モータードリヴン・ブルース #5
彼が自信に満ちた動作でキーをタイプすると、モニタは悪魔的巨大機械のワイヤーフレーム3Dモデルからガレージ壁面の説明図に似た表示に切り替わった。脈打つ管と、「データ33パーセント達成な」のミンチョ文字。さらにタイプすると、ネオサイタマ南東の港湾部と思しき地図が映った。 1
2013-04-08 17:18:38「お前は!何も心配する事はない」彼は何らかの疑義を予期でもしたのか、食い気味にチーフに話しかけた。「投資のアテはあるんだ。すごいマネーが入ってくる。すごいプロジェクトなんだ」「ハイ」チーフは頷いた。彼は続けた「マネーが入ればあっという間に建造可能だ。オムラは……お前達は優秀だ」2
2013-04-08 17:24:46「そのう……」「非常にクリティカルなマターなんだ。お前に全貌を明かせないのを残念に思う。だが、これは実際ギリギリだ。わかるか?」「ハイ」「納得できないだろうな。だが、わかってほしい。モーターサスガ達の戦闘行為には単なるデータ取得以上の意味がある」「エッ?」チーフが眉を上げた。 3
2013-04-08 17:31:24「プレゼンテーションだ」彼は厳かに言った。「クライアントは……注意深く見守っている。我々が期待に応えられるかどうかを。我々のオムラ性を!緒戦はいわば、来たるモーターオムラが信頼に足る破壊存在であるかどうか……データ取得と同時にその破壊行為はプレゼンテーションなのだ!彼らへの!」4
2013-04-08 17:38:06チーフは頷いた。「よくわかります」「不安になるのは仕方ない。だが、このガレージ。そして建造費。それらビッグバジェットが実際もたらされているわけだ。それを忘れるな」「ハイ」「彼らの信頼の証だ。その信頼に応えればさらなる信頼だ。つまり100倍だ。万事うまくゆく」「勿論です!」 5
2013-04-08 17:44:40モニタ上では近海上のある一点にX印が点滅。矢印がそこから港湾部へ向かうアニメーションには不吉なアトモスフィアがあった。悪魔的計画のアトモスフィアが。彼はさらにキーを叩く。湾岸地図が消え、ネオサイタマ全体地図が。数カ所に点滅するマーカーが現れる。チーフの目が厳かな決意に光る……。6
2013-04-08 18:09:22「グワーッ!」スコーチャーは絶叫した。頭から浴びせかけられた冷水が、損傷したサイバネ部位に入り込み、火花を散らした。「グ、グワーッ!」彼は暴れようとした。だが、無理だった。手足をワイヤーで縛られ、殺風景な一室に転がされている己を見出した。彼は見上げた……赤黒のニンジャを。 8
2013-04-08 22:31:13「ここ……ここは」スコーチャーは呻いた。「知る必要は無い。貴様は死ぬからだ」ニンジャスレイヤーは簡潔に答えた。「だが、教えてやろう。そこらの廃ビルだ」「ウヌ……アバッ……」スコーチャーは震えた。サイバネ部位がスパークする。さきのイクサで受けた傷はそもそも致命傷に近いのだ。 9
2013-04-08 22:37:39「前提として、貴様を殺す」ニンジャスレイヤーは言った。「その上で、選べ。苦しんで死ぬか、あるいはハイクを詠みカイシャクをもってセンシとして死ぬかだ」その目に嗜虐や慢心の色は無く、無感情で、厳粛ですらあった。琵琶湖の闇を思わせた。スコーチャーは絶望した。 10
2013-04-08 22:45:05「俺は決して吐かぬぞ。ニンジャの誇りがある」スコーチャーは呻いた。「イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャスレイヤーはスコーチャーの右脛を踏み砕いた。脚部はサイバネ化されており、血の代わりに青黒いオイルが噴き出した。「アバーッ!アバーッ!」スコーチャーは床をのたうつ。 11
2013-04-08 22:53:34「アバーッ!やめてくれ……何を……何を知りたいというのだ。何が目的だ」スコーチャーは呻いた。「……モーターサスガ」ニンジャスレイヤーは言った。「オヌシがオムラのニンジャである事はすぐにわかった。モーティマー・オムラと何を企んでいる」「言……」「イヤーッ!」「アバーッ!」 12
2013-04-08 23:02:29両脚から青黒いオイルを噴き出し、スコーチャーがのたうつ。「狂人め!何故こんな真似を!何の恨みがある!何の面識も……アバッ、無い筈だ」「これは命のやり取りだ」ニンジャスレイヤーは無慈悲に言った。「私の行動の是非善悪、妥当か否かを議論する場ではない。ジゴクでやれ」「アバーッ!」 13
2013-04-08 23:15:40「……」のたうつスコーチャーを見下ろすニンジャスレイヤーは、頚動脈近くのインプラントを発見した。親指の爪大のシリコンカバーを剥がし、ICカードを抜いた。「追って解析する」「アバーッ!」ICインプラントはオムラのニンジャに共通する特徴だ。彼らは技術改善の為のライフログを残す。14
2013-04-08 23:22:37当然、データにはプロテクト処理が施されており、解析には時間を要する。「これは保険だ」ニンジャスレイヤーは言った。「逆に言えば、オヌシがここで粘ろうが、多少こちらの面倒が増えるだけだ。速やかに話せ」ブラフだ。スコーチャーは朦朧としながら考える。ログから得られる情報は限定的。 15
2013-04-08 23:30:28スコーチャーは微弱なノイズ信号を発し続けている。「オムラ社」はそれを拾い、遅かれ早かれ何らかの異常に気づくだろう。生き残れずとも、警告はできる。耐えるのだ。「社屋」の場所は最大コンフィデンシャルだ。ログからは解析できまい。そしてモーティマーの監視についても。「監視?」 16
2013-04-08 23:39:48「アバッ」スコーチャーは涎を垂らした。彼の意識は混濁していた。そう、監視だ。そうして、モーティマー・オムラに辿り着いた者を殺す……オムラ社の秘密は護られる……再興……オムラ再興……「そのためにモーターサスガのツジギリは何の役割を果たす」 17
2013-04-08 23:51:05ツジギリ?なんとせせこましく愚かな誤りか。スコーチャーは思考パルスを彷徨わす。全身の、ニューロンの損壊はもはや取り返しのつかぬ域だ。痛めつけられた彼の意識は死に向かって落ちていく。譫言を呟き続ける彼の脊髄を踵で抉るように踏みにじりながら、ニンジャスレイヤーは見下ろす。 18
2013-04-09 00:05:01「アバッ」「……」「アバッ」「……」ニンジャスレイヤーは足をどけた。センコ花火の散り際じみたスパークを最期に発し、スコーチャーは動かなくなった。ニンジャスレイヤーはICを懐におさめ、踵を返して部屋を去った。歪んだ鉄扉が後ろ手に閉じられると、生者のない狭い部屋に全き闇が訪れた。19
2013-04-09 00:12:32「アバッ」「……」「アバッ」「……」ニンジャスレイヤーは足をどけた。センコ花火の散り際じみたスパークを最期に発し、スコーチャーは動かなくなった。ニンジャスレイヤーはICを懐におさめ、踵を返して部屋を去った。歪んだ鉄扉が後ろ手に閉じられると、生者のない狭い部屋に全き闇が訪れた。19
2013-04-12 14:31:44「ちょっと、ダメ!いけませんシンゴ=サン」「いいじゃねえか。いいじゃねえか」「ダメですよ……!」「だってお前、もうこんなだぜ」「いけません!」ナースが必死に止めるが、シンゴは構わず、目的を完遂してしまった。「アーッ!」 21
2013-04-12 14:42:58