「葬室からの励と責～イット・カムズ・レイド」 #3

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―――――某国某所、現地時間:2013年4月10日(水)？？:？？ 1

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「おはようございます。マスター」従者が屋敷の主に挨拶をする。「うむ」挨拶を返す男の背は170cm台、髪は金で髭を薄めに蓄えている。自宅にも拘わらず整った服装と胸の銀のロザリオ…そして身の丈にやや余る豪奢な杖が印象的だ。「今朝はローズティーに致しました」「うむ」 2

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食堂に用意されていたのはトーストにクロワッサン、サラダ、軽い肉料理。この家の標準メニューだ。この国は広い海に面しているのだが、魚料理の類は男が抱える『ある事情』から殆ど出ない。宗教的な理由、ではないが彼にとってはそれに近い。食べ終えるとバラの香りのデザートが運ばれてくる。 3

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朝食を取り終え従者達が食卓を片付けると、男は預けていた杖を片手で受け取る。そして杖の先端で宙に大きめの円を描くと、その内側に鏡のようなものが現出する。もうお気づきになられただろうか…？あろうことか、彼は……魔術師なのだ！！ 4

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『鏡』の中心を杖で軽く突く。遠話の汎用術式の一種だ。この屋敷には電話もあることはあるが、彼は年に数度しか使わない。別段通信料を惜しんでいる訳ではない。電話は主に従者が『表』とやり取りするための物で、ごく一部の案件以外に彼には必要が無いのだ。 5

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汎用術式とは、魔術師なら大半の者が使える広く一般に知られる術式のことである。中でも遠話はその利便性ゆえに数千年以上前から開発され、種類が非常に多い。基本的な技術は共通だが、方式や媒体、燃費、有効範囲、などが多様極まり、恐らく誰もその全容は知らない。 6

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この『鏡』は短距離用で、高い燃費・安定性に加え…非常に高い秘匿性を有する。とは言え、彼はごく気軽にせいぜいケイタイ程度の軽い感覚で使っている。その証拠に音声ばかりか映像もやり取りしている。秘匿性を重視するなら映像の様な高密度情報を削るに越したことはないのだ。 7

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通信に出た相手の男…彼の部下と一言、二言だけ挨拶を交わしてから、彼は本題に入った。「そちらの首尾はどうかね」「はっ。万一の漏洩防止の為、最後の通信は3時間ほど前でしたが、準備は、ほぼ整っているようです」「ほぼ？」声色がやや下がる。「あ…いえ…」男は無言のままだ。 8

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「その…『あとは『赤き六柱』を確保してくるだけだ』と申しておりまして…その…」「……」「今頃確保している頃合いかと思われまして…ええ。そのぅ…それ以外は連絡の時点で…ええ、完了しておりまして」緊張しながら、言葉を選びつつ部下は答える。 9

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「それならば、素直に『柱以外は整っているようだ』と言いたまえ？」男は表情を崩して言う。「は、はい！」「柱の鮮度と、直前に連絡が出来ないことばかりは仕方の無いことだ」「え、ええ…ご理解頂き…その、幸いです」「柱の材料が転がっていない土地でもあるまいしね」「は…はい…」 10

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「そこまで私が狭量とでも思ったのかな？」「い、いいえ！！いいえっ！」怯えた声で部下が殆ど叫び気味に答える。「ワ、ワイドリバー達からは…次の連絡は……」言い淀む。「いつかね？」「あ、明日の夕刻に入ることになっております！」「ずいぶんと遅い報告だね？」「申し訳ございません！」 11

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映像が見えているのは、この部下にとっては災い以外の何物でも無かった。彼は実際婉曲的に『秘匿性重視の為に音声限定にする』提案を一度したことがあったのだが、男はこの調子で『警戒のし過ぎでは無いか？』『私の術式では不安かね？』と一蹴したのだ。「……」無言で続きを促す。 12

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「その理由…でしょうか」「その理由…だね」「その…儀式の成功は…『大魔法陣』を観測することで、その起動から確認できることですし…万が一のことを考え、通信用を含む持てる全魔力で儀式を行うように、との…指示を…」「……指示を？」「指示を…私が行いました！」一気に言い切る部下。 13

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「……」「……」「その…差し出がましい真似をして申」「素晴らしい！」「…え」男が無音で二度拍手する。「実際合理的じゃないか、君。良い提案と心がけだ」「は、はあ…」「褒めているのだよ君」「あ、ありがとうございます！きょ、恐縮です！」薄い頭を全力で120度下げる。 14

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「実際君の言う通り、首尾はそれで分かることだ。敢えて直ぐに報告させる必要ないし、むしろこの場合愚策と言えるだろう。本来なら私か六騎士、もしくは上級の幹部を帯同させたかったところだが、それが難しい以上、最善と言ってもいいだろう！」「は、はは」曖昧に頷く。 15

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言い終えた男は軽く杖で床を突いて一拍置いた。「何にせよ、だ」「……」「我らが悲願『大いなるＣ』の復活…その為の最後の儀式、その始点の儀式なのだ…失敗は許されない」「はい！必ずや！」「吉報を待っているよ」「はっ！」男は通信を切り、『鏡』の術を止めた。 16

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―――「もう暫く…もう暫くだけ御待ち下さい…我らが主よ…！！」祈るような一人言を終えると、彼…魔術師組織ＵＡＲの長…は自分の書斎へと向かっていった。 17

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―ミストルティン編３話　「葬室からの励と責～イット・カムズ・レイド」 #3

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浅空勇矢のピエロ型ロボット『ジョーカー』と、その下位ユニットたる球体。観崎智明制作、源瀬隆光操縦の人型勇者甲虫機『ブレイビート』。対峙する両者が再び……動いた！ 18

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接近する球乗りピエロ・ジョーカー。これを迎え撃つ構えのブレイビート。球回転と共にジョーカーが跳躍前転し…両足キック！頭上から来るそれをビートは殴りつ…けると見せかけ、腕の振りを乗せた右蹴で迎え撃つ！だがジョーカーは力を抜きつつ、右側の床へと舌接触で回避。蹴りはフェイントだ！ 19

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本命の球突進が迫る！だがビートもそれは読んでいた。こちらの右蹴もフェイントだ。目的は確実にジョーカーに今の横回避をさせることと、そしてこの本命攻撃の回避！足の振りの勢いを乗せた左側転で球を回避！だが正面にいる筈のジョーカーは左側転で球の方へと移動しつつあった。 20

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一方の球も後退を始めていて、突進前の位置に戻っていく…ジョーカーは球の向こう側に隠れるつもりだ！ビートはそれも既に読んでおり、側転終了後の三連続バック転で、球を挟んだジョーカーの進行方向、自陣側へと先回りを始める。しかしジョーカー側もそれを更に読んでいた！ 21

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既に右回転を中断して反転し、自陣側への移動を始めている。 結果として！勇矢の意図通り、球を挟んで互いに左回りすることとなった。この状況は隆光側にとっての不利である。球は中央よりも１ｍ程勇矢側にあり、そのサイズのせいもあって彼等からビートが完全に隠れる状況となっている。 22

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智明はカメラも併用するとは言え、基本は肉眼による目視に頼っているため、ビートの状態が見づらい。そしてビートのカメラに頼る隆光にはジョーカーが見えない。軽い分断工作！更には、仮に電波の受信機を破壊された場合に音波や赤外線という予備操作手段も若干効きにくくなる恐れもある。 23