ミストルティン編第四話 「護るべき笑顔は~ノー・ティアー!ノー・アゲイン!」 #9 (終)「イントゥー・ザ・シャロー・スカイ」

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Astal_jukebox @astral_jukebox

―2013年4月21(日)20:00。某国。 夕食後のワインを飲んでいたUARの長の下に、その第一報が入ってきた。 「またも……行方知れず…だと!?」 『は、はいぃ…!』 報告を受けた男は怒り以上に驚愕し、 報告する部下も平身低頭である。

2013-07-28 07:35:51
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こちらの時間の朝頃、日本の夕方には定時報告が入る筈であったが、それが無かった。 UAR内ではそれから半日かけて、宿泊先などに何度も問い合わせたが、返ってきたのは『外出中』か『予定より早くチェックアウト』との内容ばかり。

2013-07-28 07:45:40
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始点の儀式場の解体の報告などの他の情報と併せて考えても、最早裏切りではなく外部の敵が存在するのは明白。 地元組織も、少なくとも間違いなく一枚以上噛んでいる。 しかもその組織の正体は不明。 最悪の状況だった。

2013-07-28 08:00:42
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男がグラスを握る手に力を込める。 「……ッ!」 半分ほど中身の残っていたそれを一気に飲み干してから、 「ぬぅっ!」 放り投げた。 蠍の模様のある黄金像、その横の壁にぶつかって割れた。

2013-07-28 08:15:40
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部屋の入口付近から等間隔に配置されていたであろう黄金の像。 蠍や山羊など十二星座のレリーフを台に刻んだ男女の姿をしている。 しかしその数は今は9台。 台の間隔に3つほど抜けがある。 抜けた部分には、かつて台があったことを暗示する四角の跡。

2013-07-28 08:30:40
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『マ、マスター…』 「おのれ…!もう少しだと言うのに!ここまで、来ているというのにっ!おのれおのれのれぇぇええっ!!!」 部下が怯え、男が激昂する中、従者達が淡々と割れたグラスを片付けていく。

2013-07-28 09:00:41
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2013-07-28 09:05:40
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ミストルティン編第四話 「護るべき笑顔は~ノー・ティアー!ノー・アゲイン!」 #9 「イントゥー・ザ・シャロー・スカイ」 #evlst

2013-07-28 09:10:40
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2013年4月22(月)8:12。星咲中央学園1-A教室。 前方の扉が開く。 「おはよ…あれ?」 智明と、彼に続く隆光・湊は意外な光景を目にした。 教室右前、彼等のすぐ近くに浅空勇矢が既にいる。 遅刻常習犯の彼が始業より20分も早く。

2013-07-28 09:33:01
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8時20分より前にいることすら三人が知る限り、そして事実初めてである。 だが問題はそこでは無い。 勇矢は黒いサイバーグラスを掛けたまま、黒い四角錘状の布に手を入れて何やら作業をしているのだ。 一辺30cm程のその四角錘の正体は恐らくデジカメ用撮影ブースであろう。

2013-07-28 09:45:41
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その中に更に黒い布を入れて入り口を塞ぎ、何らかの作業をしている。 手の動きとそのサイズから、その作業がタイピングであろうことは分かる。 タブレットとグラスを連動させ入力の助けとしているのだろう。 このような手段を用いる時点で作業内容を見られたくないのは明らかだが…。

2013-07-28 10:00:41
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「ああ、おはよう…なんか見崎っぽい感じが近づいてくるかと思ったら、やっぱり水無瀬か」 僅かだけ首を右に向けて挨拶を返した。 「合ってそうで間違えてるっぽいけど、観崎は僕で、ヒロが源瀬だからね。で、湊が伊都谷」 「惜しい!」 「惜しくないよ!…いや君にしちゃあ惜しい方か」

2013-07-28 10:15:40
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「言い直すか。糸…い、糸?鳩家?…あー…マネージャー的気配が近づいてくると思ったら水瀬達か」 「俺を中心に据えられても困る」 源瀬隆光が困惑する。 「え、ちょっと待って下さい。何ですか私っぽい気配ってそれと聞いたばかりで忘れないで下さい。伊都谷です」 伊都谷湊が心底ヒく。

2013-07-28 10:30:41
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「いやみさき…違う、部長なら分かるだろ。いとや…マネージャーっぽい匂…気配とか…みなせ…おっぱい星人も分かるんじゃないか」 「今合ってたよ!合ってたのに何で!…まあ分かるよ勿論」 「何故、俺を『パイロット』とか役職で呼ばない…?」 「気持ち悪…智明さんは惚れ直…いや…?」

2013-07-28 10:45:41
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流石の湊も智明の言動に、惚れ直すべきかヒくべきか決めかねていた。 それはさておき。 「何でこんな目立つところで、そんな回りくどいことしてるのさ」 「しょうがないだろ。こんな席なんだから」 正面に向き直りつつ答える。 「違う。何故教室なんだ…?」

2013-07-28 11:00:43
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隆光が聞いた質問は、正に教室全員の総意だった。 こんな早い時間に来るくらいならば、家か部室、学食…いくらでも他の場所で作業出来る。それこそ人に見られない場所で。 その方がどう考えても効率も良い筈だ。 「……え?何だって?」 「耳でもおかしくなりましたか?」

2013-07-28 11:15:40
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「いや…?」 「頭のほうですか?」 「それは物心ついたころからおかしい」 「どこか他所で作業した方が楽でしょうに…何でそんな鬱陶しい真似を」 「………本当だ。なんでだろう…知らん…怖…!」 タイプの手を止め、湊のふともも…に向かおうとする目線を顔に向けて呆然と呟いた。

2013-07-28 11:30:41
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三人は顔を見合わせる。 何を言っているのだこいつは。 「取り敢えず…もうちょっとだから打っちゃって良いかな…?」 「ご自由に…どうせ始業時間間際まで智明さんの所に居ますし」 三人は教室奥に向かう。 勇矢はタイプを再開する。

2013-07-28 11:45:40
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彼が今行っているのは昨日までの後処理である。 昨夜、裕岐を送って帰宅したのが23時頃。 その後、再度の軽食。 遠隔操作トラックで運ばせた半死半生のUAR魔術師を回収したのが同半過ぎ。 拷問焼却の上で、死体と土塊で世界一不味い多層菓子を作成し終えたのが3時前。

2013-07-28 12:00:42
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作戦に使用した機械の整理をし終えて4時前。 いつのまにか寝て起きたら6時半。 朝食を取り簡単なメンテを終えたら7時過ぎ。 いつもの登校時間に近かった。

2013-07-28 12:15:41
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絢女に頼れば一瞬であるし、速度強化最速なら数分だが、頼りたくない手段ではある。 自転車で一時間の距離で作業には約30分。家でやった方が効率的ではあるが、道中で夜葉に襲われでもしたら困る。 作業は多少遅れても良いが、遅刻は今月の『予定回数』が上限に近いので避けたかった。

2013-07-28 12:30:41
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それゆえにすぐに出発し、幸い襲撃も無く50分頃に学校に到着していた。 そこまでは良いのだが、何故人の多い教室での作業を選んだのか? 撮影ブースを持ち出していた辺り、出発前には既にこの方式を決めていた筈だ。 自分のことだというのに訳が分からなかった。

2013-07-28 12:45:41
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迷いながらも作業は終わった。 UARの母国、一部構成員の家に仕掛けた監視ロボの操作である。 映像に加工をしただけで簡単に彼等を騙せた。 本当なら親等も始末したかったが、流石にキリがないので止めた。 せいぜい余生を子供を失った悲しみに暮れて過ごしたりすればいい。

2013-07-28 13:00:41
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8:28。 「おはよう!間に合った~…ってユウ!?早いな…」 「おはよう」 既に片づけを終えた勇矢が応えた。 「おはようございます。遅かったですね?」 席に戻ってきた湊が言う。 「ああ。昨日、その…」 裕岐は答えかけて言い淀む。

2013-07-28 13:15:41
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金曜に部内対抗とはいえ、試合があるタイミングである。部の仲間に『デートしてきた』とは言いづらい。 「…知ってますよ」 「え、知っていたの」 「部活に悪影響しなければ何も思いませんよ」 「そ、そうか…」 「…彼女を大切にしてあげて下さいね」 「……ああ」

2013-07-28 13:30:41