「キョート・ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#4
第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#4
2012-08-30 22:36:06ダーダッダーズガズガバシバシ、ダーダッダダズガズガバシバシ……不吉な8bit瞑想ミュージックが、小さな地下礼拝堂に響く。所狭しと積み上げられたUNIX。直結した信者達。古のBASIC言語で制御された四本のスシメカ・アームが香炉を揺らし、違法薬物「シンピテキ」の煙を振りまく。 2
2012-08-30 22:46:19「「「ゲート、ゲート、パラゲート…」」」修道僧めいたローブで全身を隠し、背骨部分から直結LANケーブルを何本も露出させたペケロッパ・カルトの高位信者たち数名が、サークル状に立って機械音声交じりのチャントを捧げる。薬物吸引によって全員目は虚ろ……あるいはそもそも肉眼を持たない。 3
2012-08-30 22:55:16「何が見えますか今?」クワイアの中心部にひとり立つ、やはり全身をローブで隠した高位のカルティストが、IRC内と現実世界で同時にそう呟いた。男の声帯は旧世紀の音声チップ……稀少かつ神聖な最初期の合成マイコ音声チップに置換されており、崇高なまでの無表情アトモスフィアを醸し出す。 4
2012-08-30 23:04:11彼の背後には、何十基もの旧型UNIXがマーシャルアンプめかして積み上げられている。モニタに映る文字は、とても肉眼では追いきれない。超人的なタイピング速度を強く感じさせる。そして彼の背中から伸びるLANケーブルは、16本。ナムアミダブツ!人類の限界を遥かに超えたUNIX一体感! 5
2012-08-30 23:09:17「恐ろしい……ペケロッパ……」「おお、ペケロッパ……コワイ…」直結した信者らは、一様に怯えを見せていた。一日数回、定時に捧げる祈りの儀式の中で、このような現象が起こるのは極めて稀なことである。彼らは自らの精神を1bitに退行させてゆく中で、恐怖の感情も失ってゆくはずだからだ。 6
2012-08-30 23:14:57「ゲート……」「オブツダンです……金色の光漏れ出す」「ファラオの門めいた……」非直結者ら数名が声を発した。高位司祭は興味を抱いた。ここにいる信者の半数は、コトダマ空間認識者である。残る半数は、未だ悟りを開けていない。このような直結儀式の中で、彼らはごく稀に第三の眼を得るのだ。 7
2012-08-30 23:23:46「何が起こりますか……」高位司祭はゆっくりと歩を進め、頭巾を外した。右眼があるべき場所には、四個の小型サイバネアイが虫めいて動く。左眼は頭髪めいたLANケーブルに隠され見えない。彼はY2Kの秘密の欠片を集積した聖なるMO磁気ディスクを聖櫃から取り出し、自らの腕に挿入した。 8
2012-08-30 23:34:39「何が起こりますか……」司祭は電子マイコ音声で呟いた「彼方へ参ります……彼方へ参ります……。私たちはまだ、あの温かな8bit世界へも帰っていないというのに……」「ペケロッパー!」ナムサン!礼拝堂で直結していた信者の一人が、何を見たのか、異常興奮によって心停止を起こして死んだ。 9
2012-08-30 23:48:09異常興奮死したペケロッパ信者のニューロンには……すなわち精神の網膜には、厳重なオブツダンめいて徐々に開き続ける9個の門が映し出されていた。それはファラオの門のようにも見え、大きな門の向こうには小さな門がマトリョーシカめいて隠れていた。そして彼方から金色の光が漏れ出していた。 10
2012-08-31 00:03:43天守閣から遥か下方。キョート城秘密動力炉。そこは動力炉と呼ぶにはあまりにも質素で奥ゆかしい空間であった。そこにはニューク発電所もスモトリが回す車輪も無い。平安時代めいた畳敷きの部屋の中心には琥珀ニンジャ像が立ち、眩い光を放っている。キモンの方角には黒いオブツダンめいた物体。 12
2012-08-31 00:22:24チャブの上に乗る琥珀ニンジャ像。周囲のタタミには、CPU足のごとく規則正しく配された四角い光がいくつも明滅していた。光源はどこか解らないが、その個数と配列から、各々の光がキョート城下腹部に生えるクリスタルに対応していることは推測できる。その1個が、先刻破壊されて光を失った。 13
2012-08-31 00:30:54ガガガガ……ガガガガ……琥珀ニンジャ像の乗るチャブへと何らかの秘密めいたエネルギーが集積され、像はロボットダンスを踊っているかのように直立不動のまま左右に小刻みに回転する。おお……ナムアミダブツ……!そしてマグロめいた空虚な両目から射出されるのは、禍々しいレーザー光線! 14
2012-08-31 00:40:47そのレーザーの射出先には漆黒のオブツダンがある。レーザーによって力を与えられ、金装飾が施された重厚な扉が少しずつ開いてゆく。今、その六枚目が開ききろうとするところだ。ブッダ!果たしてこれは、いかなる禁忌のオーパーツか!平安時代にこれほどの高度なメカニズムを作り得た者とは!? 15
2012-08-31 00:48:42……ニンジャである。オブツダンの上には、古代ショドーが収められた横長の額。最後に何人かのニンジャ名が書き連ねられていた。九つの扉が開ききった時、果たして何が起こるのか。CPU足めいた光点はその秘密を語ることなく、地上のモータルソウルを奪うたびに黙々と明滅するのみであった。 16
2012-08-31 00:58:52キャバァーン!「アバーッ!」スモトリ暴徒が、一瞬にして灰色の死体へと変わった。僥倖である。アナカ・マコトの引くリキシャーは、スモトリ暴徒の振りかぶったスレッジハンマーによって粉砕されることなく、無事にアンダーガイオン第2階層の無人商店街を駆け抜けることができたからだ。 18
2012-08-31 01:09:33だが安堵にはほど遠い。謎の殺人光線がアンダーにまで届いてくる事が、眼前で証明されたからだ。アナカは妻の身を案じた。そして後部座席に乗せた新しい乗客二人のことも。そこに座るのはマツノキ父子。先程まで座っていた老夫婦の死体は、燃え尽きたセンコのごとく灰の山に変わって崩れていた。 19
2012-08-31 01:14:49第2階層も暴徒らで溢れていた。叩き割られるスシトレーラーのフロントガラス!地表から降り注ぐコンクリート片!捻じ曲げられる道路標識!シャッターを焼き切られ略奪を受けるCD屋!繁華街の大型プラズマディスプレイでは、ネコネコカワイイの最新PVが場違いなほどの笑顔を振りまいていた。 20
2012-08-31 01:22:18「ネコ!ネコ!カワイイー!」バットを構えた暴徒達が、スクラップと化した車の上で狂ったように垂直ジャンプを繰り返す横を駆け抜ける。「イヨーッ!イヨオーッ!」前方では狂言強盗団がフロシキを抱えた暴徒らを脅して略奪品を奪っている。アナカは咄嗟の判断で小道へと入り、遭遇を回避した。 21
2012-08-31 01:28:53アンダーの生まれでなければ、複雑な裏路地を駆使して安全なリフトまで逃げ果せることはできなかっただろう。アナカも今日ばかりは、この猥雑たる地下都市に感謝した。数十メートル先に、パトライトの回転が見える。数名のケビーシ・ガードが、市民を避難させるために小型リフトを確保していた。 22
2012-08-31 01:37:15「おいちょっと止まるんだ!」リキシャーの接近に気付き、ケビーシらが暴徒鎮圧用ショットガンを向けた。「負傷した観光客を乗せてるんだ!」アナカは焦燥感に胸を焦がされながらも制止し叫んだ。背後からは狂言強盗団の声が迫る。ケビーシらは顔を見合わせて頷き、アナカらをリフトへ誘導した。 23
2012-08-31 01:45:42「下層は、どうなんです?」アナカは肩で息をし、リキシャーのバーに身体を預けながら聞いた。「解りません」ケビーシの一人が答える。錆び付いた音が鳴り、二十人乗りの小型リフトが下降を始めた。「イヨーッ!イヨオーッ!」狂言強盗団の声が上から聞こえた。ケビーシらの銃声がそれに続いた。 24
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