高橋お伝のベッケンタイル

処刑された高橋お伝の陰部の標本が存在する―。『毒婦伝説―高橋お伝とエリート軍医たち』という本がこの四月に出たことに触発され、手元に集めていたこの秘話にまつわる資料を整理してみました。今のところ、ネットで読める一番詳しいテキストではないかと。
5
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・5】帝大の全学大懇親会、全学公開では件の標本のみならず、「桂公や山憲の脳のアルコールづけ」やちょんまげの残る武士の死蝋、皮膚病の蝋製模型等「門外不出の珍品にグロ氣タツプリ」(『帝国大学新聞』昭和7年5月2日付)の展示に例年来場者が列をなしたという。

2013-05-12 02:12:53
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・6】しかし、こうした「門外不出の珍品にグロ氣タツプリ」な内容を含む医学系展示の開催はなにも帝大に限らない。「衛生博覧会」「衛生展覧会」などとも呼ばれ、戦前から各地で何度も開かれた。「怖いもの見たさ」の人気はやはり根強いものがあると言えるだろう。

2013-05-12 02:40:30
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・7】著名人の標本はグロさにゴシップ性も加わる。お伝の標本はある種、花形スターの一つだった節がある。「(大正博)第二会場前二六新報主催の衛生館は…特別室が出来て大隈伯の片脚や、桂公の髑髏、高橋おでんの局部等も並ぶ筈」(東京朝日大正3年3月24日付)。

2013-05-12 03:31:10
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・8】こうして眺めると、戦後の浅草松屋への出展は突然起きた事件ではなく、戦前の衛生博覧会・衛生展覧会の延長線上にあったことがわかる。

2013-05-12 03:43:04
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・9】昭和31年の「”高橋お伝”の下腹部あらわる」事件で標本の持主として名乗り出た元軍医の二木秀雄。彼は『素粒子堂雑記』という随筆を出している。素粒子堂は彼が銀座に開いた診療所の名前である。この本に収められた昭和24年9月の文章に次の一節がある。

2013-05-13 20:55:54
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・10】「七月から九月にかけて、私の主催している綜合科学研究会は大阪の阪急百貨店、東京では銀座三越と浅草松屋で「性生活展覧会」を開催した」。やはり、件の標本が出現した浅草松屋の展覧会の裏には二木秀雄がいた訳である。阪急、三越での開催も明言している。

2013-05-13 21:05:42
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・11】埋もれた資料は多々あると思うが、伝説に相応しいものを最後に一つ。「文化人の性科学雑誌」と銘打った『人間探求』という雑誌がある。古今東西の性風俗ネタをあれもこれもと詰め込んだ、戦後間もない時期の雑誌である。さて、昭和26年8月に出た第15号。

2013-05-13 21:27:50
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・12】「(性風俗写真展望)宮城前広場」等の記事も目を引くが、ここに比企雄三「高橋お伝秘録 陰部の酒精漬」という記事が収録されている。二段組11ページに及ぶルポである。他の資料と一線を画すとすれば、かの清野博士その人に秘話を直接伺ったという点だろう。

2013-05-13 21:34:54
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・13】気になるのは次の一節である。誰の所感か明らかでないのが惜しいが、「謎のヴェイルに包まれ」た件の標本、「奇怪にも現存のものは、昭和六年当時の標本とはどうも違うのである。「××××展覧会」などゝ称して、各地を持ちまわつているのも、その類らしい」。

2013-05-13 21:48:27
松崎貴之 @gelcyz

【続・高橋お伝のベッケンタイル・14完】比企雄三の「陰部の酒精漬」が『人間探求』に載ったのが昭和26年。二木秀雄が各地で性生活展覧会を開いたのが昭和24年。お伝の処刑から約70年、人々はかの標本を弄び続けたのか、かの標本に弄ばれ続けたのか。奇怪な標本にまつわる秘話である。

2013-05-13 22:03:14
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・1】先に書き散らした「高橋お伝のベッケンタイル」bit.ly/16wPXaRにまつわる文献狩猟について。もっとこんな探し方があるのでは?という声をお聞きしたくm(__)m 手元のノートによれば08年に集中して文献を探していた模様。

2013-05-18 00:55:56
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・2】08年のメモと記憶を頼りに。俗っぽいテーマで雑誌記事を幅広く探すには『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』は欠かせない。私は冊子版を使った。ズバリ「高橋お伝」を引くと、重要な高田忠良翁の「高橋お伝の死体解剖に立会つた私」が存外簡単に見つかる。

2013-05-18 01:06:40
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・3】高田翁のこの懐古録が載る雑誌『話』1937年1月号は国会図書館になく、08年当時は大宅壮一文庫に出向きコピーを入手した。『総目録』で目星をつけた記事を読み潰し、見つけたもう一つの重要文献が藤本義一「旅するホト」週刊大衆1998年11月23日。

2013-05-18 01:17:10
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・4】これは放送作家・藤本義一氏の連載「広しこの世は…けったいな人たち」の第289回で、丸々件の標本の話をしている。作詞家・西沢爽氏による調査結果として、清野「阿伝陰部考」、浅草松屋での展示、昭和31年の標本発見事件、ここでいずれも紹介されている。

2013-05-18 01:28:17
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・5】つまり、最初に『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』を引くと、高田翁の懐古録、清野謙次の観察記録「阿伝陰部考」、浅草松屋の展示、昭和31年の標本発見事件という『毒婦伝説』の骨格となっている話は文献調査上は意外に簡単に出揃ってしまうのだ。

2013-05-18 01:35:54
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・1】昭和31年5月4日付『日本観光新聞』、「死体解剖者が二人/高橋お伝のアルコール漬」。二木秀雄の手から標本が流出した事件に乗じたこの記事中「お伝は警視庁第五病院で解剖」説に対し、解剖は自分の先々代田代基徳が行ったとする台東区の医師の談が載っている。

2018-01-20 23:25:23
松崎貴之 @gelcyz

【続続・高橋お伝のベッケンタイル・2】氏によれば、自分が幼少の頃、田代家で医学を学ぶ「医学生のタマゴ達」が「これなんだかわかるかい、お伝という美人の大切なものサ」と称したアルコール漬けがあった記憶があり、のちに陸軍学校に他の標本と一緒に進呈、東大に保存されたとの噂を聞いたという。

2018-01-20 23:34:21