012-02-11 03:34:41「いつ実現するんだ?……センセイ、あんたは科学者だろ?大体でいい、5年か?10年か?」「それの答えは……」医療主任は目を逸らし、自分の机の上にあるレトロ調のロケットオブジェを見やった「いつ宇宙殖民が果たされるのか、と同じくらい不確かです。ハイテックの進歩を……待つしか……」 51
2012-02-11 03:37:44「……ッ!ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」ガンドーは再び、医療用ベッドの上で目を覚ます。今度は病院ではない。ガンドー探偵事務所だ。TRRRRR!TRRRRR!ワータヌキ電話が鳴り響く。シキベは居ない。ガンドーは苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。 53
2012-02-11 03:40:09「はいこちら、ガンドー探偵事務所」「アッ……シキベ・タカコ=サンはいらっしゃいますか?」「……あんたは?」「ネオサイタマのシトネ出版社です。サムライ探偵サイゴの原稿の件で、シキベ=サンにファイルを依頼していたのですが、一向に連絡がないもので」「……サムライ探偵……サイゴ?」 54
2012-02-11 03:43:03「出版が決定しましたので、残りファイルを全て送っていただければと」「オイオイ、ちょっと待ってくれ、順を追って説明してくれよ」ガンドーはまだ長い夢の中にいるように言った。「ええ、荒削りではありますが、非常に、その、キャラの設定が良く、キョートという舞台も、我々には魅力的で…」 56
2012-02-11 03:47:18ガンドーはそこで受話器を放り投げ、UNIXの階層を掘った。シキベが作った隠しフォルダを見つける。そこには数年単位で書き溜めてきたと思しき、膨大なIRC日記と、サムライ探偵サイゴの原稿が置かれていた。キーを叩くガンドーの指が震えた。「オイオイオイ、俺はなんて馬鹿なんだよ」 57
2012-02-11 03:50:44シキベに文才は無かった。ガンドーが読んでも、文章の稚拙さが解る。だが、彼女の書いた小説には、火が宿っていた「俺なんかより、よっぽど、考えてたんじゃねえか……どうやって戦うのかを」全てのファイルをLANで吸い上げながら、ガンドーは嗚咽した。そして、自分が取るべき行動を悟った。 58
2012-02-11 03:56:02「……それでも強く笑えってのかよ、こいつあ、堪えるぜ」ガンドーは入稿を終えると、夢から醒めたように立ち上がった。タフになるために捨てたはずの涙が、ひとしずく流れた。コートを羽織り、額に手を当てる「ガンドー探偵事務所は、今日から営業再開だ。一緒に捜査に行こうぜ、シキベ=サン」 59
2012-02-11 04:02:39ガンドーは探偵事務所のドアに手をかけた。それから少し思い留まって、机の下に転がったサボテンと割れた瓶を拾い上げると、役目を負えたそれを優しくダストボックスの中に葬った。 60
2012-02-11 04:07:02