【三題噺 #六人夜話 】青空、骨、めがね

メンバーでお題を出しあっての三題噺! 今夜のお題は「青空、骨、めがね」
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御調 @triarbor

三題噺「青空、骨、めがね」 #六人夜話

2013-01-23 23:48:27
御調 @triarbor

(1)「お嬢さん、骨格標本がお好きかの?」突然話しかけられて振り向くと、老人が立っていた。老紳士といった風貌の彼は、街中ではきっと浮いてしまうのだろうけれど、この博物館という場にはこれ以上ないほど馴染んでいた。 #六人夜話

2013-01-23 23:49:12
御調 @triarbor

(2)彼の言った骨格標本というのはきっと、目の前に展示されている大昔の人骨だ。私が熱心にスケッチしていたのを見たのだろう。「学校のレポートに使うんですよ」と答える。「でも、好きですよ。骨が、というより昔の人を想像するのが」「ほう、どういうことかな」 #六人夜話

2013-01-23 23:49:21
御調 @triarbor

(3)「この人が生きていた時代、例えば青空はどれだけ綺麗だっただろう、とか」「フフ、昔から変わらんよ。空は綺麗な青色だ。私は雷雲も夜空も好きだがの」「おじいさんはそんなに昔から生きてないでしょ」老人は悪戯っぽく笑って、目の前の人骨を覗き込んだ。 #六人夜話

2013-01-23 23:49:28
御調 @triarbor

(4)「思うに、コイツは女だの。きっと別嬪だったろうのお。料理も狩りもできそうじゃ」ニコニコと笑いながら言う老人に少し驚いたものの、よく見ると立札に書いてあった。曰く、この個体は女性と推定される。この部族では女性も狩りに参加した痕跡が示されている。 #六人夜話

2013-01-23 23:49:46
御調 @triarbor

(5)「おじいさん、それ読んでるでしょ」と私が指摘すると。うん?と首をかしげ「ここに何か書いてあったのか。すまんが目が悪くての、眼鏡を貸してくれんかね」などととぼける。往生際が悪いおじいさんだなあと苦笑しつつ、最後まで付き合ってあげることにした。 #六人夜話

2013-01-23 23:49:54
御調 @triarbor

(6)女性向けの眼鏡をかけた老人は滑稽だったが、本人は真剣に立て札を読むフリをしていて、とても愛らしく映った。いつまで続けるかな、とニヤニヤしていると突然「すみません、閉館のお時間です」と学芸員さんが現れた。慌てて「おじいさん、閉館だよ」と振り向くと、姿は無かった。 #六人夜話

2013-01-23 23:51:14
御調 @triarbor

(7)あれ、今のいままでそこにいたのに。と辺りを見渡すが誰もいない。それに眼鏡がなくて視界がぼやける。混乱していると学芸員さんが声を掛けてきた。「あら、展示物に悪戯がありますね」なんの話だと振り向くと、学芸員さんが展示箱に手を伸ばしていた。 #六人夜話

2013-01-23 23:51:17
御調 @triarbor

(8)展示箱には男性個体の頭骨が納められていた。学芸員さんは苦笑いしながら「どうやって入れたんでしょうね」とこぼした。ショーケースの向こうの頭蓋骨は、女性ものの眼鏡を掛けていた。 #六人夜話

2013-01-23 23:51:23
Sechs @Mark_Sechs

「あなたは悪いお父さんね。」店主はカウンターに頬杖をついている。「お前は、いい母親だよな。」男は長い戦いを終えたと言わんばかりに椅子にもたれこんだ。「違うわ、いい女なだけよ?」悪戯っぽい笑み。 「知っているさ。」男の表情にも柔らかさが戻っている。 #六人夜話 (1/5)

2013-01-24 00:06:18
Sechs @Mark_Sechs

店主がカウンターの裏のコンポを操作すると、クラシックではなく歌謡が流れ始めた。―重い荷物を まくらにしたら 深呼吸…青空になる― 「この曲、聞き覚えがあるんだが」不思議そうな顔をし、少し身を乗り出す男に、「そりゃそうよ、 #六人夜話 (2/5)

2013-01-24 00:06:28
Sechs @Mark_Sechs

日曜日にあなたが起きてくるといつもかかってた曲だもの」店主は笑いかける。「ああ、あの子が見ていた番組か…」 納得したのか、もう一度深く腰掛ける。「前に頼んだの、いつだっけな?」不意に、男が尋ねた。「あの子が足を骨折した時よ。あなたったら、 #六人夜話 (3/5)

2013-01-24 00:06:39
Sechs @Mark_Sechs

大慌てでお店に電話をかけてきて」 懐かしむというより、その時のことが目に浮かんでいるようだった。「その前は」対照的に、男は遠くを見つめるような目をしている。「んー、あの子の眼鏡を買いに行くとき」煙草で酷く乾いた唇をグラスの水で潤す男に、 #六人夜話 (4/5)

2013-01-24 00:06:47
Sechs @Mark_Sechs

店主は優しげな目を向けている。「その前は」「忘れちゃった。あなたったら、本当になんでも頼みにくるんだから。」そう言いつつも、店主の声は柔らかい。もしかすると、あの時のままこの人の時間は止まっているのかも。と、店主は心中独りごちた。 #六人夜話 (5/5)

2013-01-24 00:06:57
らいら(らいられん) @Lailaren

夜のように暗い森の真ん中に、明るく暖かく輝く街灯がたっている。覆いかぶさるように茂る枝葉の向こうは塗りつぶしたように真っ青な空。闇の底に、空の反映が微かに青く映るほどに。森の闇の底から見上げると、まるで別世界。 #六人夜話 (1/8)

2013-01-24 00:22:35
らいら(らいられん) @Lailaren

街灯の下に、白い物が横たわっている。柔らかな光を浴びてほのじろく輝いている。 それが、ふわり、と動く。ゆるやかに大地の抱擁から身をはがす。 ゆっくりと起きあがったのは、骨。 まだ人の形をとどめる、風雨に晒され白く磨き上げられた骨。 #六人夜話 (2/8)

2013-01-24 00:22:47
らいら(らいられん) @Lailaren

骨は立ち上がると、首を傾げて街灯を見上げる。 その顔には、なんとも地味な黒縁のメガネがかかっている。 街灯が静かに骨を見下ろす。 #六人夜話 (3/8)

2013-01-24 00:22:59
らいら(らいられん) @Lailaren

「永かったな」と上から澄んだ鐘のような声が響く。 「永かったね」と下からさざれ石の震えるような声が答える。 「今夜だ」と鐘のような声が言う。 「そうか。今夜か」とさざれ石の声が答える。 #六人夜話 (4/8)

2013-01-24 00:23:13
らいら(らいられん) @Lailaren

骨は静かに、眼鏡越しに街灯を見上げている。 街灯が次第に強く光り輝きはじめた。 ぐぐっと力がこもったように、光がひときわ強くなり、そしてドン!と突き上げるように光の束が伸びた。 #六人夜話 (5/8)

2013-01-24 00:23:24
らいら(らいられん) @Lailaren

青い空がはじけた。 闇の森に突風が吹き込んだ。 骨が白く細い両手を高く上げた。 目のない眼窩に歓喜が溢れた。 舌のない口が笑っているように大きく開いた。 突風が骨を粉々に吹き散らした。 #六人夜話 (6/8)

2013-01-24 00:23:38
らいら(らいられん) @Lailaren

さざれ石の声が、風の轟音にまぎれて微かに届いた。 「解き放たれた…自由だ」 森は散り散りに吹き飛ばされて消えた。骨も消えた。 突風の最後のひと吹きが街灯に絡みつき吹き散ると、メガネがことりと根元に落ちた。 周りには月夜の荒野が広がっていた。 #六人夜話 (7/8)

2013-01-24 00:23:50
らいら(らいられん) @Lailaren

月は廃墟を照らしている。 荒野をどこまでも埋める廃墟を照らしている。 荒野の中に、丸く大きな空き地があり、その真ん中に街灯だけが立っていた。 #六人夜話 (8/8-1)

2013-01-24 00:25:18
らいら(らいられん) @Lailaren

街灯が月にささやいた。 「もう一度、始めよう」 街灯の足元に、やわらかな緑が萌え始めていた。 メガネが降り注ぐ光を見上げていた。 #六人夜話 (8/8-2 End)

2013-01-24 00:26:08
実駒/みこま(・×・) @mkm_

【三題噺 1/3】地下鉄の階段を一段飛ばしで駆け上がってきた少女がポンと傘を開き、「あっ」と声を上げる。思わず盗み見ると、傘の骨が一本、折れて垂れ下がっていた。どうしよう…というように足踏みをしてからキッと顔を上げた少女は、今にも雨の中へ飛び出してゆきそうな気配だ。 #六人夜話

2013-01-24 00:32:41
実駒/みこま(・×・) @mkm_

【三題噺 2/3】「待って!」反射的に声をかけていた。ポニーテールを揺らして振り返った少女に、ぐいっと自分の傘を押しつける。「使って。僕は折り畳みを持ってるから」驚いた表情の少女を「急いでいるんだろう?」と促す。小鳥のようにまばたきをした少女が、こくん、とうなずいた。 #六人夜話

2013-01-24 00:33:09