バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #6

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト」 #6

2013-01-30 14:45:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

上から落ちてきた雫が獄の隅の水溜りに撥ね、ピシャリと響く。その断続的なサウンドを聴くともなく聴きながら、アコライトは目を閉じてアグラ・メディテーションしていた。その状態は覚醒しているとも寝ているともいえる。来るべきイクサのために力を蓄え、研ぎ澄ます、重要なカラテ・メソッドだ。 1

2013-01-30 14:56:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その右手首と左足首は短い鎖で繋がれ、自由が奪われている。石造りの地下牢だ。宮殿を新築する際、ガンダルヴァはわざわざこのようなアナクロなものをこしらえたのである。 2

2013-01-30 15:11:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何時間が経過した事だろう?アコライトは己のこの境遇を、過去の修行に重ね合わせた。ニンジャソウルに憑依され、堕落した兄弟子イヴォーカーを滅ぼしたのち、彼は自らを鎖に繋いだ。彼は以前には抱えたことのない衝動に苛まれた。己の力を試したい。敵を探し、戦いたい。壊したい。圧倒したい。 3

2013-01-30 15:12:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あの日聴こえた内なる声はそれきり無く、それが何らかの聖人の霊的な声であったのか、或いは彼に宿ったニンジャソウルの独立自我の片鱗であったのか、調べる術もない。とにかく彼は戦わねばならなかった。己の中に芽生えたニンジャ性とでも言うべきものと! 4

2013-01-30 15:19:12
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ボンジャン・テンプルからさらに山を登ったその先にあるハンセイボウ・マウンテン……繋がれたものの自由と力とボンノを奪うとされるハンセイ・アルケイン・チェインは、聖ボンジャン・シンイチその人が、反省を通して己のカラテを律する為に隕鉄から鍛えたものだとされる。 5

2013-01-30 15:35:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アコライトはボンジャン・ボンズ達の間でさえ伝説迷信の疑いを持たれるその秘蹟に最後の望みをかけた。彼は「反省房」の文字を前にアグラし、空気中の水分だけで命を繋いだ。自らを生死の狭間に追い込み、自問自答を繰り返した。……最終的に彼は克己した。だが、その後の彼も常に不安と共にあった。6

2013-01-30 15:43:36
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この石牢に「反省」の文字は無い。だがこの状況は、あの時の反省試練と地続きだ。未熟、ウカツ、過信がこの状況を生み出し、自らを追い込んだ。片腕を失い、片腕を失った事でカラテを失った。カラテを失ったことで、目的を果たせず、キナコ=サン、ナンシー=サン、そしてジバヌチ=サンにも迷惑を。7

2013-01-30 15:52:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自戒めいて名乗るその名通り、アコライトはいまだボンジャン・ロードの入り口付近で立ち尽くす見習いの身。イヴォーカーの殺戮が本来彼を教え導く筈だった者達を奪い、縋るべき教えは古文書頼り。その修行も常に不安を抱えながらのものである。だが、泣き言はならぬ。これもまた試練なり。反省せよ!8

2013-01-30 16:09:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「拒否のハンマー」を放てぬ事に惑い、あの場を切り抜けられなかったことは最大のウカツである。アコライトはあの場でどうすべきであったか?今の彼には今の彼のカラテが在る筈。なぜ惑った?反省せよ!反省せよ……! 9

2013-01-30 16:17:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……ピシャリ!水滴が首筋を打った。「冷てェ!」デスドレインは伸び上がり、遥か頭上の切り取られた空を見た。「……アー」丸刈りの頭を掻き、首を捻ると、ボキボキと関節が鳴った。「肉が喰いてえよな、肉が」指先から黒い雫が垂れ、地面に落ちると、ひとりでにそれは彼の影へ、体へ這い戻る。 10

2013-01-30 16:23:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今何時だ?つうか、何月何日だッけ?」デスドレインは呟く。「待遇悪ィよな。俺アイツらにゃァ何にもしてねェのによォー……アウオオオーン!」己の遠吠えが谷に反響するさまに耳を傾け、「何もッて事ァねェか?反省反省……反省してンのにさ、ヘヘヘハハ」「……インガオホー、インガオホー」 11

2013-01-30 16:40:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アー……」デスドレインは鼻を啜り、声の方向を見た。粥のスミス?否。足音は無い。陰から這い出てきたのは、蛇だ。デスドレインは蛇に話しかけた。「俺もいよいよキマッてきたかな?スピリチュアルによ……なァ、こっち来いよ」蛇は鶏肉の味がして旨い。そういう話だ。「嫌だね」蛇は答えた。 12

2013-01-30 16:47:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マジで喋ってンのか?お前」「ああ喋ってるぜ。残念だけどアンタのサイケデリック体験ってわけじゃ無いんだよね」蛇はチロチロと舌を出した。「俺、賢い蛇なんだ……」決して一定の圏内には近寄ってこようとしない。「ナメてンのか?」デスドレインは目を細めた。 13

2013-01-30 16:51:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まさか!アンタまだまだ危険だもの」蛇は答えた。デスドレインは唾を吐きかけた。蛇はするりと躱し、少し遠ざかった。「蛇じゃねえなら……これ外せるか?お前」デスドレインは枷を振ってみせた。「お前ニンジャだろ?」「アタリだけど、殺されちまうから嫌だね」「一生恩にきるぜ。マジだ」 14

2013-01-30 17:08:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……イヒヒヒヒ」蛇は笑った「真顔で嘘を吐くンだからな……」「わかってンじゃねえか」デスドレインは後頭部を岩壁にガンガンとぶつけた。「じゃあ何しに来やがった?」「アンタが実際どうなのか、話してみたくてさ……」「オゲェー」デスドレインはゲップをした。「じゃあこれ、外せッて」 15

2013-01-30 17:18:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

蛇はデスドレインを見た。「枷を外して、山を降りたらさァ……いっぱい殺すんだろ?」「ああ、ああ、そンで?」デスドレインは欠伸をした。蛇は続けた。「アンタ、キョートが無茶苦茶になったとき、暴れたろォ……楽しかったかい?スカッとしたのかい?なあ」デスドレインの眉間に血管が浮いた。16

2013-01-30 17:42:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で?」「そんなに、こう、ほら……グッと来なかったんじゃない?」蛇は言った。その目が怪しく光った。「俺は思うんだけど、人生、張り合いが必要じゃねえかな……いずれ自分に対する義務みたいになっちまってさ、やれる事も拡がらねえし、アンタきっと、あッぶね!」黒いヘドロが撥ねる!17

2013-01-30 18:08:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

思いのほか遠くまで伸びた暗黒物質を、蛇は高く飛んで避けた。その姿は蛇からフクロウに変わったが、二度三度羽ばたくと、また蛇に戻り、離れた場所へ降りた。「で、まあ、アンタがその気なら、俺らとうまくやれるかなッて……訊いてみようかなとね。思ってね……ここを出て俺らと……ヒヒヒ……」18

2013-01-30 18:24:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいぜ」デスドレインは言った。そして枷を鳴らした。「外してくれ。下にゃシケたビビリのボンズがいるからよ、そいつをいたぶり殺して、それからバッファローのステーキをよ……」「イヒヒヒヒ」蛇は再び姿を変えた。長い黒髪の、痩せた男だ。「名前言えよ」「ドーモ。フィルギアです」 19

2013-01-30 18:30:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はよォ、デスドレインだ。知ってンだろ、その様子じゃ」「うん」デスドレインは枷を差し上げた。フィルギアは手を伸ばしかけ……引っ込めた。デスドレインの影から黒い触手が七つ伸び、宙を噛んだ。一瞬前までフィルギアの手があった場所だ。「……イヒヒヒヒ」フィルギアは歯を見せて笑った。20

2013-01-30 18:35:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヘヘヘヘヘ」「ヒヒヒヒヒ」フィルギアとデスドレインは互いに肩を揺すって笑った。「決裂かァ……残念半分、ホッとしたのが半分……試してみたかっただけだからさ……」とフィルギア。「でも、アンタは仲間が欲しいと思ったんだがな」「テメエのクソでも食ってろ」 21

2013-01-30 18:43:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スミスが粥を持ち、毒づきながら訪れたのは、それから一時間程経っての事だ。「ワッザ」彼は足を止め、地面に落ちている羽根を見た。「鳥?」「帰った」デスドレインが呟き、スミスを見た。「で、シケたビビリのボンズ野郎が来やがった」「ワッザ?」「飯置いてけ」 22

2013-01-30 19:07:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

没薬を含んだ暖かい湯気が、金の浴槽の輝き、果樹の艶やかな緑を、夢幻めいて霞ませる。闇カネモチ達が両脇に奉仕オイランを侍らせ、各々の浴槽でくつろぐなか、巨大なドラが鳴らされると、ヴェールの奥からガンダルヴァが優雅に現れ出た。 24

2013-01-30 20:42:30
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