「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #4

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Astal_jukebox @astral_jukebox

―新渡町某所廃屋、17:10。「ハァッハァッハァッ」白マントの少年が息を切らせながら入ってきた。「遅れて…済み…ません…でした!…ハァッ」クライムストーンの徒弟ロナルド・エイクリーである。その後ろには彼の兄弟子たる黒マントのクインス・リプリー。何とも言えない表情だ。 1

2013-01-07 18:00:49
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彼等は3つの『柱』を運んで来ていた。「間に合ったようだな…危うげではあるが」クライムストーンが言う。「だが質も中々の様じゃないか」ワイドリバーが称える。「まあ、シモン達の程では無いがな」と冗談めかして笑う。彼の徒弟二人はクスクスと笑った。クインスは無言である。 2

2013-01-07 18:00:55
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「?」ストーンは彼の様子に気付き、話しかける。「どうした?」時間からしてロナルドによる『柱』の確保は失敗したとも成功したもとれる。しかしクインスの表情は弟弟子の、成功を喜ぶ顔にも失敗に呆れる顔にも見えなかった。「それが…ですね」クインスが言い淀む。 3

2013-01-07 18:04:38
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「あら、やっぱりボウヤはダメだったのかしら?」「大変だな、クインスは」「やめろ二人共、先に準備に入れ」『はい』弟子達を窘めるワイドリバー。彼等はUARの徒弟階級ではトップクラスだが、それ故増長しがちである。師にとっての悩みの種だった。「どうしたクインス……ロナルド?」 4

2013-01-07 18:09:28
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「あの、その…お待たせして申し訳ありませんでした…そのぅ」「はっきり言え」ロナルドを師が促す。クインスが代わった。「いえ、ロンはうまくやりました。正直…予想外の上首尾です」「では、まさか二体同時か!?」ストーンが驚く。他の3人もだ。「いえ…それが、三体、です」 5

2013-01-07 18:13:02
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『!?』4人が同時に驚く。『柱』の確保に必要なのは高等技術では無い。だが徒弟階級では通常1人辺り1~2体同時が限度、師の階級でようやく2~4体が普通だ。余程この技術に特化した者なら二桁も可能だが、平均的にはその程度だ。徒弟で3体同時はまず、無い。彼等が驚くのも無理はない。 6

2013-01-07 18:16:10
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「…本当かロン?」ストーンはどうにか平静さを取り戻して問う。「は、はい!何とか行けそうな気がしたんで、ギリギリまで…頑張らせてもらって、そしたら最後の挑戦でうまくいきました!…すいません」おっかなびっくり答える。成果を誇るでは無くあくまで申し訳無さげだ。 7

2013-01-07 18:19:20
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成る程クインスが言い淀むのも仕方がない。ストーン達は納得した。弟弟子の成長と成果を喜ぶ気持ちと、自分達を上回り得る後輩の潜在力と可能性への嫉妬との板挟み、葛藤があったのだ。シモンやキャロン達徒弟階級は勿論、師達も殆ど同じ気持であった。 8

2013-01-07 18:21:55
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だが『柱』確保と儀式遂行は出来て当然のこと。減点方式の満点、加点方式の0点である。師達は気持ちを切り替えた。だが言うべきことは言わねば。「ロナルド」「は、はい!」「見事だ…良くやった…クインスも監督役ご苦労」「あ「ありがとうございます!」」クライムストーンは弟子達を称えた。 9

2013-01-07 18:24:19
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それを確認してから、場の指揮官たるワイドリバー…UARの魔術師ワイドリバーは指令を出した。「よし、クライムストーン、お前たちの方も最後の準備にかかれ」「了解」「りょ「了解しました!!」」18:30からの儀式、その最後の準備が始まった。 10

2013-01-07 18:26:44
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―ミストルティン編3話 「葬室からの励と責~イット・カムズ・レイド」 #4

2013-01-07 18:27:59
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――16:55。星咲学園アクトボット部部室。…2体、厳密には3体のロボットが機能を停止する中、カウンター装置が試合終了の電子ベルを鳴らす。 11

2013-01-07 18:30:53
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「――――――」沈黙。「―――伊都谷?」最初に声を出したのは七橋裕岐。「あ、はい…試合…終了、です!」それを受け、湊が終了を告げた。先に勇矢が立ち上がり、次いで隆光、智明が立ち上がる。「「「ありがとうございました」」」3人で一礼。 12

2013-01-07 18:34:57
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パチ……パチパチパチ!!「スゴイぞ!」起矢が拍手を始め、他の部員達がそれに続く。「ええと、それで」直人が湊に聞く。「これは引き分け…かな?」「引き分け、ですね、はい。両者行動不能……ですよね?」試合終了後の敗北判定は、場外か否か、自力で動けるかどうか、で決まる。 13

2013-01-07 18:37:38
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「ああ、完…全…にやられたね…うん…」「『サヨナラ』を言って四散したら死亡、いいね?」二人が認めた。「アッハイ…いや~それにしても凄かったな!」起矢が楽しそうに言う。「ええ…そうね…」と早紀。曖昧な苦笑いだ。他の者も大体は同じ反応だ。 14

2013-01-07 18:40:51
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「え…なんだよ皆?…凄い試合だっただろ?なんか…もっとないの?」起矢はただ一人困惑する。彼はバカなので分かっていないが、他の部員達は賞賛の言葉を贈るどころでは無かった。機体と操縦技術、戦術…余りに高レベルなそれらの応酬に、部員達は賞賛以上に焦躁のほうが強かったのだ。 15

2013-01-07 18:45:58
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彼等も自分達の実力に自信や自負はあった。実際、今激戦を繰り広げた3人・3機と彼等の実力はそうかけ離れてはいないどころか、勝る部分すらある。それでもその自信を半ば打ち砕かれかけていた。それ程の試合だったのだ。更に数秒の沈黙が訪れた。 16

2013-01-07 18:51:10
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「…ああ、確かに見事だった」と島田延生がその空気を最初に破った。「だが、俺達の敵ではないな」とすぐ後に自信たっぷりに胸を張って続けた。彼も起矢程では無いにしろズレた人間だったのがこの場では…幸い…したの、だろう、とまあ…思われた。 17

2013-01-07 18:55:10
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「そうね…観崎君達のロボットが単独でもあそこまで動けたのは正直驚いたわ。どうやって冷却させてるのか聞きたいくらい」平坦な胸前で腕を組んだツインテの村雨早紀が賞賛すると、直人も応じた。「駆動用のモーターを冷却ファンと一体化させてるね?」「流石だね、その通りさ」智明が答える。 18

2013-01-07 19:00:05
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「ファンが一体化する分モーターは僅かに重くなり、その分だけ発熱が若干上がる。それを押してなお排熱性は良いんだろうけど、攻撃で先にファンだけが壊れると一気に排熱性が低下するだろうね?」分析しつつ質問する。「うん、だから角度には特に注意してるんだ」と智明。 19

2013-01-07 19:05:14
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「それに壊れやすいファンを耐熱ネットで上から守るんだけど、それでまた排熱性が下がるんだ…。部品も増える訳だしね」軽く溜息を吐きながら答えた。性能を維持したまま、部品を減らすのは難しい。だがそれが出来れば費用も整備性、発熱量など全てが減る。 20

2013-01-07 19:10:53
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「だから本体の改良には河坂君の修理スキルが最も重要になると思うんだ」「ああ、僕にできることがあれば何でも言ってよ。排熱性と稼働時間を改良出来れば、ビートはもっと強くなる」「そしてエクスタッグの運用法にも補給以上の意味を持たせられる」二人が早速話し合いを始めていた。 21

2013-01-07 19:15:28
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「そいつの性能は認めるが、あの車椅子もどきは本当に必要か?」亀岡興基の疑問。「車椅子モドキ……君のは制限ぎりぎりのサイズだから単騎でも良いだろうけどね……補給とか連携ってものがね…?」智明が強めに反論する。「だが本体性能を改善出来ればいらないだろう?その分は俺達が補える」 22

2013-01-07 19:18:14
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「何が補うだ。重量とサイズ制限ギリギリまで一人で使ってて」延生が割って入る。「何だノブ!」「3人の俺達チームでも合計重量がギリギリだったのに、この人数でまさかそのままのつもりか?」「それは!」いつの間にか京都組の口論になっていた。 23

2013-01-07 19:21:51
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「蘭花のモジュールは減らせないから、その分のしわ寄せは全部俺だ。重量調整にどれ程苦労したか」「作ったのほぼ俺だろうが!」「微調整は俺だ。それに弾の予備だって重量制限のうちなのに、お前のせいであまり積めなかったぞ」「お前が外しまくるからだろうが!」 24

2013-01-07 19:24:22