火の精と魔法使い君

火の精霊×妖しい屋少年
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空間 @nyannyannyanno

ランタンの中の使い魔が夜道を照らす。ランタンは彼のお気に入りの場所だ。使い魔といってもかなり強力な火の精霊で、比例して自我が強い。本当は他にも使い魔を伏したいが彼はそれを良しとしない。火が揺らめき使い魔が言う。「もっと、強そうなランタンが良い」…強そうなランタンってなんだよ。

2012-11-05 19:35:28
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火霊は人間の姿に変化できる。姿を変えられるのはそれだけ力が強い証だ。食事も量は多いが人間と同じものを食べる。それとは別に髪の毛も与える。爪でもいい。使い魔との契約には己の体を与えることも含まれているのだ。山盛りのパスタを食べた後に髪の毛を一本ずつ食べている。いつ見ても面白い。

2012-11-05 22:01:19
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生計半分趣味半分であやしい屋を営んでいる。要はなんでも屋だ。器用貧乏なので大抵のことは出来るがどうもツメが甘いらしい。いまも追い詰めた化物に襲いかかられた。あわやという所で火精が剛火で焼き払う。こういう時は頼もしく感じるがこれから何日かはふんぞり返った火精に苛つくことになる。

2012-11-06 00:07:34
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火精が両拳に何かを包むように持っている。大きい掌と指の間からちらりと白い物が見える。あれは…そう思う間もなくボンッという破裂音がした。独特の臭いとともに白い欠片が地面に落ちた。どうやらゆで卵を作る気だったらしい。火精は時々ばかだ。#twnovel

2012-11-06 00:35:21
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火精が気まぐれで村の牛を丸焼きにしてしまった。村人は村外れに住む年若いあやしい屋の連れ合いが只の人間ではないと薄々知っているので、火元なく燃えたことにはあまり驚かなかった。その代わり貴重な労働力を奪われたことに激怒した。当然だ。ひとまず買値の倍値で買い取る。食いきれるだろうか。

2012-11-06 08:51:15
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牛は結局ほとんど火精がたいらげた。火精は基本的に気の良い男なのだが最近の所業は目に余る。使役の奔放な振る舞いは、術者の力量と格を問われるのだ。とはいえまず説明するのがスジだと思うので、火霊にこの話をする。火霊は腕を組みむっつりと聞いている。

2012-11-06 17:41:21
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聞くと髪や爪を与えられるのが不満らしい。味が良くないのだろうか。確かにこの火精は結構グルメだ。その割に味わって食べているように見えるが…。火精がじっとこちらを見つめている。視線が熱を持ち見つめられた先が燃えるようだ。いかん気圧されては。こちらも見つめ返してやる。

2012-11-06 17:41:51
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正直なところこの使い魔を持て余している。小間使い代わりにしては強力すぎるのだ。他に十分に力を揮える場所を与えた方が、いや解放してやった方がこの奔放な精霊には良いのかもしれない。睨み合いながらそう考えると火精の気合がより強くなった。不味い。男の背から赤い業火が迸る。不味い――

2012-11-06 20:22:10
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火の精くん。火の精…くん… http://t.co/3iUUEA29

2012-11-07 22:29:21
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🦑🔰ういの🔰🦑 @go_kkan

ヨッカさんとこの火精くん。トーストを自分でつくって食べる http://t.co/9vuxniyf

2012-11-07 22:48:16
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足の打ち身にお灸を据えていると火の精が覗いてきた。火には治療にも用いられるのだと言うと、感心して頷いている。すると、その灸に宿ってみても良いだろうかと問われた。うーん。こいつの火力を思うと足が灰になりそうだ。やんわりと断るとあっさりと引き下がった。なんなんだ。

2012-11-09 15:49:12
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燃え尽きたお灸を捨てようとしているとまた火の精が寄ってきた。ふんふんと鼻を近付け匂いを嗅いでいる。…要る?と訊くやいなやお灸を二つ口に放り込んでしまった。えっ。もぐもぐごくん。満足したようにまた部屋を出て行った。…文化が違うなあ…。

2012-11-12 12:05:46
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ランタンの底面には文字が書かれている。おれが宿りやすいように。読めないが意味はわかる。「火 宿る」。この妖しい屋は術に文字を使う。ちなみにこれはランタン以外にコンロ・ストーブ・暖炉・魔法の杖・果ては煙管にまで書かれてある。ちょおっと、あの小僧はおれを舐めてるんじゃないだろうか。

2012-11-12 18:21:23
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軽く炒った茶葉を鍋に入れ煮出す。鍋にかかる火は俺の火だ。五分程煮たら、半分ほど白酒を入れた湯呑みに注ぐ。風邪に効くらしい。妖しい屋に教わったものだ。教えた当人はいま寝床で伏せっているが。お盆に林檎の砂糖煮を盛った小皿と、出来たばかりの茶の白酒割りを乗せ、妖しい屋の部屋に向かう。

2012-11-23 19:31:35
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今はあまりしなくなったが、この村に引っ越したばかりの時にはよく農作業の手伝いをしたものだった。とはいっても自分は野良仕事に向いているとは言えず、野菜の日干しや麦踏みを手伝うくらいだった。だが今年は火の精がいる。家畜を焼いてしまった償いも兼ねてその有り余る体力を発散してもらおう。

2012-12-04 16:59:09
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どうにも食人衝動に耐えかねて、薬屋兼まじない屋兼なんでも屋だという妖しい屋を訪れた。最近はそういう衝動に駆られる人が増えていますよ。と、子供のような顔を神妙にしかめて妖しい屋は言い、これをお飲みなさい。と机上に丸薬を差し出した。中指の先くらいの大きさの、赤黒い丸薬だった。

2012-12-06 21:47:58
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この丸薬を飲めば食人衝動は治まるという。一日二粒寝る前に服用せよと言われ、店を後にした。茶を出してきた大男が胡乱げにこちらを見ていた。

2012-12-06 23:30:47
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気力の落ち込みを改善する薬を処方したところ、これでは商売上がったりだと苦情が入った。人形師にとって陰鬱は必要不可欠な工具のようらしい。

2012-12-07 08:40:16
空間 @nyannyannyanno

気力と気分を区別して処方しないといけないのか。薬学書を読み漁り薬草を煮煎じめ試行錯誤していると、その臭いにアゼルは不愉快そうに顔をしかめた。陰鬱さとは無縁の彼にはよくわからないんだろう。日なたでは生きていきたくない人間の気持ちが。

2012-12-07 08:55:30
空間 @nyannyannyanno

人形師が薬のお礼にと人形を下さった。等身大の、俺そっくりの、人形を。

2012-12-07 09:02:35
空間 @nyannyannyanno

どうしよう。ご厚意で頂いたものに文句をつけたくないが、俺は人形が苦手だった。術具として紙のヒトガタは用いるが、愛好品としての人形はどうにも苦手だった。どうしよう。人形は精巧緻密でまるで動き出しそうだった。

2012-12-07 10:14:41
空間 @nyannyannyanno

狼狽えている俺にアゼルバイジャンは言い放った。この人形、燃やしてやろう。心なしか嬉しそうに。(中略) 赤とオレンジの炎に見舞われ人形は燃えていった。いつもと炎の様子が違う。火の精は嬉しそうに愉悦の表情で炎を繰っている。

2012-12-07 12:39:19