「胆管がん 相次ぐ謎の死」書き起こし・ほぼ完全版 #nhk
- toshihiro36
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<ナレーション> 作業場があったのは地下1階。印刷機は7台置かれ、それぞれに2人の作業員がついていました。足下には強い臭いのする薬品が10本以上置かれ、容器の口は常に開いたままでした。
2012-06-15 21:35:35元従業員:洗浄する溶剤を使っていました。印刷の色を変えたり種類を変えたりする時に、印刷する機械を洗浄しなきゃいけないんですけど…布を丸めて、それにドボドボと(溶剤を)出す感じです。
2012-06-15 21:39:44<ナレーション> 行われていたのは、校正印刷という作業です。校正印刷とは、色の具合などを見るためのサンプルを作るものです。20枚ほど刷っては色を変えます。そのたびに機械についた色を落とすために、大量の洗浄剤を使います。
2012-06-15 21:45:35<ナレーション> 会社で使われていたこの洗浄剤、いったいどんな成分が含まれていたのか。私たちはその成分を示す書類を入手しました。書類にはジクロロメタンやミネラルスピリットなど7種類の化学物質が書かれていました。さらに取材を進めると、洗浄剤の成分が時期によって変わっていました。
2012-06-15 21:53:59<ナレーション> それぞれを比較すると、ひとつだけ共通する物質がありました。ジクロロメタンです。ジクロロメタンは気化しやすい物質で、大量に吸い込むと中枢神経に影響を与えます。そのため国は以前から防毒マスクの着用など、使用の際の決まりを定めていました。
2012-06-15 21:59:13<ナレーション> しかし、ジクロロメタンは発がん性物質とは指定されていませんでした。ジクロロメタンが胆管がんを引き起こした可能性がある。そう指摘する専門家がいます。片岡さんとともにこの問題を調査してきた、産業医科大学の熊谷信二准教授です。
2012-06-15 22:04:03<ナレーション> さまざまな論文を集め、胆管がんとジクロロメタンの関連を調べました。アメリカで発表された論文です。マウスにジクロロメタンを吸わせると、肝臓がんになったと報告されています。熊谷さんは人の場合は、肝臓がんではなく胆管がんになるとみています。
2012-06-15 22:07:06<ナレーション> ジクロロメタンを人が吸い込むと、肺から血管を通り、肝臓の中にある胆管に至ります。するとGSTと呼ばれる酵素が分泌され、ジクロロメタンを分解します。この反応によって、胆管の細胞にがんができると熊谷さんは考えています。
2012-06-15 22:12:09熊谷:ヒトの肝臓の中ではGST酵素は肝細胞というよりは、胆管細胞に多く存在しております。したがって胆管がんが発症しても不思議ではないと考えております。
2012-06-15 22:16:40<ナレーション> ジクロロメタンは2001年に発がん性物質に指定されました。しかし取材を進めていくと、ジクロロメタンだけでは説明がつかない事態につきあたりました。取材を始めた当初、胆管がんが確認されていたのは5人。ところが、新たな患者が次々と見つかりました。
2012-06-15 22:21:41<ナレーション> 1989年から働き始めた男性が在職中に発症、2年後に亡くなっていました。そして今も会社に勤めている従業員も含め、胆管がんの人が他にも3人いることがわかりました。この会社でジクロロメタンを使っていたのは、発がん性物質に指定される3年前の1998年まで。
2012-06-15 22:27:29<ナレーション> その後は使っていないといいます。97年に入社した男性は、1年ほどしか触れていません。そしてもう一人、ジクロロメタンを使わなくなった頃に入社し、胆管がんになった人も見つかりました。ジクロロメタンのあとに使われたのは、1-2ジクロロプロパンという化学物質です。
2012-06-15 22:33:48<ナレーション> 1-2ジクロロプロパンは中枢神経を刺激する有機溶剤の指定もなく、自由に使える化学物質でした。規制がなければ、安全と考えていいのか。化学薬品の製造メーカーを訪ねました。
2012-06-15 22:39:48<ナレーション> 印刷会社などのユーザーからは、「規制の対象になっていない化学物質を使って、より作業効率の良い薬品を作ってほしい」と要望されるといいます。
2012-06-15 22:40:55工場長:要はニーズにあったものを提供しているという話になるかと思います。拭きやすさを考えると、ジクロロプロパンの方がいいのかなと思います。私は専門家じゃないんで、何とも言えないですけれども…毒性自体は私の中では、似たりよったりかなと。
2012-06-15 22:50:09熊谷:1-2ジクロロプロパンもジクロロメタンと同様に、GSTの代謝経路を持っております。したがってこの代謝経路でできたものが発がん性をもつとすれば、ヒトで胆管がんを引き起こしても不思議ではないと考えております。
2012-06-16 08:05:36<ナレーション> 従業員の間では、「機械の洗浄に使う溶剤が体に悪いのではないか?」と頻繁に話し合われていました。しかしその根拠がないため、「使用をやめるべきだ」と強く言えなかったといいます。
2012-06-16 08:10:06元従業員:働いていらっしゃる方が1人、劇症肝炎になりまして。それで入院されたんですけど。社長に「これは溶剤のせいではないのか?」と言ったんですが、社長いわく「そんなことはない」と。「何もわかってないのに、なんでそんなことを言うんや、お前は」と怒っていたので…
2012-06-16 08:16:12<ナレーション> 洗浄剤を使うことが怖くなり、会社を辞める従業員も出てきました。この女性の息子は勤続11年目に、突然会社を辞めたといいます。
2012-06-16 08:20:56