笠井氏 正しい正しくないは依然として存在する

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笠井潔 @kiyoshikasai

なぜ違う次元の言葉が必要かといえば、ヒズボラのロケット弾から「子供を守れ」という民衆の声を根拠として、イスラエルはガザでの一方的な虐殺を正当化するからだ。「子供を守れ」だけでは、子供さえ守れない場合が多々ある。だから「思想の言葉」という日常実感から遊離した次元が必要になる。

2012-11-22 16:55:32
笠井潔 @kiyoshikasai

こんな当たり前のことを、わざわざ書きたくはない。しかし表現者である坂本龍一が、「子供を守れ」という身も蓋もない言葉を平然と口にする。どこかヘンではないだろうか。表現者には表現者としての立ち位置が求められている。日常生活者としての実感を、口が裂けても言ってはいけない場合がある。

2012-11-22 16:59:40
笠井潔 @kiyoshikasai

坂本が音の表現者であるなら、無自覚に退廃したニヒリストである原発推進の権力者が耳にした瞬間、心臓麻痺を起こして死んでしまうような「反原発」の音を創造すべきではないか。これはたとえばの話だが、可能か不可能かはともかく、この絶対的地平をめざすのがアーティストとしての反原発ではないか。

2012-11-22 17:03:26
笠井潔 @kiyoshikasai

もちろんアーティストにも日常生活者の半身はある。日常生活者の実感を生かして反原発を推進したいのであれば、たんに政治をやればいい。いまなら、反原発を掲げて選挙に立候補もできる。アーティストとしての知名度を利用して、日常生活者の気分を代弁するという姑息な二枚舌。

2012-11-22 17:09:03
笠井潔 @kiyoshikasai

これこそ全共闘が嫌悪し糾弾した進歩派大学教授の二枚舌そのものではないか。「消尽の夢」を「消費社会の悪夢」に易々と売り渡した80年代から坂本のホンネはわかっていたが、「子供を救え」の良識派にまで頽落するとは。高橋源一郎も似たようなものだが、まったくうんざりする。

2012-11-22 17:12:42
笠井潔 @kiyoshikasai

「子供を守れ」という誰も反対しない、反対できない「正義」を振りかざせば、なにかを思想的に語ったことになるのか。20世紀なら小馬鹿にされたに違いない発言が、そのまま通用してしまう21世紀とは、いったんなんだろう。

2012-11-22 17:24:52
笠井潔 @kiyoshikasai

どこまで深く考えているのかはともかく、こうした「空気」に応えて坂本は絶妙のパフォーマンスを演じているのかもしれない。たまたま坂本を槍玉にあげたが、似たような同世代はいくらでもいる。もう少し地味なところでは、ネオリベ的な「社会的包摂」政策に自分から進んで協力している学者とか。

2012-11-22 17:29:43
笠井潔 @kiyoshikasai

若年失業者の「再チャレンジ」政策に良心的に協力している学者は少なくない。これも「子供を守れ」と同等の「若年失業者を救済せよ」だ。しかし、雇用のミスマッチを解消すれば失業者は減るのだろうか。

2012-11-22 17:34:22
笠井潔 @kiyoshikasai

再チャレンジ政策で職業訓練を受けても、そもそも就職先が絶対的に不足している以上、かならず職に就けるわけではない。それでも就職できない者は、今度こそ自己責任で餓死しても仕方がない。このような排除/包摂/再排除のメカニズムが、新・新自由主義社会では冷酷に作動している。

2012-11-22 17:35:39
笠井潔 @kiyoshikasai

旧・新自由主義はサッチャリズムやレーガノミックス、日本では小泉改革のような単線的「小さな政府」主義。新・新自由主義はクリントン民主党政権やイギリス労働党の第三の道、あるいは北欧のような社会民主主義まで取りこんだ新自由主義。

2012-11-22 17:38:46
笠井潔 @kiyoshikasai

小泉政権を引き継いだ安倍が「再チャレンジ」の旗を振ったように、ネオリベをたんなる「小さな政府」派だと思いこんでいると現状認識を誤る。そもそも「小さな政府」派のネオリベはリーマンショックで破産し、国家財政による救済策に恥も外聞もなくすがったのだから。

2012-11-22 17:41:03
笠井潔 @kiyoshikasai

というわけで「子供を守れ」も「若年失業者を救え」も、その限りでは誰も反対できない「正しい」スローガンだが、そうであるがゆえに日常実感とは違う抽象的な水準での吟味が必要となる。

2012-11-22 17:45:36
笠井潔 @kiyoshikasai

生活者がそのままインターネット上で表現者になる21世紀であろうと、二つの水準の区別が不必要になったとはいえない。その二重性は個人のそれぞれに内面化されるにすぎない。簡単にいえば「好き嫌い」と「正しい正しくない」を区別する判断力。

2012-11-22 17:48:40
笠井潔 @kiyoshikasai

もう「正否」などない、あるのは「好悪」だけだという論調は、とりわけ日本の2000年代に瀰漫した。東浩紀を中心とするオタク論壇(ゼロ年代批評)など。しかし、そうはいかないことを東や東フォロワーの軌跡が歴然として示している。

2012-11-22 17:52:01
笠井潔 @kiyoshikasai

東はオタク評論家を廃業して憲法草案を起草したし、フォロワーのほうはAKB民主主義論などを唱えはじめた。世の中「好き嫌い」だけではすまない、「正しい正しくない」という規準は厳然と存在することを自覚した点は多少とも評価できるが、それにしてもAKB民主主義では不徹底だろう。

2012-11-22 17:58:52