初恋＠スザル ル

サトリ💚💜🌻 @satori_hdk_fmkg

@yanagi_itsuka (1)ファーストキスは何の味がするか。誰が最初に言い出したのか知らないが、気付けば友人たちが面白そうに話していた。ルルーシュは居眠りをしているふりをして会話に加わらなかった。答えたくなかったからじゃない。答えを聞きたくなかったからだ。彼の答えを。

やなぎ😕😕😕 @yanagi_itsuka

@satori_hdk_fmkg (2)そうだ。『彼』――枢木スザク。男である彼に、男である自分が恋をしているなんておかしいのかもしれない。だが、噛みしめる様に彼へと抱いている気持ちを論理的、理性的に解釈しても最終的には此処に落ち着く。一般的には『甘酸っぱい』と称される気持ちに。

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@yanagi_itsuka (3)それを自覚したのがいつなのかは朧げだ。ただ、幼い頃からずっと一緒でこの先もそうなのだろうと漠然と考えていたから、「ルルーシュはどこの高校に行くの？」と訊かれたときは衝撃を受けたのだ。自分と彼の道がいつか別れるかもしれないことに気付いて。

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@satori_hdk_fmkg (4)思えば自分と彼は正反対の性格をしている。そもそも彼は運動が得意で、直感的に動いてしまう方で、明るく能天気で……『あの事故』が無ければ、彼は自分の傍からとっくに離れて行ってしまっていたのだと思っている。

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@yanagi_itsuka (5)「スザクのファーストキスはどんな味だったんだよ。っていうか、もちろんもうしてるよな？」過去に飛んでいた意識が一気に現実へと戻る。答えるな。訊きたくない。「うーん、それはノーコメント」そんな願いが届いたのか、スザクの曖昧に笑う声が耳に届いた。

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@satori_hdk_fmkg (6)「じゃあさ、ルルー……って何だ、寝てるのか」「疲れてるんだよ。最近忙しそうだから」小さく空気が震え、彼が吐息だけで笑ったのだと分かる。机に突っ伏し息を殺していたルルーシュの頭に、柔らかく載せられる大きな手。「放っておいてあげようよ」

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@yanagi_itsuka (7)この手は昔から変わらない。どんなときも自分を守ってくれた。喧嘩ももちろんしたけれど、スザクはいつも強くて優しくて、だから自分はスザクを好きになったのだ。だからスザクのファーストキスの話なんか聞きたくない。自分以外の誰かとのキスの話なんか。

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@satori_hdk_fmkg (8)「なら俺達は退散するか」「スザクを怒らせると後がこえーしな」そんな言葉を残し、クラスメイト達はその場を離れていった。良かった、これでもう続きを聞く事はない。胸を撫で下ろしたルルーシュの背筋が、凍る。「…起きてるんだろルルーシュ。知ってるよ」

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@yanagi_itsuka (9)ここで粘っても仕方ないと、ルルーシュは渋々起き上がった。さすがは幼馴染と言うべきか。「気付いていたのか」「気付いていないと思ったの？」「さあ」寝たふりをしているからわざとファーストキスの話題を避けてくれた、と考えるのは都合が良すぎるだろうか。

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@satori_hdk_fmkg (10)「ねえ、ルルーシュ」彼はにこにこと笑みを浮かべながら、しゃがみ込んでルルーシュの突っ伏した机に顎を載せる。くりくりと大きな新緑色の瞳は悪戯っ子のように輝いていた。「問題だよ。僕はどうして答えなかったんだと思う？」

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@yanagi_itsuka (11)しかしその質問に再び凍り付く。一難去ってまた一難。「俺はお前じゃないんだ、わかるはずがない」「だから問題なんだよ」それを俺に答えさせてどうする。無邪気な笑みに思わず叫びたい衝動を堪えた。「…いまだ彼女の一人もいない幼馴染を不憫に思ったから？」

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@satori_hdk_fmkg (12)「ふびん…？」よりにもよって何故彼はそこを繰り返すのだろう。今更としか思えない事実をわざわざ口に出させることで辱めようとしているのか。憤るルルーシュに向かって彼は肩を竦める。「やだなルルーシュ。君ほど幸せな高校生はこの世に居ないと思うよ」

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@yanagi_itsuka (13)スザクのことは好きだ。優しくて明るいのは長所だし、能天気過ぎるのはどうかと思うが欠点ではないし、体力馬鹿なところも愛すべき部分だと思っている。ただ、ときどき口にする天然発言だけは直してもらいたい。「意味がさっぱりわからない。俺のどこが幸せだ」

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@satori_hdk_fmkg (14)「幸せなんだよ」「幸せじゃない」一体何が彼の自信に繋がっているのか分からないが、彼は念を押すように語りかける。立ち上がり隣の席から椅子を引きずってきた彼は、ルルーシュの隣に椅子を置きどっかりと腰かける。「そう。幸せじゃないんだ？」

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@yanagi_itsuka (15)「いや、別に不幸せというわけでもないが…」迫るスザクの顔がなんだか怖かった。笑っているのに目の奥が笑っていない。「じゃあ最初の質問に答えてあげようか？それともルルーシュが答える？今はもう誰もいないからさ」「え？」「ファーストキスは何の味？」

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@satori_hdk_fmkg (16)「や…っ、めろ…！」思わず彼と距離を取ろうと腰を浮かせたが、伸びてきた手にガッチリと手首を掴まれてしまう。逃げ場がない状況で、彼の唇が言葉を紡ごうと開く。嫌だ。聞きたくないんだ。お前の恋愛経験なんて。

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@yanagi_itsuka (17)「どうして逃げるの？」「お前は…っ、俺を追い詰めるのがそんなに楽しいのか？」最低だ。最悪だ。スザクなんて大嫌いだ。震える唇を噛み締める。「駄目だよ、傷になる」「俺に触るな！」伸びてきた手を思わず振り払った。知らない誰かを触った手で俺に触るな。

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@satori_hdk_fmkg (18)振り払われた手を何てことなさそうに見下ろし、スザクは苦笑する。ちらりと彼の袖口の奥に見える包帯に罪悪感が募る。だが。「あーあ。本当に馬鹿だな、ルルーシュ」侮蔑の言葉は、まるで駄々をこねる子供に言い聞かせているような響きだった。

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@yanagi_itsuka (19)「馬鹿はお前だ！」「…確かに、僕も馬鹿か」急に落ちたトーンにルルーシュは眉を寄せた。「打算とかそういうものがあったわけじゃないけど、ゼロだったかと言えば嘘になるし、でも君を縛り付けたかったわけでもないし」「何を言って…」

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@satori_hdk_fmkg (20)「傷なんて本当は無かったんだって言ったら、君は怒るかい？」「…は？」苦笑したスザクは制服の腕を捲り、何のためらいもなく包帯を解いていく。「馬鹿な！そこには、俺を庇って出来た事故の傷が…」「嘘だよ」

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@yanagi_itsuka (21)ルルーシュはぽかんと口を開けた。「だから言っただろ、僕も馬鹿だって」「どう、して」「なんて答えたら君は満足？」「質問に質問を返すな」唖然としたりムッとしたり、今の自分はなんて忙しいのだろう。「だったら順に答えてあげる」

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@satori_hdk_fmkg (22)組んだ膝の上に頬杖を突き、スザクは歌うように語り始める。「まず一つ目…いや、二つかな。僕は君を騙している。一つ目はこの通り、消えた傷をあたかも痕が残っていたかのように振る舞っていたこと。もう一つは、分かるかい？」

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@yanagi_itsuka (23)「わかるか」憮然として言えば、スザクが笑みを深めた。「僕は知らないよ、ファーストキスの味なんか」「は？」まさかここでその話が出てくるとは思わず、ルルーシュは目を瞠った。「だからキスをしたことがあるかどうかについてもノーコメントだったわけ」

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@satori_hdk_fmkg (24)悪戯が成功したような楽しげな笑顔で、スザクは続ける。「で、最後。君が世界一幸せな理由」「…なんだ」「それはね」にこにこにこ。笑みを深めた彼のまっさらな手がルルーシュの顎に伸びる。「初恋って一般的には叶わないっていうじゃないか」

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@yanagi_itsuka (25)新緑の瞳に自分の顔が映るのが見えた。「でもルルーシュは叶ったから幸せだね、ってこと」「だから意味が…」「まだ説明が必要？」だって思わせぶりな言葉と態度だけではわからない。「じゃあためしてみる？ファーストキスが何の味か」