編集可能
2010年8月14日

川上稔のTwitter小説

6
川上稔 @kawakamiminoru

んじゃテキトーに流しますか。タイトルは「総統閣下の塔」で。結構長くなるかなー。あ、ライブで。プロットは脳内。

2010-08-14 03:09:41
川上稔 @kawakamiminoru

それは戦争が始まる前のことだった。総統閣下は国の各地に巨大な通信塔として自分の像を建て、てっぺんに仕込んだ通信施設から各地の情報を行き来させていたんだ。当然、戦争が始まったら通信の要になったけどね。

2010-08-14 03:11:02
川上稔 @kawakamiminoru

総統閣下は自分の像のてっぺんから見る風景が大好きらしく、各地をデカイ黒の車で行き来しながら、寝泊まりするときはその像の中と決めていたらしい。防備にも優れた施設ってわけだ。僕の住む町、近くの丘上にもそれはあったとも。

2010-08-14 03:11:53
川上稔 @kawakamiminoru

さて、当時の僕達は元気のいい中等部。僕には気になる娘がいたけど、ボーイッシュな彼女は町の人気者で、当然のように僕には近所という以外の接点がありません。どうしたもんかというところさ。

2010-08-14 03:13:12
川上稔 @kawakamiminoru

僕達の町には総統閣下の像というか通信塔があるため、当然のように通信系の機械や部品が多く出回るようになった。そして僕達は当然のように自分達でレディオを作り、あるものを聞いた。それは戦前から各地で起きていたレジスタンスの抵抗放送だ。

2010-08-14 03:14:11
川上稔 @kawakamiminoru

レジスタンスの大将は、総統閣下の友人だったと言われる男。彼が、そして彼の仲間達が、各地で夜の音楽を流す。「ヘロー ヘロー 少年達、少女達、今日も悪いおじさんが抵抗の曲を聴かせよう。あの馬鹿をもう一度起こすために」

2010-08-14 03:14:59
川上稔 @kawakamiminoru

僕達は学校で言われたり、町の掲示板にて告げられるレジスタンス放送の傍受禁止命令なんざ聞く耳当然持ってない。そりゃそうだ。堅めのヘッドホンつけてれば音は漏れないしスイッチ一つでヘルツは変わる。足なんか掴めない。

2010-08-14 03:16:50
川上稔 @kawakamiminoru

大体、レジスタンス放送自体が不定期だ。夜の十二時というのは決まっていたが、毎晩ではなかった。数日開き、一週間開きもザラにあった。だから僕達は引き寄せられ、語り合った。次はいつになるのか、と。そして放送の翌日は、”英雄”が生きていたことを喜んだ。

2010-08-14 03:18:21
川上稔 @kawakamiminoru

友人が、レジスタンスと会ったとか、大将らしき人が近くの町にきたとか、そういう噂で僕達は盛り上がる。場所は教室の窓際。レジスタンス放送の口まねは評価の対象になったし、そこにはいつもあの娘がいた

2010-08-14 03:19:21
川上稔 @kawakamiminoru

だが、男連中は、彼女達がよってくると澄まして格好つけたがる。これは男の仕事なんだ、ってね。ああ、僕もやった。何しろレジスタンス放送には男しか出ない。口まねも、女の声では格好つかない。そんな声色の違いだけが僕達の優越だ。

2010-08-14 03:21:00
川上稔 @kawakamiminoru

しかし僕達は中等部の上級生になって、もう一つ上の優越を手に入れた。友人が「隣町でレジスタンスの関係者という露天商から売って貰った」と、もうインチキくさい図面を持ってきたんだ。

2010-08-14 03:22:47
川上稔 @kawakamiminoru

だけどそれが確かに僕達を優越させた。それは何故なら通信機の設計図だったから。あ、通信機といっても、単に海賊レディオ用の放送機ってやつだ。今ならそこらの店で売ってるアレな。いや、アレよかもっと音も何も悪いしどうしようもないものさ。

2010-08-14 03:24:29
川上稔 @kawakamiminoru

でも僕達はそれで始めた。何をって「レジスタンス放送」さ。何しろ「関係者から買った図面」なんだ。文句は無いだろう? 僕達は選ばれたんだ、ってね。

2010-08-14 03:26:05
川上稔 @kawakamiminoru

通信は毎晩、十二時に行われた。レジスタンス放送が無い夜、皆で代わりをやってやるのさ。それは当然、僕達の町中にしか通じないことだったけど、用心のために僕達はいつも複数人が同時に放送を行い、攪乱したつもりになっていた。大人達が寛容だったんだろうけど。

2010-08-14 03:27:32
川上稔 @kawakamiminoru

さて、あるとき僕は彼女に呼び止められた。「うちの近所のあの放送、貴方でしょう」って。おっと、例え恋人や家族でも正体を知られてはならないのがレジスタンスだ。だから僕はしらばっくれたさ。

2010-08-14 03:28:49
川上稔 @kawakamiminoru

「貴方が一番、口まねが上手いと思うんだけど」っておだてても僕は乗らない。しかし彼女は言うんだ。「だったら、そんなの関係無しで”放送局”を私にも作ってよ」ってね。お安い御用過ぎるとも……! 浮かれたから二日で作って四箇所火傷したね。

2010-08-14 03:30:14
川上稔 @kawakamiminoru

で、だ、僕が彼女に”放送局”を渡した翌日、不意に彼が来た。総統閣下だ。総統閣下は噂通り、多量の護衛をつけて黒のデカイ車でやってきて、その像に入っていった。他国との交渉の途中とのことで、午後から町は静かな、しかし騒ぎの状態になった。

2010-08-14 03:31:35
川上稔 @kawakamiminoru

何故なら、総統閣下が「セーケンホーソー」をすることになっていたからだ。それも夜の十二時に! だったら僕達がそれを潰すしか無いじゃないか。無論、出力では雲泥なので、重ねる形で騒ぎ立てようってことだったけど。

2010-08-14 03:32:47
川上稔 @kawakamiminoru

その日は夜の十二時が来るのが凄く遅く感じた。だけど始めた瞬間。僕達は自分達の放送よりも、あるものを聞いた。総統閣下の放送の裏で、確かに聞こえたのは「ヘロー ヘロー 少年達、少女達、今日も悪いおじさんが抵抗の曲を聴かせよう。あの馬鹿をもう一度起こすために」

2010-08-14 03:33:46
川上稔 @kawakamiminoru

僕達が出せないほどの低い声、そしてこの口調。英雄だ、と翌日の学校では騒ぎになった。英雄が僕達のことを知って、援護にきてくれたんだ、とね。でも僕は知っている。それが英雄の声でも、放送でも無かったことを。

2010-08-14 03:35:14
川上稔 @kawakamiminoru

何故ならその放送は、僕が作った”放送局”によるものだったから。そう、僕が彼女に作ってあげたのは、声色を変えるチェンジャーつきの”放送局”さ。そして恋する男は馬鹿だねえ、自分の放送潰されても彼女の声が聞きたいから、増幅機も凄いのつけたよ。

2010-08-14 03:36:37
川上稔 @kawakamiminoru

彼女が最も口まね上手いのは、澄まして距離取る振りしつつ、近くにいた僕だけが知っていた。だからあの晩、僕だけが違う意味でガッツポーズとって、浮かれて外に出て職質された。だけど浮かれまくったよ。ああ、いつもなら半日で作れるのを二日かけてよかったなあ、と。

2010-08-14 03:37:48
川上稔 @kawakamiminoru

しかし、僕の少年時代はそこで終わる。ホーソーを邪魔された総統閣下が不機嫌に出ていった先で戦争が決まって戦争が起きて、中等部の卒業後に僕は持ち前の技術で通信兵になり、しかし途中で配属地が解放されると向こうの国に組み込まれたからさ。本当だよ? 戦傷もある、──背中に。

2010-08-14 03:39:25
川上稔 @kawakamiminoru

気付けば僕は山岳地帯の通信兵になっていて、インドア派から山男だよ。それで戦後って時代になって、総統閣下は今、この国の中に潜伏しているとか土の底だとか聞いた。王都では怒りの矛先どうしよう、ってね。そして僕達の英雄なんだが、これがまた、哀しいことになっていた。

2010-08-14 03:41:05
川上稔 @kawakamiminoru

英雄は、レジスタンスを作った後、病で死んでいたらしい。僕達が聞いていた放送は彼が生前に流していたものを切り取り、音楽で穴埋めしたもの。だからあんな低い声で、ああ、ノイズだったんだ。その製作に時間が掛かって毎日放送出来なかったんだそうだね。

2010-08-14 03:42:27
残りを読む(70)

コメント

コメントがまだありません。感想を最初に伝えてみませんか?