川上稔さん(@kawakamiminoru)のライブ小説「総統閣下の塔」
と、お互いに顔を見合わせたときだった。眼下から物音が聞こえた。地元の作業員かと、慌てて下を覗き見れば、町側からではなく、山側から車が走ってくる。それは「デカくて黒い車……」。
2010-08-14 04:41:30見ているうちに、その車は塔の裏手に停まった。ややあってから、暗がりの中でドアが開き、人影が一つ降りた。それは塔の、開かぬ裏口に行き、「開いた……!? いや、開けた!?」
2010-08-14 04:42:33僕達は顔を見合わせた。どうなっているんだと思っていると、塔の最上階、総統閣下の帽子の正面部分に灯りが、いや、これは機材の灯りだ。塔内部のバッテリーを使用して、誰かが通信を行おうとしている。
2010-08-14 04:44:22僕は酷く冷静に、ザックから通信機を出した。ヘルツは憶えている。いや、これでいい筈がない、だってこれはセーケンホーソーのヘルツじゃない。僕達のヘルツ。英雄のヘルツだ。
2010-08-14 04:45:13そして一曲を流し、下の明かりが消えた。一息を入れたような間を経て、エレベーターは下がり、下の扉は開けっ放しで、また車が、やや迷ったように、手を振るように、バックから切り返して山の方に去っていく。
2010-08-14 04:47:48「あの、ね」彼女が言った。「戦争が終わってから、私も聞いたことがあるの」「何を?」「うん」それは「総統閣下は、友人を大事にする人で、子ども達と遊ぶのが好きな人だったって……」「他には?」「うん」それは「……政見放送はいつもテープで、実は地元の放送を聞いてたんだって」
2010-08-14 04:50:26僕は座って、やや明るくなった空を見て、灯りのある町を見ていた。まだ起きている連中が居る。いや、このまま朝を迎える連中が居るのだろう。彼らは、ひょっとしたら先程の放送を聞いていたかも知れない。
2010-08-14 04:51:18だから僕は通信機のスイッチを送信側にする。ヘルツはいつもの通りだ。ずっと前からの、いつも通りだ。今は夜でも、十二時でもない。だけど”英雄”の放送は時間を進ませた。ならば僕達の”ごっこ”も、時間を進ませよう。
2010-08-14 04:53:12東の空が明るくなる。僕は君を横において、マイクを握る。あれからどれだけ過ぎたろう。今、手元の機械は壊れることなく、僕の声も昔より低くなった。
2010-08-14 04:54:02こういう、夜更けから朝に掛けてリアルタイムで流したかった話しなもので。丁度、コミケ準備とかで音楽聞きつつ色々やってる人にはいいかな、と。
2010-08-14 04:56:10@kawakamiminoru あと、休憩なしで一気にやってるのがすげーです。内容も鮮やかで、楽しませて頂きました。ありがとうございます!
2010-08-14 04:58:50