白石一文『翼』ツイッター連載小説

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－44 彼はただ私と共に生き、私と共に死にたかっただけなのだ。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－45 　どうして私はそんな簡単なことを受け入れてあげなかったのだろう。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－46 　彼の生き方を軽くあしらい、ないがしろにし、最後には「僕は自分に絶望した」と言わしめるほどに追い詰めて、なぜ、私は彼を見殺しにしてしまわねばならなかったのだろう。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－47 　私は私を最も深く理解してくれる人を失くしたのではなかった。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－48 　私はこの世界で最も深く愛してくれた人を失くしたのだ。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－49 　これこそが、私自身の消滅、生きながらの死ではないのか。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－50 　私の孤独は、私ではなく、愛する人を殺した。私の孤独は、そうやってまさしく、この私自身をたったいま殺したのだ。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－51 　突然、ズドーンと鉄砲でも撃ったような大きな音が立った。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－52 　水鳥たちがすさまじい羽音を立てて一斉に飛び上がる。たくさんの池の雫（しずく）が鳥たちの翼下で散っていた。明るい光線を反射してきらきらと光っている。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－53 　私は飛び去っていく鳥たちを目で追いかけた。やがて一羽も見えなくなると、今度は音の所在を見極めようとあたりを見回した。

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　30－54 　だが、それが一体何の音で、どこから聞こえてきたのか、皆目見当もつかないのだった。 ＜完＞

白石一文『翼』（鉄筆渡辺浩章） @kounoeakira

翼　つばさ 初出・「鉄筆」（光文社　書店販促　通信　平成二三年三月一日号～五月一日号） 二〇一一年六月二十五日　初版一刷発行 著者＊白石一文 発行者＊烏山公夫 発行所＊株式会社　光文社 ⒸKazufumi Shiraishi 2011