「レイジ・アゲインスト・トーフ」#5「エグジスト・イン・ジ・アイ・オブ・ビホルダー」 & #6「ナラク・ウィズイン」・再放送Ver(実況なし)
シガキの胸のうちでは、どす黒い葛藤がイカスミ・ナルトのように渦巻いていた。彼の当初の目的はふたつ。まずは、前衛墨絵のモチーフにするための壮絶な光景をその目に焼き付けること。そして、最新の精密作業用義手を買うためのカネを略奪することであった。 だが、この有様は何であるか? 11
2012-03-25 16:25:23(((俺は墨絵などではなく、カラテをやるべきだったのか?!))) おお!頭の中で響き渡るその声を認めれば、彼はたちまち存在意義を失い、廃人と化すであろう!シガキは工場で働いていた時のように心を閉ざし、マグロの眼になった。トーフをプレスするかのように、淡々と敵を殺戮するのだ! 12
2012-03-25 16:31:38「アイエエエエエ!」シガキは心の葛藤を痛々しい悲鳴として発しながら、テクノカラテを振るった。カラテのインパクトと同時に、サイバー義手の手首に仕込まれたモーターが高速回転して四連油圧シリンダを激しくピストン運動させ、金属製のナックル部分を時速200キロの速度で何度も押し出す! 13
2012-03-25 16:37:47「ジェネレータ損傷、ジェネレータ損傷」トーフ工場全域に電子音声の警告音が流れた。「全職員は速やかに脱出してください。五秒後に全セキュリティロックが解除されます。ヨロシク・オネガイシマス」 これまで閉ざされたあらゆるドアのロックが開き、破壊に飢えた暴徒たちが気勢をあげる。 14
2012-03-25 16:42:59「マーベラス…」薄暗い中央電算機室では、何十台もの監視モニタ映像を見ながら、ビホルダーが満足そうにひとりごちた。彼がセキュリティロックの解除ボタンを押したのだ。突入時の映像記録は、全て消去済みである。トレーラー部隊も、スクラップ工場に運ばれている。痕跡は何一つ残っていない。 15
2012-03-25 16:47:10工場区画。シガキはそこから数百フィート上、西側の壁に司令室のごとくせり出す床の間を、防弾ガラスごしに見上げていた。重役室だ。セキュリティロックが解除されているなら、上長の監視台からあの階まで直通のエレベータが使える。シガキはケブラー・トレンチを翻し、死体の山から飛び降りた。 16
2012-03-25 16:52:18「アイエエエ!オッ、オイシイ!オイシイけど、動けない!」「アイエエエエエ!助けて!あっ、シガキ=サン!」 見覚えのあるコケシ労働者二人が、エレベータへと走るシガキを呼び止める。彼らはクローンヤクザにサスマタで捕獲されながらも、麻薬的にうまい大豆100%トーフを貪っていた。 17
2012-03-25 16:58:28シガキは一瞬、その場で立ち止まった。しかし再びトレンチコートを翻し、一直線にエレベーターへと向かう。ひときわ大きな「アイエエエエ!」という声が、背後で響いたような気がした。シガキは自分の魂と信念がトーフのようにプレスされて、真っ白く薄く無視質な塊に変わるような痛みを覚えた。 18
2012-03-25 17:04:31「屋上のヘリで逃げましょう、サナダ=サン」「待ってください、金庫の中にある大トロ粉末や、そこのUNIXのデータを消去しておかないと!」「とんだイディオットですね!今すぐセプクしてほしいくらいだ!」「何ですって!」重役室では、二人のカチグミ・サラリマンが互いを罵り合っていた。 20
2012-03-25 17:10:01ズンズンズンズズポーウ、ズンズンズンズズポポーウ!音響システムが誤作動しサイバーテクノが室内に鳴り響いた。それがサナダとヒョウロクのニューロンを逆撫でし、取っ組み合いの乱闘を招く。黒漆塗りの壁に何枚も貼られた豊かさの象徴、キョート旅行のペナントが不吉に傾き、はらりと落ちた。 21
2012-03-25 17:14:18イタマエの老人は逃げ出した後だ。オイランドロイドたちのAIは状況が理解できず、明滅する非常ボンボリとサイバーテクノの条件反射でマイコ回路をランさせ、虚無的な笑顔でポールダンスを踊っていた。重役警護のために駆けつけたクローンヤクザ十体は、命令を待ち部屋の隅に立ち尽くしている。 22
2012-03-25 17:20:40「イヤーッ!」スケロクの墨絵が描かれた重役室のフスマが蹴破られ、シガキが殴りこんできた。「アイエエエエ!」カチグミたちは恐怖の絶叫をあげる。「ザッケンナコラー!」条件反射的にヤクザ軍団がカタナを構え切りかかるが、テクノカラテの敵ではなかった。「イヤーッ!」「グワーッ!」 23
2012-03-25 17:25:495分も経たないうちに、Y-10は死体の山に変わっていた。刀傷だらけのコートを返り血で染め上げたシガキは、コケシコタツの横で震え上がる重役たちに無言で歩み寄る。残留したズバリ成分が、黒い炎のようにくすぶっていた。スターター紐が引き絞られ、圧縮空気がテッコの側面から排出される。 24
2012-03-25 17:31:11「サカイエ家の者か」と、シガキは鬼のような声で問う。「はいそうです」とカチグミ。 「俺の顔に見覚えはあるか?プレス機の誤作動で潰された腕を、労災保障で戦闘用義手に置き換えられた者だが」と問うと、重役らは声を揃えて「覚えてない、そんなことはチャメシ・インシデントだ」と答えた。 25
2012-03-25 17:37:29「……なあ、あんたがた。一発殴らせてくれよ」と、マグロの眼でシガキは言う。 「ア、アイエエエエ……それで見逃してくれるなら」と、カチグミたちは恐る恐る立ち上がった。恐怖のあまり、サイバースラックスの股間がじっとりと濡れそぼっていた。 26
2012-03-25 17:40:34「イヤーッ!」「アイエエエ!」「イヤーッ!」「アイエエエ!」テクノカラテが重役たちの腹に叩き込まれた!ピストン運動が容赦なく内臓を破壊する!「……あんたがた、知ってるかい?テッコは旧式すぎて、力の加減が効かないんだ。しかも、俺にあてがわれたのは、手垢の付いた中古品ときてる」 27
2012-03-25 17:45:44自分が手を失った時のように床を転げ回る重役らを尻目に、シガキは金庫ダイヤルをテッコで破壊した。中に入っていた札束や高純度のマグロ粉末を、ポケットに突っ込めるだけ突っ込む。 (((あと少し、心を閉ざすんだ。こんな非道は今日限りだ)))シガキの心の中で、脆弱な人間性がうめいた。 28
2012-03-25 17:51:55シガキの眼は、ポールダンスをくり返し、彼に優しく微笑みかけてくるオイランドロイドらに注がれた。ネオ・カブキチョのサイバー医者の事務所に高価買取と書かれていた、最新型の女体アンドロイドだろうか。シガキがその2体を肩に抱えると、「もっとしてください」という電子音声が返ってきた。 29
2012-03-25 17:57:17(((これでオシマイだ。朝焼けが訪れる前に、あの医者の所にいって、ドロイドとマグロ粉末とこの札束で、最新のサイバー義手を買おう。それでオシマイだ……。もうこんな暴力とはサヨナラだ……))) シガキはニューロンの中で虚しいチャットをくり返しながら、重役室を出るべく身を翻した。 30
2012-03-25 18:04:09「マーベラス、なんたる無慈悲さ!」いつの間にかフスマが開け放たれ、車椅子に乗ったニンジャ装束の男とクローンヤクザが重役室に入ってきていた。男はオーディオ機器に向かってスリケンを投げ、耳障りなテクノを止めると、静寂の中でこう言った。「あなた、ソウカイヤクザになりませんか?」 31
2012-03-25 18:08:34シガキは混乱した。唖然として、オイランドロイドを取り落とした。ビホルダー=サンはやはりニンジャ装束を着ている。ニンジャなのか?いやそんな馬鹿な。ビホルダー=サンは自分と同じく、トーフヤへの怒りに燃える元従業員だ。だが今、彼は何と言った?ソウカイヤクザ?ヤクザなのか? 32
2012-03-25 18:14:54「見逃してください」シガキは突如ドゲザした。ドゲザは、母親とのファックを強いられ記憶素子に保存されるのと同程度の凄まじい屈辱である。「私は…墨絵師を目指す、しがない労働者です。…見逃してください。…諦めたく…諦めたくないんです!」シガキの両目から溜めていた大粒の涙が零れた。 33
2012-03-25 18:21:18キコキコキコ、と車椅子の音が近づいてきた。「顔を上げなさい」とビホルダーが声をかける。シガキが無様に泣きじゃくりながらゆっくりと顔をあげると、透過率50%になったサイバーサングラスと、その奥に青白く光るヒトダマのような眼が見えた。カナシバリ・ジツ!「アイエエエエ!」 34
2012-03-25 18:26:26「立て。何と身勝手かつ臆病な男だ。ヤクザにならぬなら死んでもらうまで」ジョルリめいて立ち上がったシガキに、ビホルダーは血も涙もない命令を下す「貴様には、生きたリモコン時限爆弾になってもらう。プラスチック・バクチクを持ってジェネレータに飛び込み、メルトダウンを引き起こすのだ」 35
2012-03-25 18:30:38