「キョート・ヘル・オン・アース」破「ライジング・タイド」#4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地上では、マツノキが妻子を連れ、人の流れと標識を頼りに手近なリフトに向かって目抜き通りを駆けていた。立ち止まる余裕など無い。そんなことをすれば、たちまちモッシュピットめいた流れに呑まれ離散するだろう。道路には幸福の象徴であるオミヤゲの数々がうち捨てられ、踏みにじられていた。 21

2012-08-05 00:42:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

妻は完全に恐怖に呑まれ、首を横に振っていた。怒号がストリートに満ち、マツノキがかける励ましの言葉をかき消してしまう。誰もが皆、自分だけは助かろうと必死だ。キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!そこかしこで断末魔の悲鳴が聞こえ、市民の顔から奥ゆかしさの仮面が剥ぎ取られる。 22

2012-08-05 00:48:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あと百メートル弱で、アンダーに向かう大型リフトがある。ここで不意に、人の流れが止まった。そして逆流が始まる。何が起こっているのか解らない。前方で銃声。閃光。悲鳴。その他思いつく限りのケオス。思わぬ動きに体勢を崩したマツノキは、息子を抱く腕に力を込めて、その場に踏みとどまる。 23

2012-08-05 00:53:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺達の時代がついに到来したのだァーッ!」ナムアミダブツ!筋骨隆々たる上半身をレザーベストで包んだ身長2メートルのモヒカンが、下層の暴徒を率いてリフトから一斉に溢れ出して来たのだ!「ウォーッ!」振り下ろされる棍棒!「アバーッ!」スーツ姿のカチグミがソクシし財布を奪われる! 24 

2012-08-05 00:57:39
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それはマツノキ一家が避難しようとしたリフトだけではなかった。地上部の警察機構が混乱をきたしたのを見計らい、ガイオン全域のおよそ半数のリフトや秘密下水路から、下層労働者や地下犯罪者たちが続々と姿を現したのだ。無論彼らもビームでソクシするが、略奪の欲望は死の恐怖を上回った。 25

2012-08-05 01:05:47
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「一旦逃げよう!」マツノキは前方から迫ってくる暴徒軍団から逃れるべく、後方を振り返る。その時、同じ事を考えた他の市民たちの波が、無情にも彼と妻の手を引き離してしまうのだった。「アイエエエ!」人の流れに呑まれ、妻の顔が、腕が、見えなくなる!マツノキは必死に彼女の名前を叫んだ! 26

2012-08-05 01:12:26
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「ウオーッ!」「アバーッ!」マツノキの後ろにいた観光客が、下層から溢れ出てきた発狂マニアックに撲殺される。先の十字路で渋滞が起こっているのか、流れが止まり、マツノキの前に肉の壁が作られてしまった。一歩も前へ踏み出せず、それどころか押し返される始末。「コワイ!」息子が叫ぶ! 27

2012-08-05 01:16:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナムサン!」マツノキは子供を地面に下ろすと、学生時代にかじっただけのカラテ・ファイティングポーズを構えながら、後方の暴徒たちを振り返る。「ウォーッ!」強制ペナント工場のツナギを着た労働者が、棍棒を振りかぶって襲い掛かってきた。「イヤーッ!」「ウォーッ!」絶望的な殴り合い! 28

2012-08-05 01:20:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウォーッ!」横から割り込んできた身長2メートルのモヒカンの棍棒が、マツノキの肩を打ち据える!「グワーッ!」彼は辛うじて防御姿勢を取ったが、ブザマに地に転がった。息子が彼の名を呼び、陰に隠れて震える。モヒカンは彼を指差して嗤った。「観光客め!貴様らは淘汰される運命にある!」 29

2012-08-05 01:27:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時、リフト方向でこの世のものとは思えぬ絶叫が上がった。何十人もの人間が、一気に息を詰まらせて死んだかのような、異様な悲鳴。モヒカンたちも困惑し、後方を振り返った。銃声。悲鳴。壊れた玩具のように空中に放り投げられる人間たち。気まぐれな死の波が近づいてくる。恐るべき速さで。 30

2012-08-05 01:32:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴボッゴボッ、という粘性の泡音がリフト乗り場から聞こえる。次の瞬間、便器の奥底に詰まって吸い出された汚物の塊めいて、黒い粘液に包まれた死体の山が勢い良く地下から吐き出された。大量のタール状暗黒物質とともに。それとともに姿を現し、黒い波の上を滑るように進むのは、デスドレイン! 31

2012-08-05 01:44:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「へへへへへ!ヘヘヘヘハハハハ!良くなってきちまった!だんだん暖かくなってきちまったよ!アズール!アズールゥ!ハハハハハハ!そうだァ、ちゃんと数えろよ?数え漏らすんじゃねえぞ?ハハハハハハ!」デスドレインは黒い高波の上に立ち、体を仰け反らせて頭を抑えながら、無邪気に笑った。 32

2012-08-05 01:48:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRATATATA!「アイエエエエエ!」「アバーッ!」サブマシンガンが情け容赦なく乱射され、市民も観光客も犯罪者も区別なく殺戮される。アズールと呼ばれたその少女は、不可視の大狼の背に跨ったまま、いかにも不機嫌そうなしかめっ面でサブマシンガンを構え、黙々と殺害数を数えていた。 33

2012-08-05 01:55:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アババババーッ!」マツノキを殴っていた暴徒らが銃弾を浴びて死ぬ!地面に座り込んだままのマツノキは、空中に浮かぶ仏頂面の少女を見た。視線が一瞬交錯。BRATATATA!アズールはまたも闇雲なフルオート射撃でストリートを薙ぎ払った。「アイエエエ!」マツノキは脚を撃ち抜かれる! 34

2012-08-05 02:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウォーッ!」ヤバレカバレを起こしたケビーシ・ガードが、サスマタを構えて、浮遊少女の背後へと突撃を仕掛ける。白く華奢な首に鋼鉄サスマタが突き刺さろうとした瞬間、不意に彼女は空中を飛び去り旋回した。「ナンデアバーッ!」ケビーシが叫んだ時には、彼の半身は狼に喰いちぎられていた。 35

2012-08-05 02:11:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アズールは弾を再装填しながら、仕留め損ねた子連れ観光客を再度射撃しようとする。「アズールゥ!?すっトロいことやってると、置いてくぜェ!ヘヘヘへへへ!ボーナスステージじゃねえか!大好きなんだよ!バカだよなァ!あいつ!まだ生きてりゃ、楽しめたのによ!ヘヘヘハハ!アハハハハー!」 36

2012-08-05 02:14:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アズールはまた深刻そうな顔で舌打ちすると、デスドレインを追った。より人気の多い場所へ向かって。「お父さん!」背後に隠れていて難を逃れた息子が、泣きながら父の顔を覗き込んだ。「ウーッ……大丈夫だ。母さんを探すぞ。でも、その前に、お前を安全な場所に運ぶ」「どこ?」「山……だな」 37

2012-08-05 02:22:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「生憎、キョート山脈も安全じゃない」後ろから見知らぬ男の声が聞こえた。苦渋と焦燥にまみれながらも、奥ゆかしさと理性を保つ声だった。それは、灰色の亡骸に変わった老夫婦を運び続ける、リキシャードライバーのアナカ・マコトであった。「アンダーの家に帰る。合席でもよければ乗ってくれ」 38

2012-08-05 02:30:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」 破「ライジング・タイド」 #4 終わり。 #5 へ続く)

2012-08-05 02:32:30