祖父の語るところによると

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OGAWA Kandai @grossherzigkeit

「偉大な先人たちは、こんなだらけた日本をつくるために戦い、死んでいったんではない」みたいな言説があるけど、そういう危機の時代で祖国のために身を挺した先人が一番つくりたかったのは、それこそ「鼓腹撃壌」の世ですよ。

2013-07-15 10:08:57
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

夏本番となって、またメディアなどで「あの戦争を忘れるな」的な企画が組まれる季節になってきたなあ。ただ気付けば当方の親族間に、戦争の記憶を語れる人はめっきり減ってしまった。

2013-07-19 09:12:33
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

父方の祖父は旧制中学を出て製鉄所の技工をしていた、まあ当時ではインテリの部類に入れてもいい階層だったが、それが徴兵でニューギニアに放り込まれて地獄を見て、戦後は一貫して日本社会党支持だった。アカでも革命家でもなく、ひたすら忠実な「戦後民主主義」の信奉者として戦後を生きた人だった。

2013-07-19 09:15:16
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

母方の祖父は、そう裕福でもない農家に生まれた人で、そういう生活が嫌で陸軍の志願で入った人だった。戦争中はずっと満州にいて、ソ連侵攻直前に内地に呼び戻された幸運な人で、つまりずっと軍隊にいたんだが「戦闘経験」はゼロに等しいという人だった。

2013-07-19 09:18:09
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

しかしその祖父の妻、つまり祖母は陸軍の看護婦として南方で弾雨をかいくぐったような人で、つまり夫よりも妻の方が「赫々たる武勲」があるという、珍しい夫婦だったんだな。祖父は恩給をもらえなかったが祖母には出ていて、そういう意味でも祖母の方が「歴戦の勇士」だった。

2013-07-19 09:20:40
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

「人も嫌がる軍隊に志願で来るようなバカもある」という歌を当方が最初に認識したのは、祖父母が何かのことでケンカをした際に、祖母が祖父を罵倒するために歌う歌、という形でのものだった。ただ「戦闘経験」は祖母の方が豊富であり、祖父は何も言い返せないのが常だった。

2013-07-19 09:25:00
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

そういう形で、母方の祖父は「軍隊経験」こそあれ、周囲の「歴戦の勇士」たちの前でその経歴は非常に見劣りがするものだったため、戦争時の記憶というものをしゃべったことがほとんどない。ただ何の因果か、最後に残った健在の人はその祖父である。当方は先日、ほぼ初めてその祖父の戦争体験を聞いた。

2013-07-19 09:28:39
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

祖父いわく、「あの戦争を引き起こしたのは『会社』だ」と言うんだよ。軍閥でも国家主義者でも革新官僚でもなく、「会社」が戦争の原因をつくったのだと。

2013-07-19 09:31:00
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

祖父は大正のほとんど終わりに生まれた人だったが、少年時代まで身近にある仕事といえば、第一産業か「あきんど」レベルの商家しかなかったと。しかしそれが10代に入るころから「会社」というものが現れ、「サラリーマン」なるものが出現したと。これによる世の変化には凄いものがあったらしい。

2013-07-19 09:34:13
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

そして祖父の実感として、その「会社」なる新しい経済的存在は、「戦争をすればするほど儲かる仕組みになっていた」ということだった。それでどんどん「会社」が増えていく中で「会社」は国家に戦争を要求し、それで対米戦にまでなだれ込んだと、それが祖父の「史観」なんだな。

2013-07-19 09:36:27
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

祖父の語る「開戦原因」には、本当に軍閥も国家主義者も革新官僚も日独伊三国同盟も出てこない。「会社」こそが昭和一桁ごろに日本社会を劇的に変化させ、戦争を希求した存在だったと言うわけ。

2013-07-19 09:38:37
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

そして一般的な「歴史」では、日本は昭和20年の敗戦によって姿を大きく変えたとされているが、祖父は全然それは違うと言う。昭和極初期に「会社」「サラリーマン」が登場した時が最も日本が変わった瞬間であり、GHQによる改革もその延長線上に過ぎず、敗戦による大きな変化はなかったと言うんだ。

2013-07-19 09:41:19
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

繰り返すが、祖父は軍隊にはいたが「戦闘」はほとんど経験したことがない人で、ある意味当時の日本人の中で一番安閑と暮らすことができた人である。死地を見たこもなく、米軍の強大さに圧倒されたこともない。満州で穏やかに暮らしていて、気付いたら戦争が終わっていたという、非常に幸せな人である。

2013-07-19 09:44:54
OGAWA Kandai @grossherzigkeit

そういう、「穏やかに戦争を過ごすことができた人」から見れば、巷間言われる「悲惨な戦争と戦後の改革」はまったく違って見えるらしいという意味で何か新鮮だった。繰り返すが祖父に「戦闘経験」はほぼない。しかしそれでも、祖父のこの雑感は一つの「戦記」と言っていいもののように思う次第である。

2013-07-19 09:48:52