『――ああ、きりたん……。ようやくあなたの瞳が見られました。いつもは背中にいるばかりで、あなたと目を合わせることなんてできませんでしたから……』
2012-07-04 20:51:12『――きりたん。これでやっと――「きりたん」になれましたね。あなたが、大人になった証拠です。さあ、きりたん。秘められし力を解き放って、本当の「きりたんぽ」になる時が来たのです』
2012-07-04 20:51:36そして、たんちゃんはそっと、かつて自分の半身だったもの――「きりたんのきりたんぽ」に手を添えました。すると、彼女の背中から、香ばしいお味噌の匂いが漂ってきます。
2012-07-04 20:52:11上半分になってしまった「たんちゃん」が、そう囁くと。ムズムズしていた彼女の背中に、小さな爆発が起こります。初めての「きりたん砲」は、紅の空を吹き飛ばさんかのような爆風を周囲に巻き起こし――驚いたきりたんが目を見開いたころには、「たんちゃん」の姿はありませんでした。
2012-07-04 20:52:50気怠い夏の日。湿度は70%を超え、気温も30度に近づこうかという真夏の東北家に、けたたましい目覚まし時計の音が響き渡ります。
2012-07-04 20:54:05「たんちゃん」。かつてきりたんの親友であり、半身だった存在。きりたんが彼女に会えるのは、今や夢の中だけになってしまいました。
2012-07-04 20:55:19きりたんが額の汗を拭っていると、ドアの向こうからひょっこりと、イタコ姉さまが顔を出します。その声につられて時計を見ると、午前9時でした。普段だったらきりたんも焦る時間なのですが、彼女の小学校はもう夏休み。まだまだゆっくりできます。
2012-07-04 20:55:45イタコ姉さまの背後から、今度はずん子の声が聞こえました。彼女たちはひらひらと手を振ると、きりたんの部屋の扉を閉めます。扉の向こうから二人分の足音が響き、玄関の門が開く鉄の音が聞こえたかと思うと――、再び、静寂が訪れました。
2012-07-04 20:56:06(――しかし、先程まで見ていた夢のせいか、どうも、静けさが寂しく感じられてしまいますね。昔は、一人であっても話し相手がいましたし……)
2012-07-04 20:56:25きりたんの瞳には、燃えるような決意の輝き――ずん子がずんだの普及に命をかけているときと同じ、あの輝きが、灯っています。生き別れの少女を捜し出すこと。それが、小さいなりに背負っている、きりたんの使命なのです。
2012-07-04 20:56:44