ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード #1
「うるせッコラー!」カケルが遮った。モヒカンの顔面をスパイクブーツで踏みつけ(「アバーッ!」)、スパイクモーターサイクルにまたがった。「ゴールは次のインターチェンジだ!前が渋滞してても関係ねえぞ……チキンは首を撥ねる!」「旗振れよ」スーサイドが凄味のある声で言った。 25
2012-10-25 18:27:19ウォルルルルルルルルル!ウォゴゴゴゴゴゴゴ!二台のモーターサイクルが激しく震動する。扇状の後続モーターサイクル部隊もいっせいに空ぶかしを始めた。クランの旗振り役がやや前方に立ち、旗を垂直に立て……振り下ろした。BANG!誰かが天に実弾発砲した。ドウ!二台が同時発進! 26
2012-10-25 18:29:48「イピィー!」フィルギアは上体を仰け反らせ、奇声を上げた。両腕をダラリと垂らすが、いかなるバランス力か、振り落とされる事はない!ハーレーの左前方にはカケルのスパイクモーターサイクル!「アーババババババーッ!」鎖で引きずられるモヒカンが無惨に削られてゆく!ナムアミダブツ! 27
2012-10-25 18:45:48「ヘイヘイ!ヘイヘイヘイ!」ルゴゴゴゴゴ……その後ろからライジング・タイドめいて他のモーターサイクル群が追跡を開始する!コワイ!まるでそれは牛追い祭りの如くもある!現在、スーサイドらはカケルのバイクのやや後ろを行く。スピードが足りず後続車両群に呑み込まれれば、命はあるまい! 28
2012-10-25 18:54:34爆音と共に流れゆく暴走者達のハイビーム・ライト光……そこからやや遠く、ハイウェイの道路状況液晶表示板の上に腕組みして直立する赤黒の影が、夜風にマフラーめいた布をはためかせ、その有様を注視していた! 29
2012-10-25 18:58:55カケルはミラー越しに斜め後ろを見やった。スーサイドのハーレーはカケルのフルチューンド・スイスチーズド・アンド・スパイクド・モーターサイクルに、それなりにキャッチアップしてきている。だがその距離は徐々に開きつつある。当然だ。「俺のはスピードモンスターなんだ。タフガイ気取りめ」 30
2012-10-26 11:39:27「アツ!アバッ!アバッ!」そのすぐ後ろの道路に点々と血と肉の痕を残すのは、鎖に繋がれたモヒカンである。当然この見せしめ処刑行為はカケルのバイク速度の制限要因となっているが、こんなものはハンデにもなりはしない。何よりこれは、チームを統べる者に課せられた、面子という名の義務だ。 31
2012-10-26 11:43:53暴走バイク・チームを率いる事は並ではない。スピード狂いのオートバイ・チーム、暴力嗜好者揃いのスクーター・チーム、現金なセックスオイラン女たち。それらを引っ張るのは、力であり、知恵であり、面子である。カケルはチームに、青春を、人生を、命をかけている。32
2012-10-26 11:47:58スピードが、暴力が、セックスの供給が絶えれば、たちまちこの未成年集団は瓦解する。当然、カケルの上にはヤクザクランの顧問がついている。毎月の上納金ノルマはギリギリだ。この苦労の見返りは何だ?高速で頭上を通り過ぎる灯火はまるでカケルの人生のメタファーだ。光りながら走り抜ける。33
2012-10-26 11:54:05既にモヒカンのもがき苦しむ声は聴こえない。死んだのだろう。モヒカンはチームをナメた。ゆえに見せしめにする必要がある。リーダーには力と非情が求められる。この処刑はカケルの資質を示すための、宗教めいた厳然たる儀式だ。定期的に必要なカンフルだ。当然、次は後ろのハーレーの連中を殺す。34
2012-10-26 12:06:58ハーレーは着いてきている。カケルは舌打ちする。そうかからずに後続集団に呑まれ、バラバラになるのがオチと考えていた。「意外に踏ん張りやがる。ナメやがって」スピードを上げ、前方のカンオケ・トラックの脇を通り過ぎる。「ここだ!」カケルはテイルを振った。モヒカン鎖が鞭めいて跳ねた。 35
2012-10-26 12:43:34ナムサン!モヒカンの死体がハーレーに叩きつけられんとす!ハーレーはカケルのやや後方。横のカンオケ・トラックのせいで回避余地が少ない!「死にくされーッ!」 36
2012-10-26 12:45:24「イヤーッ!」スーサイドはハーレーをウイリーさせた!「イーヒーヒィー!危ねえ!」長髪を後ろへなびかせ、フィルギアが笑う。「そのままそうやッて、重しになれよ!」スーサイドが叫んだ。ゴババババ!後輪がアスファルトを焼き焦がし、巨大な車体がジャンプした! 37
2012-10-26 12:52:45踏み台にされたモヒカンの死体はあわれバラバラに引き裂かれ、アスファルトに散らばって後続ライダー集団を戸惑わせる。サツバツ!さらに、宙を飛んだハーレーはカケルのバイクに上から襲いかかる!「ウ、ウオオーッ!?」カケルは咄嗟にジャンプ攻撃を回避するが、車体がスピン!「グワーッ!?」38
2012-10-26 13:18:04回転しながら横倒しになり、カケルはバイクごとガードレールに衝突!「グワーッ!」路上に投げ出された!「グワーッ!」「ゴールで待ってりゃいいのかい」フィルギアがハコ乗りめいて身を乗り出し、言葉を投げた。カケルはアスファルトにうつ伏せに倒れ、屈辱と苦痛に打ち震えた。 39
2012-10-26 13:20:34ハーレーは再加速!カケルを置き去りにする。後続のモーターサイクル群がカケルの周りに集結した。「ボス!」「ボス!」彼らは次々に愛車から飛び降り、カケルを助け起こす「ボス大丈夫ですか」「ボス……マジかよ」「……!」カケルは歯を食いしばった。このままではカリスマが損なわれてしまう!40
2012-10-26 13:34:13「殺す!奴ら殺す!」カケルは吠えた。「卑怯なマネしやがって!」己のモヒカン鎖の事は棚上げだ。「卑怯……」「だよな」ライダー達が顔を見合わせる「ボスがスピードで負けるワケねェ」「……」カケルは裏切りの気配が無いか、油断なく見渡した。「手足に鎖を巻き、東西南北に引っ張って殺す!」41
2012-10-26 13:39:00「どうします」ライダーの一人がおずおずと尋ねた。「奴ら行っちまったケド……」「俺にはコネクションがある。暗殺部隊だ。俺の一声で、アゴで使える連中が集まるぜ」「暗殺部隊!?」「マジかよ……」カケルは咳き込んだ。「ああ!そうだ!畜生、通信機だ!渡せ」「ハイ!」 42
2012-10-26 13:41:27カケルは通信機をひったくり、秘密IRC文字通信を行う。顧問であるカタナオカメヤクザクランのシゲゴへのホットライン。「タスケテ」と密かに打ち込む。彼は屈辱に耐えた。右脚がおかしな方向に曲がっている。アバラもやられた。散々だ。ケジメもあるだろう。だが、チームは自分の王国だ。夢だ。43
2012-10-26 13:52:48「奴ら終わりだぜ……」カケルはゼエゼエと息を吐く。「オイ。後ろに乗せろ」「アッハイ!」「ゴールで待ってるだァ?確かめてやろうじゃねえか!奴らの度胸をよ!」 44
2012-10-26 13:57:49……「アー……ハーハー」フィルギアは肩を揺らした。「笑える。だらしないガキどもだ」「テメェ程じゃねえよ」とスーサイド。「呆気なかったがな」「応援呼んだかな、アイツら……」フィルギアは後ろを見た。スーサイドは呟く「でなきゃ徒労だろ。……あン?」彼は眉根を寄せた。前方。「何だ?」45
2012-10-26 16:25:04